7歳編・第95話:影の最期 ― 光の中に残ったもの
光と影がぶつかり合った瞬間、世界が反転したかのような衝撃が走った。
――ゴォォォン!!
地面が波打ち、空気が裂ける。
ロウガがリオンを支えながら歯を食いしばる。
「ぐっ……リオン、踏ん張れ!」
「う、うん……っ!」
黄金の奔流がリオンの腕からほとばしる。
影はそれに焼かれ、黒い霧を撒き散らしながら悲鳴を上げた。
『……ギィァァアア……!』
霧の断片が風に散り、地面に触れた草木が瞬時に枯れる。
(……強い……!
これ、影の核を失った“ただの抜け殻”のはずなのに……)
影は、ただの残滓ではなかった。
そこには“想い”があった。
『……返セ……返セェ……!』
胸に空いた穴が、リオンの光へ向かって伸びる。
まるで、その空洞を埋めたいかのように。
ロウガが叫びながら前に飛び出した。
「させるかよッ!」
短剣が影を裂く――しかし、やはり実体を持たない影は霧に戻り、すぐ形を取り戻す。
だが、その一瞬の遅れがリオンに時間を与える。
「ロウガ……ありがとう!」
リオンは息を吸い込み、胸に手を当てた。
胸の奥にある“光”が呼応する。
それは優しくて、暖かくて、
影の冷たさとはまったく違う。
(僕はもう……あの影とは違うんだ)
手を掲げる。
光がこみ上げ、影を照らし出した。
影の体がぐらり、と揺れる。
その動きには、もう怒りではなく――
怯えがあった。
『……ナ……ゼ……
ナゼ……光ニ……』
リオンは静かに答える。
「だって、僕は――ひとりで怖がるのをやめたから」
影の動きが止まる。
「ロウガがいて、家族がいて……
僕を見てくれる人がいるから。
だから、影の“居場所”はもう……僕の中にはないんだ」
影の輪郭が揺らぐ。
『……ヒトリ……デ……怖クナイ……?』
その声は、震えていて。
あまりに弱々しくて。
まるで迷子の子どものようだった。
胸が少し痛む。
リオンはそっと影へ手を伸ばした。
「……ごめんね」
影はその言葉に、びくりと震えた。
「君を拒絶したんじゃなくて……
君を抱えたままだと、僕は壊れていた。
だから、手放すしかなかったんだ」
影の霧が静かに揺れる。
黒い穴が、少しだけ小さくなったように見えた。
『……ワカ……ラナイ……
痛イ……コワイ……
ナゼ……?』
「うん。分からなくていいよ。
怖いのも、痛いのも……僕も、ずっとそうだったから」
リオンは最後の力で、光を絞り出した。
黄金の光の輪が影を包む。
影は逃げない。
逃げなかった。
まるで――ようやく“帰る場所”を見つけた子どものように。
『……リオン……』
影はかすれた声でリオンの名を呼んだ。
そして――
ゆっくりと、静かに、影は溶けていった。
黒い霧が光の中でほどけ、夜明けのように澄んだ空気へ変わる。
胸の痛みが消える。
重たかったものがすっと抜け、
リオンの心は軽くなった。
ロウガが息を呑んだまま呟く。
「……終わったのか?」
リオンは小さくうなずいた。
「うん……たぶん、これで……影は、もう」
黄金の光が消え、
影の気配はどこにも感じられない。
ほんの少しだけ、胸の奥が寂しくなる。
けれど、それは悪い寂しさではなく――
“卒業”に似た感覚だった。
(さよなら……僕の影)
リオンは空を見上げた。
森の上に広がる青空は、
いつもより少しだけ明るく見えた。
今回の第95話は、
リオンと影――二つの“核”の決着の話でした。
影は敵ではなく、リオンの弱さの具現であり、
負ければ取り込まれる存在。
けれど
リオンが選んだのは、戦って破壊することではなく、
受け入れた上で手放すこと。
少年らしい未熟さと、
大人になる一歩のような優しさを重ねています。
影は消滅しましたが、
その“痛み”と“想い”はしっかりリオンに残っています。




