◆ 新世界編・その2
**◆ 新世界編・第六話 『第二心臓核 ― 鉄と雷の戦場』**
第一核破壊から六日後。
まだ世界は静かではなかった。むしろ逆だ。
――地殻の脈動が、前より強くなっている。
魔塔の観測図には、
残る二つの黒点が、ゆっくりと脈打ちながら“成長”している様が示されていた。
セラフィナの顔色は蒼い。
「……まずいわ。外敵残滓は、第一核を破壊された反動で“進化”し始めた」
リオンは険しい表情となる。
「影将のデータを取り込んだ結果……?」
「それだけじゃない。
人間の戦い方、王国軍のパターン、魔塔術式……
全部を“食べ、学び、組み替えている”のよ」
魔塔長の分析は常に正確だった。
そして今回も例外ではない。
第二核は東大陸の砂鉄地帯に位置する。
王子エルシオが進退を問う会議を終え、リオンの部隊に合流した。
「……今回は俺も前線に出る」
部下たちが驚いた声を上げた。
リオンは苦笑する。
「エルシオ、危険だ。第二核は“人の構造”を模してくると思う」
エルシオは剣を抜き、静かに言った。
「それでも、逃げる未来はもう嫌なんだ。
世界が変わるなら、俺も変わる。
——君の隣で」
シルカが小さく呟いた。
「王子様、かっこいい……」
師匠が笑いながら肩を叩く。
「まぁ、足手まといにならなきゃいいがな!」
エルシオは言い返そうとしたが、その瞬間——
地面が鉄に変わった。
まるで世界が“構造”を書き換えられたように、
草原だったはずの大地は一瞬で金属結晶へと変質する。
リオンが叫ぶ。
「——全員、構えろ!!」
金属の大地から、巨大な“人型兵器”が隆起していく。
《解析結果反映完了。
第二核、戦闘形態に移行》
そのフォルムは——“王国騎士団そのもの”だった。
鎧のフォルム、剣の構え、陣形。
すべてが王都の防衛術式を模している。
エルシオは息を呑んだ。
「……これ、俺たちの騎士団じゃないか……!」
影将の声がリオンに警告する。
『これは悪質だぞ。
“人の形”を模すことで、攻撃の躊躇を誘う構造だ』
リオンは拳を固めた。
「そんな誘い、乗らない!」
光影の双極を展開し、金属兵を迎撃する。
シルカは神速で走り、エルシオは雷撃をまとわせて突撃した。
戦場が火花と鉄で覆われる。
だが、第二核の本体は別だった。
空に“黒雷”が走った。
セラフィナが通信越しに叫ぶ。
「リオン!!
第二核の中心に“雷属性”の外敵術式が確認された!
気をつけて、外敵は——」
彼女の声が途中で途切れる。
リオンの前に姿を現したのは、
――自分自身によく似た“黒帯の影”だった。
《統合体リオン、解析完了。
新造個体:コード“リオン=β”起動》
シルカが絶句する。
「そ、そんな……!
リオンの偽物……!」
師匠が叫ぶ。
「まじかよ……てめぇのクローンじゃねぇか!!」
影将の声は低く重い。
『リオン……落ち着け。
これは“お前のデータを使って作られた不完全体”だ。
精神構造が欠けているぶん、純粋な殺戮兵器だ』
リオンβは、
リオンの光影術式を“劣化コピー”しながら、
雷を伴って襲いかかる。
「お前も……俺を素材にするつもりか」
《はい。
あなたの核は“進化の燃料”として最適》
リオンは怒りを抑え、静かに構えた。
「違う。
俺の核は……誰かのために使う。
世界を守るために使うんだ!」
光影融合の一撃が炸裂し、
雷鳴が戦場を埋め尽くす。
リオンβは大地を抉りながら弾き飛ばされ、
その身体がバラバラに砕けていった。
《“不完全であること”……理解……》
最後に、
リオンβはわずかに微笑むような表情を浮かべた。
そして消えた。
その隙に、第二心臓核が露出する。
リオンは迷いなく跳んだ。
「……消えてくれ。
これ以上、誰の“形”も奪うな!!」
光影の刃が核を貫いた。
第二核、破壊。
だが戦いの後、
エルシオが蒼白な顔で立ち尽くしていた。
「……リオン。
どうして……外敵は君の形まで……?」
リオンは言葉を探すように空を見た。
影将が小さく囁く。
『……気づいているだろう。
外敵は“リオンそのもの”を狙っている。
理由は……ただの素材ではない』
リオンは拳を握る。
「……外敵は俺を、“後継体”にしようとしてる?」
影将は答えない。
ただ、沈黙だけが不吉な意味を帯びていた。
**◆ 新世界編・第七話
『世界樹の麓で ― 外敵母胎“黒界胎”の存在』**
二つの核が破壊された。
だが世界は揺れていた。
むしろ、世界全体が“何かに泡立つような予兆”を示していた。
魔塔は第三核の位置を特定する。
それは——世界樹の真下。
セラフィナは驚愕していた。
「世界樹の根が……“黒界胎”に飲み込まれてる……!?」
黒界胎。
それは外敵の母胎。
世界規模の侵食を行うための“本体”。
影将が言う。
『……ここまで育っているとはな。
本来なら数百年かける工程だ。
だが第一核破壊で“短期進化モード”へ移行したのだろう』
リオンは拳を握りしめ、呟く。
「……第三核を破壊しないと、黒界胎は止まらない」
セラフィナが言葉を続ける。
「でも、第三核は今までの核と違う。
“知性”を持っているの。
外敵母胎と直接リンクしているから」
リフィナは静かに祈りの手を組む。
「リオン様……気をつけてください。
第三核は、あなたの精神に干渉するはずです」
リオンは深く息を吸った。
心の奥から、影将が囁く。
『リオン。
覚悟しろ。
お前は第三核で“本当の答え”を突きつけられる』
「本当の……答え……?」
影将は静かに告げた。
『外敵がなぜお前を狙うのか。
なぜ“影将の構造”を模すのか。
そして——
お前の前世の“ある記憶”と、外敵がどう結びついているのか』
リオンは息を呑む。
「…………俺の前世と?」
影将はそれ以上言わなかった。
だが、はっきりと伝わった。
——第三核には、
リオンの“出自”と外敵の“真相”が眠っている。
そして、世界樹の根が黒く腐食し始める。
セラフィナが叫ぶ。
「リオン!!
もう時間がない!
黒界胎は、世界の“基盤”を喰い始めた!!」
エルシオは剣を握り締め、言う。
「俺も行く。
君一人では行かせない」
シルカも涙目で言う。
「リオン……絶対死なないで。
一緒に帰ろう」
リオンは微笑む。
「うん。
全部終わらせて、必ず帰るよ」
そして三つの核の最後にして最大の戦場——
**世界樹地下“黒界胎”**へ向けて、
リオンは歩み出した。
物語は次章、
第三心臓核戦 ― 世界樹決戦編
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