6歳編・第5話:畑に咲いたドジと笑顔
マナビーンズ――通称“神の豆”が芽吹いてから、数週間。
村の畑は少しずつ姿を変え始めていた。
「……すごい。本当に、全部の作物が元気になってる」
リオンが驚くのも無理はない。
葉は濃く、実は丸く、今まで見たことがないほど健康的だ。
畑の土には生き物の気配が戻り、虫や鳥が舞っている。
父・ダリウスは鍬を握りながら笑った。
「リオン、お前の豆は本物だったな。村の連中も驚いてたぞ」
「うん。でも、まだ油断できない。魔力の流れを安定させないと、逆に枯れることもある」
リオンは膝をつき、芽の根元に手をかざす。
青白い魔法陣が浮かび上がり、微細な調整が始まる。
――この作業は、まるで前世のプログラミングのようだった。
(安定制御。出力を均一化。魔力の流れをシミュレートして――)
ピィが肩に乗り、ふよふよと揺れる。
「ぴぃ~(むずかしい顔してる)」
「うん、でも楽しいよ。生き物と対話してるみたいだ」
◆1.“リオン畑”と呼ばれる日
昼過ぎ。
村人たちが次々とやってきた。
「おい、リオン坊! この豆の種、分けてくれねぇか?」
「うちの畑にも植えてみたい!」
「リオン様、どうかウチの畑もお願いしやす!」
“リオン様”――。
その呼び方に、リオンは思わず吹き出した。
「やめてよ、“様”なんて! ぼくはただの子どもだよ!」
村人たちは笑いながらも、目は真剣だった。
この村では長く続いた不作の影響で、冬を越せるかどうかが毎年の賭けだった。
それが、今は畑に“希望”が芽吹いている。
「お前がいなきゃ、みんな腹を空かせてた。だから……ありがとうな、リオン」
父がそう言って、リオンの肩を叩いた。
その温もりに、胸がじんわりと熱くなる。
(……“ありがとう”って言われるの、こんなに嬉しいんだ)
前世では、誰にも感謝されなかった。
ただ効率だけを求め、成果を出すことだけが目的だった。
でも今は違う。
“人のために動く”ことが、こんなにも心を満たす。
◆2.小さなトラブル、大きな笑顔
ところが、翌日。
事件は起きた。
「リオーン! たいへん!」
リリィの叫び声で、リオンは飛び起きた。
畑へ駆けつけると――
なんと、豆の木が畑一面を覆い尽くしていた!
つるが絡まり、他の作物を飲み込み、畑全体が“緑の迷宮”と化していたのだ。
「……やっちゃったぁぁぁぁ!!」
リオンは頭を抱えた。
「制御がうまくいってなかったんだ! 魔力を吸いすぎて暴走してる!」
父ダリウスは苦笑しながらも鍬を構えた。
「仕方ねぇ。刈り取るしかないな」
「まって! 下手に切ると、魔力が逆流するかも!」
ピィが必死に回りながら鳴く。
「ぴぃぴぃぴぃ!(あぶないあぶない!)」
「……こうなったら、ぼくがやるしかない」
リオンは深呼吸をして、両手を地面につけた。
「創造魔法――《マナ・リバース》!」
青白い光が畑全体に走り、豆のつるが一斉にしなだれる。
風が静まり、魔力の波が収束していく。
数秒後――
豆の木はまるで眠るようにおとなしくなり、再び正常な成長に戻った。
「や、やった……成功した!」
リリィがぱちぱちと手を叩く。
「おにいちゃん、かっこいい!」
ダリウスも笑いながら息をついた。
「お前、ほんとにすげぇな……。失敗しても、それをちゃんと“直せる”んだな」
リオンは照れくさそうに笑った。
「うん、でも……正直、ちょっと怖かった」
「怖がるのは悪くねぇ。怖がれる奴は、ちゃんと責任を持ってるってことだ」
父のその言葉に、リオンは心の中で何度もうなずいた。
◆3.畑の宴
その夜。
村では急遽“リオン畑の収穫祭”が開かれた。
「リオンの豆で作ったスープだぞー!」
「このパン、いつもの倍ふっくらしてる!」
「おいしい! まるで祝福の味だ!」
人々の笑い声が絶えない。
リオンはその真ん中で、照れくさそうにスープを啜った。
リリィが口の端にスープをつけながら言う。
「おにいちゃんのまほう、すごいね! みんな、えがお!」
「……うん。みんなが笑ってるなら、それでいい」
夜空には満天の星。
リオンは小さく呟いた。
(俺はもう、“作るだけ”の人間じゃない。
誰かを笑顔にするために、作りたいんだ)
風がやさしく吹き抜けた。
畑の豆の花が光を放ち、村全体が淡い金色に包まれる。
それはまるで、神様が祝福を降ろしているかのようだった。
◆4.そして、次なる夢へ
祭りのあと。
リオンは父と並んで畑を見つめていた。
「……なぁ、父さん」
「ん?」
「この畑を、もっと広げたい。村全体が食べ物に困らないように」
ダリウスはしばらく黙ってから、優しく笑った。
「いい夢だ。リオンなら、きっとできる」
その言葉に、リオンの胸の奥が温かくなる。
小さな手を握りしめ、心の中で誓う。
――次は、村全体を救う“魔法の畑”を作る。
そして、それはやがて“国を変える奇跡”へとつながっていく。
魔法の畑の成功が、村に希望をもたらした。
だが、噂はやがて隣町へ、そして貴族の耳へと届く――。
リオンの力を狙う者、そして彼の“創造魔法”を奪おうとする影。
次回、「訪問者 ― 村に来た男」。
平和な日々が、ゆっくりと波紋を広げていく――。




