◆ 新世界編・第八話
◆ 新世界編・第八話
「再建評議会 ― 新文明の胎動」
世界核の安定化から三か月。
大陸には、ようやく“空気が澄む”という感覚が戻ってきていた。
リオンは王都跡地に建てられた仮評議会場に立ち、各国の代表たちと向き合っていた。
新王となったエルシオは、以前より落ち着きと柔らかさを増し、しかし芯には燃えるような意志を宿していた。
魔塔の第一席となったセラフィナは、光学魔術と旧世界科学の融合研究を推し進めている。
神殿は新たな“神子制度廃止”を決定し、シルカが神殿改革委員会の中心人物となっていた。
「――まず治安の安定化だ。外敵残滓の討伐隊を三方向へ送る」
エルシオが地図を示す。
するとセラフィナがやや難色を示す。
「急ぎすぎです。外敵が残した《黒界菌糸》は、魔力だけでなく精神にも作用します。
無策で向かえば、兵を“内部汚染”で失う可能性がある」
シルカが頷く。
「浄化術式を先に各隊の術士へ習得させるべきです。……それに、リオン様がいらっしゃらないと“開かない”場所がある」
三者の視線がリオンへ向く。
「僕がコアに干渉できるのは前世記憶との接続のおかげだ。
だけど、もう《影》に一方的に頼る気はない。……協力は惜しまないよ」
その言葉に安心したのか、皆の表情が緩む。
評議会は明るい空気の中で終わった。
その帰り道、シルカが小さく囁いた。
「……世界を救った人なのに、相変わらず普通に話すのですね」
「普通でいたいんだ。シルカたちと一緒に、世界を作り直したい」
その一言に、シルカの頬がわずかに赤く染まった。
――新文明の胎動は、確かに始まっていた。
◆ 新世界編・第九話
「未練残滓 ― 歪んだ願いの群れ」
大陸北端・氷原跡地。
外敵が残した黒界菌糸の濃度が最も高い場所。
そこに出現したのは異様な光景だった。
“人の形を模した黒い影”が、無数に歩いていた。
「……これが《未練残滓》?」
シルカが眉をひそめる。
リオンは目を細め、その“内部”を感じ取る。
「彼らは外敵の欠片じゃない。
“この世界の人達の恐怖や怒り”を食べて形を得た、負の集合体だ」
黒い影たちはぼそりと呟く。
“守れなかった”
“もっと強くなりたかった”
“誰も助けてくれない”
その声は――かつてこの世界で亡くなった人々の“未練”だった。
「……哀しすぎます」シルカが震える。
「だからこそ、彼らを浄化するんだ。斬るんじゃなく――解放する」
リオンが一歩前に出た瞬間、地面の下から黒い触手が伸び、隊の者を呑み込もうとする。
セラフィナが即座に魔塔式レーザーマナを放つ。
エルシオは騎士団と連携し、防壁を展開する。
――戦闘ではなく、解放の戦い。
リオンは胸に手を当て、光と影の両方を引き出した。
「行くよ――《黄昏融合式・慰霊波》!」
光と影が混ざり、夕暮れのような柔らかい波動が広がる。
影たちは一瞬揺らぎ――そして涙を流しながら消えていった。
“ありがとう……”
その声に、隊の全員が静かに頭を垂れる。
「……まだまだ終わらないね」
リオンは遠い空を見つめた。
その遥か彼方――黒界胎が死ぬ前に撒いた“最後の種”が、ゆっくりと芽吹き始めていた。
◆ 新世界編・第十話
「黒界残滓の王 ― 《虚王レガト》の覚醒」
南海の孤島。
ここに“世界最初の外敵因子”が沈んでいた。
そして――その中から一体の“王”が生まれる。
影将より古く、黒界胎よりも純粋な“外敵核”。
外敵の意志を継ぐ最後の存在。
《虚王レガト》
巨大な黒い鎧をまとい、胸には“ひび割れた世界核”のような器官が脈動している。
「……母胎は滅びた。
ならば私は、新たなる“門”となろう」
その声は世界各地に微弱な揺らぎとして届き始める。
リオンが強く胸を押さえた。
「ッ……来た。
最後の残滓――いや、外敵の“王”が目覚めた」
エルシオが剣を抜く。
セラフィナが杖を構える。
シルカが浄化の詠唱を始める。
リオンは静かに息を吸った。
「――これが、本当に最後の戦いだ」
新世界の命運を賭けた決戦が始まろうとしていた。
◆ 新世界編・第十一話
「三英雄の夜 ― 決戦前の約束」
決戦前夜。
焚き火を囲んで、リオン・シルカ・エルシオ・セラフィナは静かに語り合っていた。
セラフィナは言う。
「あなたの前世が何であれ、私は“今のあなた”を信じるわ。
科学も魔法も、あなたの力がなければ再び道を失う」
エルシオは苦笑しつつも真剣な目を向ける。
「嫉妬も敵意もあった。
でも今は、お前と肩を並べて戦えることを誇りに思っている」
シルカは黙ってリオンの隣に座り、小さな声で言った。
「私は……リオン様が生きていてくれれば、それで……」
リオンは笑った。
「ありがとう。みんながいてくれるから、僕も戦える」
そして四人は手を重ねた。
「――必ず帰ろう」
「この世界を守るために」
「新文明を未来に繋げるために」
焚き火の火が揺れ、空には星が降るように瞬いた。
明日、世界の運命が決まる――。
◆ 新世界編・第十二話
「最終決戦前夜 ― 世界核が呼ぶ声」
深夜。
ひとり静かに眠るリオンの“内側”で、光と影が再び語りかけてきた。
《リオン。私たちはお前の力だ。》
《だが、お前の心が望む形にしか動けない》
「わかってる。
でも、僕はもう“どちらか”じゃなくて、両方を受け入れたい」
光は穏やかに笑う。
影は静かに頷く。
《では行け。外敵の王を倒すのは――お前自身だ》
《もう、私たちに頼るな。自分で決めろ》
リオンの心臓核が黄金と漆黒に輝く。
「行くよ。
僕がこの世界を救うんだ――今度こそ、自分の意思で!」
目を開けたとき、夜明けはすぐそこに迫っていた。
新世界編・最終決戦は、次章で幕を開ける。




