6歳編・第2話:リリィの笑顔と最初の発明
朝の光が差し込むレインフォード家。
いつもより早く目を覚ましたリオンは、机の上に並んだ木片と工具を見つめていた。
昨夜、偶然発現した“創造魔法パネル”――blueprint_mode。
それを使えば、思い描いた構造を現実化できる。
(あれは……単なる幻じゃない。間違いなく、俺の魔法だ)
魔力を注ぎ、意識で形を描く。
それだけでモノが現れる。
しかし、それは一瞬の現象だった。
一晩眠ってみたが、再現方法は分からない。
「魔法って……便利だけど、気まぐれだな」
リオンは苦笑した。
◆1.“音”が人を笑顔にする
庭ではリリィがガラガラを振って遊んでいる。
カラカラ、カラカラ――春風の中に、優しい音が響いた。
リリィがくるりと振り返る。
「おにいちゃん! リリィのガラガラね、ね! すごくきれいなの!」
リオンは笑ってうなずいた。
「うん、リリィのために作ったからな」
「だいすき!」
そう言って、リリィはリオンに抱きついた。
その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
(あぁ……これだ。この笑顔のために、俺は“創りたい”んだ)
前世では、成果物が誰かを笑顔にする瞬間を見ることがほとんどなかった。
ここでは違う。
小さな音ひとつが、妹の心を照らしてくれる。
だが、同時に気づく。
(このガラガラ……音がすぐに弱くなる。改良が必要だ)
リオンは手元の木片を取り、思案した。
穴の形、種の大きさ、材質の違い――
小さな違いが音に影響する。
(前の世界の音響工学を少しでも応用できれば……)
そう考えたときだった。
リリィのガラガラが地面に落ち、ぱきんと音を立てて割れた。
リリィの瞳が潤む。
「……こわれちゃった……」
リオンはすぐにしゃがみ込み、破片を拾い集めた。
「大丈夫。今度は“壊れない”やつを作るから」
リリィは小さく頷く。
その表情を見て、リオンの中に“改良欲”が燃え上がった。
◆2.初めての共同作業
翌日。
リオンは父・ダリウスに頼んで、木工場(といっても納屋の一角)を使わせてもらった。
「また何か作るのか?」
「うん、リリィの新しいおもちゃを」
「いい心がけだな」
ダリウスは笑いながら斧を手渡す。
「だがケガだけはするなよ」
リオンはうなずき、木の枝を選び始めた。
前より硬く、しなやかな素材――“ホーンウッド”を使うことにした。
そこにやって来たのは、村の少年トマス。
「リオン、また変なもん作ってるのか?」
「変じゃないよ。リリィのためのおもちゃ」
「ふーん……お前って変わってるよな。普通、木剣とか作るだろ?」
「それは今度ね」
リオンはにやりと笑った。
「なぁ、手伝ってくれない? 穴を開けるの、力がいるんだ」
「いいぜ!」
こうして、リオン初の“共同制作”が始まった。
二人で木を削り、枝を整え、種を入れる。
途中で失敗して種が全部飛び出すこともあったが、笑いながらやり直した。
「なんか、こういうの楽しいな!」
「だろ?」
太陽の光が差し込み、二人の額に汗が光る。
そこには、“ものづくり”の原点があった。
◆3.音が広がる日
数日後、完成した新型ガラガラをリリィに渡す。
「はい、リリィ専用“ガラリンMk-II”だ!」
「がらりん……?」
「名前もつけたんだ!」
リリィは目を輝かせて振る。
シャララ――
木とは思えない、澄んだ音。
種の代わりに、乾燥させた花の種と小石を混ぜたことで音の幅が広がっている。
リリィの目が見開かれ、次の瞬間――
「おにいちゃん! これ、リリィの音がする!」
「……リリィの音?」
「うん! あったかくて、キラキラしてる!」
その言葉に、リオンの胸が震えた。
リリィの言葉は幼いが、確かに“感性”を捉えている。
音が人の心を映す。
それを、6歳の妹が感じ取っていた。
(音には、心が宿るんだ)
その日、村中にガラリンの音が広がった。
トマスたちが真似をして作り、子供たちがそれぞれの音を奏でる。
カララ、シャララ、トトン――。
村に、初めて“音楽のような日常”が生まれた。
母エルナは微笑みながら言う。
「あなたが作った音、みんなを笑顔にしてるわね」
「……うん。でも、これはまだ小さな一歩だよ」
リオンは遠くを見つめる。
(俺の創造魔法は、“便利な道具”だけじゃない。心を動かすモノを作る力なんだ)
◆4.“創造魔法”の気づき
夜。
外の風が静まり、星がきらめく。
リオンは再び、机の前で手をかざした。
ガラリンの設計図を思い浮かべる――。
その瞬間、再び青い光が現れた。
【創造魔法パネル:blueprint_mode】
今度は確実に発動している。
心が穏やかで、誰かを想っている時――魔法が反応する。
(そうか。“創造魔法”は、感情に共鳴するんだ)
リオンは微笑んだ。
そして新たな設計図を描く。
次の目標は、リリィのための“音が流れる木の箱”。
“音楽箱”――オルゴール。
この世界には存在しない。
「リリィの笑顔が、もっと輝くモノを作る」
青い光のパネルがきらめき、リオンの新たな夢が形を取り始めた。
音に心を宿す少年リオン。
創造魔法の秘密が、少しずつ明らかになっていく。
次に彼が挑むのは、“音楽を奏でる道具”。
それは村に、かつてない喜びをもたらすことになる――。
次回、「木の箱が奏でる旋律」。




