5歳編・第12話:冬空に誓う ― 家族のぬくもりと、新しい名前 ―
冬の風が村を包み込む頃、リオンの家にも初めての雪が降った。
木の家の屋根に白い粉が積もり、吐く息は白く染まる。
この季節、畑は休みに入り、村人たちは家で火を囲みながら過ごす。
リオンの家も例外ではなかった。
父のダリウスは暖炉の薪を割り、母エルナは保存食を仕込んでいる。
リリィは毛布にくるまり、リオンの膝の上でうとうとしていた。
「今年は寒いなぁ」
父が言う。
「だが、今年は井戸の水も豊富だったし、食料も多い。
リオンが手伝ってくれたおかげだ」
リオンは照れくさそうに笑った。
「ううん。ぼく、穴をあけただけだよ」
母エルナが微笑む。
「それでも、あなたが頑張ってくれたおかげで、みんな助かったのよ」
暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる。
外では雪がしんしんと降り続けていた。
(……この温かさ。どこかで、知ってる気がする)
胸の奥で、懐かしい記憶がわずかに疼いた。
前世の亮介だった頃――
寒い冬の夜、暗い部屋の中でモニターの光だけを見ていた。
誰もいない家。
カップラーメンの匂い。
無機質なキーボードの音。
“家族の温かさ”を知らなかった人生。
それが今、目の前にある。
妹が眠る重み、母の歌声、父の笑い声。
暖炉の火に照らされた家族の姿が、何よりも尊い。
リオンの目に、光るものがにじんだ。
母が気づいて声をかける。
「どうしたの、リオン?」
「……ううん、なんでもない。なんか、すごく幸せだなって思って」
エルナは穏やかに微笑み、リオンの頭を撫でた。
「そうね。幸せって、こういう時間のことを言うのかもしれないわ」
その夜。
家族が眠りについたあと、リオンは外に出た。
雪に覆われた大地が月明かりに照らされ、銀色に輝いている。
空には無数の星が瞬き、夜の静寂の中、吐く息だけが白く揺れる。
彼は両手を胸の前で組み、目を閉じた。
「……神様。俺は、もう“藤堂亮介”じゃない。
今は、リオン・レインフォードとして生きてる。
どうか、この家族を、ずっと守れるように……」
冷たい風が頬を撫でる。
まるで誰かが「それでいい」と囁いたようだった。
空を見上げると、ひときわ強く輝く星が一つ、流れ落ちた。
「……ありがとう」
リオンは静かに笑い、雪の上に寝転んだ。
その視界の端に、小さな光の精霊・ピィが現れる。
「ぴぃ……(もう、寂しくない?)」
「うん。もう、寂しくないよ」
ピィは満足げに光を放ち、夜空に溶けていく。
リオンは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
(前の世界のことは……もう、いい。ここで生きる。この世界で、家族と生きていく)
彼の中で、完全に“藤堂亮介”という名は終わりを告げた。
そして“リオン・レインフォード”としての人生が始まる。
遠くで、教会の鐘が小さく鳴った。
それはまるで、彼の新しい人生の幕開けを祝福する音のように。
翌朝。
雪がやみ、冬の陽射しが降り注いでいた。
「おにいちゃん! ゆき、まっしろ!」
リリィがはしゃぎながら外へ飛び出す。
リオンは笑いながら追いかけた。
父と母が見守る中、二人の子供が雪の上に転げ回る。
その笑い声が、澄んだ冬空に響き渡っていった。
――その光景こそが、リオンが望んだ“幸せ”の形だった。
雪解けとともに訪れる、新しい春。
リオンは6歳を迎え、妹への愛情と、前世の知識を少しずつ形にしていく。
だが、モノがないこの世界に、彼は最初の“創造”を試みる。
次回――6歳:春風と新しい誓い




