6歳編・第4話:父の畑と、魔法の種
朝露が降りた畑に、鳥たちの鳴き声が響く。
リオンは父・ダリウスの後を追って畑に向かっていた。
「おいリオン、ついてくるのはいいが、足元に気をつけろよ」
「うん。今日はお手伝いしたいんだ」
ダリウスが笑う。
「ほう、珍しいな。昨日まで音の箱ばっかりいじってたのに」
「それも大事だけど、父さんの仕事もちゃんと知っておきたいんだ」
前世では、“手を動かす”ことを忘れていた。
パソコンの画面の向こうで、世界を回していたが、自分の手で作物を育てたことなどなかった。
だからこそ、今はその“土の温もり”に触れてみたかった。
◆1.土の匂いと命の感触
畑は小麦と豆、野菜が少し。
乾燥した土はひび割れ、井戸から水を運ぶのは骨が折れる。
「なぁ父さん、この辺りの土、ちょっと硬すぎない?」
「そうだな。雨の少ない季節は特に固まっちまう」
リオンはしゃがみ込み、手で土をすくった。
指先に感じる粒の粗さ。
粘りの少ない乾いた質感。
(このままじゃ、水を流しても根が深く張れないな)
「もっと水が通りやすくする方法、ないの?」
「そう簡単にいくもんじゃない。俺たちは代々、この土地を耕してきたが、土の性質までは変えられねぇ」
その言葉を聞いて、リオンの中で何かが閃く。
(創造魔法で……土を“改良”できないだろうか?)
試してみる価値はある。
彼は畑の隅に手をかざし、心の中で唱えた。
「創造魔法――《アース・フィルター》!」
パネルが光り、地面の一部がふわりと柔らかくなる。
掘ってみると、確かに水はけの良い土質になっていた。
「おお……!」
ダリウスが驚きの声をあげた。
「お前、何をしたんだ?」
「ちょっと土を“軽く”しただけ。水も空気も通るようにしたよ」
「……まるで、魔法使いみたいだな」
リオンは苦笑する。
(父さん、実際にそうなんだけどね)
◆2.“不思議な種”との出会い
昼休み。
木陰でお弁当を食べていると、通りすがりの行商人が声をかけてきた。
「おう、ダリウスのところの坊主か。珍しいもんを持ってきたぞ」
「珍しいもん?」
リオンが首を傾げると、男は袋から小さな黒い種を取り出した。
「こいつは南の大陸から来た“神の豆”だ。食うと元気が出るらしい」
「神の豆……?」
男は笑いながら続けた。
「ただ、どう育てるかは誰も知らねぇ。水やりしても芽が出ねぇんだ。まぁお守りみたいなもんさ」
リオンは興味津々で見つめた。
(形は……なんだか、大豆に似てる?)
ダリウスが肩をすくめた。
「どうせ芽が出ねぇなら、リオン、お前の遊びで試してみろ」
「いいの?」
「どうせ枯れたって損はない。やってみな」
リオンは笑顔でうなずき、黒い種を数粒もらった。
◆3.“魔法の種”の秘密
夜。
リオンは家の裏庭で種を植え、手をかざした。
「創造魔法:成長促進プロトタイプ」
光が走り、土の中から芽が出る……が、途中でしおれた。
「……うまくいかないな」
もう一度。
魔力を弱めて、少しずつ流す。
すると、芽はゆっくりと伸び始めた。
「やった!」
だが、次の瞬間――
――ボフッ!!
爆発音とともに、芽が空に向かって一気に伸び、屋根を突き抜けた。
「ぎゃああああっ!?!?」
駆けつけたダリウスとエルナが絶句する。
「お前……今度は屋根を貫通させたのか!?」
「ち、違う! ちょっと魔力を多く流しただけで……!」
「“ちょっと”じゃねぇ!」
リリィは拍手して笑っていた。
「おにいちゃんの木! すごーい!」
リオンは苦笑しながら頭をかく。
「……ドジった。でも、これでわかった。成長を制御できれば、作物の収穫を増やせる」
◆4.奇跡の芽と、新しい希望
翌朝。
屋根を突き破った木の茎には、黄金色の花が咲いていた。
それは淡く光を放ち、周囲の空気を柔らかく包んでいる。
ダリウスが呆れながらも見上げる。
「まるで神話の植物だな……」
「神の豆、って言ってたけど、まさか本当に魔力を持ってるのかも」
リオンは花を手に取り、鑑定眼を発動する。
【鑑定結果】
名称:マナビーンズ(神豆)
属性:生命/成長/祝福
効果:周囲の植物の成長速度を上昇させる
「……やっぱり。魔力を吸収して、植物の育ちを助けてる」
「そいつを畑に植えたら……?」
「村中が豊かになるかも」
ダリウスがしばし沈黙し、そして笑った。
「よし、やってみよう。お前の“魔法の畑”とやらをな」
その日から、父子の共同作業が始まった。
リオンが土を柔らかくし、父が鍬を振るう。
魔法と人の手が混ざり合い、少しずつ畑が変わっていく。
夕暮れ。
畑一面に芽吹く小さな葉を見て、リオンは深く息をついた。
(こんなに“生きてる”実感……前の世界にはなかったな)
リリィが手をつなぎながら笑う。
「おにいちゃん、これ、みんなのごはんになる?」
「うん。村のみんなを元気にする“魔法のごはん”になるよ」
リオンの言葉に、風が優しく吹いた。
夕日が畑を黄金色に染める。
それは、確かに“奇跡”の始まりだった。
生命の種が芽吹いた村に、風が変わる。
リオンとダリウスの畑が、やがて村全体の希望となる。
だが、魔法の力はまだ不安定で――
次回、「畑に咲いたドジと笑顔」。
小さな失敗が、大きな奇跡へとつながっていく――。




