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7歳編・第90話:決意の灯 ― 少年が初めて見せた弱さ

「ちょっと痛い……?」

エルナは、抱きしめていた腕の力を少しだけ弱め、リオンの顔をのぞき込んだ。


「どこが痛むの?怪我はしてないってロウガくんが……」


リオンは胸に手を当てた。


「……ここ。外じゃなくて、もっと奥。

たぶん……魔力のところ」


エルナは一瞬だけ表情を曇らせた。

その“奥”がどこなのか、正確には分からなくても――

それが普通の痛みではないことくらい理解できる。


「分かったわ。すぐ診てもらいましょう。

レーネさんのところに行って――」


「……ううん。今は大丈夫。

ちょっと休めば、たぶん落ち着くと思う」


言いながらも胸の奥がひび割れるように痛む。

しかし、さっきとは違う。

痛みから逃げる必要がない気がした。


“誰かに頼ってもいい”と、ようやく思えたからだ。


ダリウスがゆっくりと部屋に入り、腕を組んでリオンを見下ろす。


「……お前、自分の中で何が起きてるのか、分かってるのか?」


「……うん。たぶん」


「“たぶん”じゃねえよ」


言い方は厳しいが、声の奥に震えるものがある。

ダリウスもまた、本気で心配していたのだ。


「ロウガたちから全部聞いた。

白い光を浴びたあと、黒い影の魔力も飲み込んだってな」


リオンの胸がドクン、と脈打つ。


あの瞬間を思い出すだけで、内部のひびがきしむ。


「魔力は生命の根っこだ。

二つの相反する力を同時に抱え込めば、魂が悲鳴を上げるのは当たり前だ」


「……うん」


「お前は七歳だぞ。

俺たちが守ってやらなきゃいけない歳だ。

なのに……一人で全部受け止めようとした」


言葉が、胸に刺さる。


だが責められているわけじゃない。

怒鳴られているわけでもない。


ただ――心配されている。


それをはっきり理解した瞬間、リオンの喉から小さな声が漏れた。


「……こわかった」


エルナもダリウスも、息をのむ。


リオンは、自分でも驚いていた。

これまで“怖い”と言ったことなどほとんどない。

前世でも、この世界でも。


それでも、言葉は自然と続いた。


「暴走して、ミレーヌとロウガを巻き込んだらどうしようって……

胸の奥が割れるみたいで、息ができなくて……

ぼく……どうすればいいか分からなくて……」


絞り出すような声に、エルナはもう堪えきれなかった。


「リオン……!」

ぎゅっと抱きしめる腕が震えている。


「怖かったなら……どうして言ってくれなかったの……?」


「だって……ぼくが弱かったら、みんなに迷惑が……」


「迷惑なんかじゃないわ!」


エルナの声は涙に濡れ、しかし力強かった。


「あなたが傷つく方が何倍もつらいのよ。

守ることばかり考えないで……

あなたはまだ子どもで、私たちの息子で……守られる側なの!」


リオンの胸の奥のひびが、きゅ、と音を立てる。


痛みではない。


――少しだけ、あたたかい。


ダリウスが近づき、エルナの隣にしゃがんだ。


「いいか、リオン。

強いってのはな、全部自分で背負うことじゃない」


「……うん」


「お前は小さい頃から異様に我慢強い。

でもな、家族に弱さを見せられないようじゃ、

いつか本当に折れるぞ」


折れる――


それは、さっき胸の奥で感じた、“ひび割れ”の音と重なる。


リオンは息を吸って、吐いた。


そして小さく、しかしはっきりと言った。


「……助けてほしい」


エルナは涙をぽろぽろこぼしながら、リオンを抱きしめる。


「もちろんよ。

何度だって助けるわ。あなたが望むなら、いつでも」


ダリウスも「まったく、ようやく言いやがった」と苦笑しながら、

不器用にリオンの頭に大きな手を置いた。


「これからは……苦しかったら言え。

逃げたい時は逃げろ。

無理なら、無理って言え」


「……うん」


胸のひびが、静かに落ち着いていく。


リアノンの言葉が頭をよぎる。


――守られること。それも強さ。


(ぼく……ようやく、少しだけ分かった気がする)


その時。


階段の下から聞き慣れた声がした。


「リオーン! 起きてる!?

ねえ、今日のミッションの反省会しようよ!」


明るく元気なミレーヌ。


その後ろから、少し気まずそうなロウガの声。


「……おい。さすがに早すぎんだろ。

まだ療養中って言われただろ」


「だって心配なんだもん!」


エルナとダリウスが顔を見合わせ、苦笑した。


リオンは、胸を押さえながら小さく笑った。


「……行ってもいい?」


「もちろんよ」

「無理だけはするなよ」


リオンはふらつきながらも立ち上がり、階段に向かった。


ミレーヌがぱあっと笑って飛びつこうとしたその瞬間――

ロウガがリオンの表情に気づき、腕を掴んで止めた。


「おい、バカ。飛びつくな。

今日の主役はまだ回復中だ」


「……そっか」


ミレーヌがぴたりと止まり、

次の瞬間、控えめに手を差し出した。


「……だいじょうぶ?」


リオンはその手を握り、うなずいた。


「うん。

……みんながいるから、だいじょうぶ」


その言葉に、ミレーヌもロウガも一瞬きょとんとして――


次の瞬間、ミレーヌは笑い、ロウガは照れくさく顔をそむけた。


小さな家の中に、

やわらかな笑い声が広がった。


その暖かさは、リオンの魂のひびに

ゆっくりとしみ込んでいくようだった。


――この瞬間。

リオンの人生の“方向性”が、確かに変わった。


もう一人ではない。

仲間がいて、家族がいて、

守られることを知った。


その事実は、後に訪れる“試練”の結末を大きく左右することになる。

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