6歳編・第3話:木の箱が奏でる旋律
夜明け前の空は、青く、静かに光を帯びていた。
リオン・レインフォードは机に向かい、両手を組んで深く息を吸った。
(昨日の“創造魔法”……感情が鍵だってわかった)
(なら、リリィを笑顔にしたいって気持ちを込めれば……)
リオンは目を閉じ、頭の中でイメージを描く。
木の箱。
金属の棒。
音を鳴らす仕組み。
“オルゴール”――前世で何度も見た、あの繊細な旋律。
会社の疲れを癒やすために机に置いていた小さな箱を、彼はふと思い出していた。
「……あの音を、リリィにも聞かせたい」
青白い光がふっと立ち上がる。
創造魔法パネルが開き、図面のような線が浮かび上がった。
【創造魔法:blueprint_mode 起動】
【魔力消費:10%(限界なし)】
線はゆっくりと形を成す。
木箱、歯車、鉄の棒、ゼンマイ。
その全てが彼の頭の中の“構造”と一致する――はずだった。
だが――。
「……あれ? 動かない?」
木箱は形になったが、ゼンマイを回しても何の音も鳴らない。
ただの“木の箱”だった。
リオンは苦笑した。
「そりゃそうか……魔法で出したものに、前世の科学が通じるとは限らない」
◆1.“音”を探す日々
数日後。
リオンは納屋の奥で、木片と鉄の棒を何本も並べて叩いていた。
カン、コン、カン――。
音の高さが微妙に違う。
「うーん……もう少し短くすれば高くなる、かな」
木片を削って叩き直す。
また違う音が出た。
「よし、音階っぽくなってきた!」
庭にいたリリィが首を傾げてやってくる。
「おにいちゃん、なにしてるの?」
「うーん、“音が出る箱”を作ってるんだ」
「おと? がっこうのベル?」
「似てるけど、もっときれいな音だよ」
リリィは不思議そうに笑う。
「きれいなおと、すきー!」
その一言が、リオンの背中を押した。
(よし、失敗してもいい。音を作ろう)
それから数日間、リオンは木の種類や空洞の大きさ、鉄の長さなどを調べ、何十通りもの試作品を作った。
まるで小さな研究者のように。
◆2.“ドジ”な事故と、奇跡の音
ある日の午後。
リオンは再び創造魔法パネルを開いて、木箱に金属棒を固定していた。
だが、固定用の魔力ネジが暴走した。
「わっ、ちょっ……!?」
ズゴンッ!!
木箱が爆発的に跳ね上がり、リオンの額にクリーンヒット。
「いってぇぇぇっっ!!!」
地面にひっくり返ったリオンの目の前で、木箱が転がり落ちる。
その拍子に、内部で金属棒がぶつかり合い――
――チリン……チリン……
まるで風鈴のような、やわらかい音が鳴った。
リリィが駆け寄る。
「おにいちゃん! いまの、おと!」
リオンは額を押さえながらも、目を見開いた。
「あれ……今の音……」
偶然だった。
だがその“偶然”こそが、求めていた旋律のヒントだった。
(棒の長さじゃなくて、角度と響き……!)
リオンは勢いよく立ち上がる。
「リリィ! もう一回やる!」
「いたいのに?」
「いたいけど、今のは“当たり”なんだ!」
彼の目は輝いていた。
◆3.村の風に響く旋律
それから数週間。
リオンは木箱の改良を重ね、ついに完成させた。
“音楽箱”。
魔力を込めてゼンマイを巻くと、ゆっくりと蓋が開き――
――ポロン……ポロロン……
透き通るような音が流れ出した。
それは、前世で彼が愛していた旋律によく似ていた。
「……これだ」
リリィはその音を聴きながら、目を潤ませて笑った。
「おにいちゃん……これ、リリィのうたみたい!」
リオンの胸に、熱いものがこみ上げた。
(俺の“創造”が……誰かの心に届いた)
次の瞬間、風が吹き抜ける。
木箱の音が村に広がり、人々が足を止めた。
畑仕事をしていた父ダリウスも、洗濯をしていた母エルナも顔を上げる。
「……この音は……リオン?」
リオンは照れくさそうに笑った。
「うん、“音が出る箱”。リリィの笑顔のために作ったんだ」
エルナがそっと微笑む。
「あなたの音、村をやさしく包んでるわ」
村人たちが集まり、リリィが誇らしげに言う。
「これ、リオンおにいちゃんがつくったの!」
その瞬間、リオンは思った。
(前世では、誰も俺の“創ったもの”を見て笑ってくれなかった)
(でも今は――みんなが笑ってくれる)
心の奥に、小さな満足感が宿る。
◆4.夜、リオンは夢を見る
その夜。
リオンは満月の光の中、机の上の音楽箱を見つめていた。
(前の世界では、音が鳴るだけの機械だった。でも今は、“魔力”と“想い”で音が生まれている)
箱の表面を撫でながら、リオンはそっと呟いた。
「ありがとう。リリィの笑顔を、守ってくれて」
青い光が箱の上でふわりと揺れる。
【創造魔法・新派生:共鳴付与】
リオンは目を見開く。
「……付与魔法? まさか、感情に反応してるのか……」
リリィの笑顔を想うと、音が優しく鳴った。
リオンは静かに目を閉じる。
“この音で、いつか世界を包めたらいい”
そんな夢を抱きながら、少年は静かに眠りについた。
音を形にした少年、リオン。
創造魔法はさらに深く進化し、村に笑顔をもたらす。
だがその力は、まだ“序章”に過ぎなかった。
次回、「父の畑と、魔法の種」。
小さな奇跡が、村を変え始める――。




