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7歳編・第88話:創始の火が示すもの ― 少年に残された代償

金色の光が収まったあと、森には不自然なほどの静寂が残っていた。

風さえ息を潜めるように止まり、わずかに揺れる木々の影がリオンたちの姿を囲む。


「……リオン、大丈夫?」


ミレーヌが震える声でしゃがみ込み、リオンの肩に両手を添える。

触れた指先にぬくもりを感じて、ようやく涙が一筋こぼれた。


「うん。へーき、だよ」


リオンは微笑んで、いつもより少しだけ弱々しく首を縦に振った。


だが――その身体を支えていたロウガは、すぐに異変に気づいた。


「お、おいリオン……手ぇ、震えてんぞ?」


「え……あ、ほんとだ」


自分の手を見下ろすと、指先が細かく震えていた。

まるで体温が急激に奪われたように、冷たさが皮膚の奥に染み込んでくる。


ミレーヌがリオンの手を包み込んだ。


「冷たい……!リオン、本当に平気なの?」


「だ、大丈夫……ちょっと疲れただけだよ……」


しかしその声には、隠し切れないかすれが混ざっていた。


ロウガが周囲を見渡し、低く唸る。


「さっきの光……あれだけの魔力が暴走して、ただの“疲れ”で済むはずねぇだろ。

リオン、何があったんだ?」


リオンは森の奥に消えたフェンリルの背中を思い出す。


『世界を繋ぐか。

世界を断つか。

あるいは創り直すのか――』


あれが何を意味するのか、理解はできない。

ただ胸の奥に残った金色の火だけが、静かに言葉にならない警告を発していた。


「……ぼく、自分の力を、ちょっとだけ思い出したんだ。

でも、それを使ったら……なんか、へんな感じで……体が、まだついてきてないっていうか……」


「そりゃそうだよ!」ミレーヌが涙声で言う。

「さっきの白い光も黒い影も……全部がリオンの中に入ろうとして……もう、こわかったんだから……!」


リオンは目を伏せ、ぎこちなくミレーヌの頭を撫でた。


「ごめんね……」


「謝らないでよ……心配しただけなんだから……」


ミレーヌの震える声に、ロウガは鼻を鳴らす。


「とにかく、いったん村に帰ろうぜ。

ここにいたら、また何か出てくるかもしれねぇし……リオンも休まねぇと」


「……うん」


リオンは立ち上がろうとした。


その瞬間。


**ガクン――**と膝が折れた。


「リオン!」

「うわっ……っ!」


ロウガとミレーヌが同時に支える。

リオンの顔色は青白く、呼吸は浅い。


ロウガが叫ぶ。


「おいリオン!意識しっかりしろ!」


「だ、大丈夫……」

と言いかけたリオンの瞳が、ふと揺れ、焦点が外れた。


胸の奥で金色の火が弱く明滅する。


――これが、代償。


自分だけが理解した。


白と黒、二つの神の力を受けてなお魂を保ったのは、創始の火があったからだ。

だがその調和の過程で、魂には深い亀裂が刻まれてしまった。


光が暴れたときのような激痛ではない。

ただ、少しずつ、確実に体を蝕んでいくような倦怠が残っていた。


「……ぼく、ちょっと、休みたい……」


「分かったよ、すぐ戻る!」

「ロウガ、支えて!!」


二人に両脇を抱えられ、リオンはゆっくりと森をあとにした。


村の手前で、ようやくリオンは意識を取り戻した。

ほんの短い時間だったが、夢も見ない深い眠りに落ちていた。


家が見えた瞬間、ミレーヌが泣き笑いのような表情になる。


「り、リオン……ほんとによかった……!」


ロウガも大きく息をついた。


「もう二度とこんな無茶すんなよ……心臓止まるかと思ったぜ……」


リオンは弱々しい笑みを浮かべる。


「心配かけて……ごめん……」


二人は首を振る。


「謝るな!」「そうだよ!」


家に入ると、エルナが血相を変えて駆け寄ってきた。


「リオン!?ちょっと……顔色が……!すぐ横になりなさい!」


ダリウスも仕事途中の格好で戻ってきていた。


「どうしたんだリオン!怪我はしてないか!?」


「……だいじょうぶ……ちょっと、休めば……」


布団に横たわるリオンを見て、エルナは涙目で冷たい布を額に当てた。


「大丈夫じゃない顔してるわよ……ほんとに……」


エルナの手は温かくて、リオンはその温もりに甘えたくなった。


胸の奥の金色の火が、微かに静まっていく。


(……ぼく……守られちゃってるな……)


フェンリルの言葉がよぎる。


世界を繋ぐ?

断つ?

創り直す?


そんな大げさなこと、いまの自分には想像すらできない。


ただ一つだけ分かっていた。


身体の奥に残ったこの痛みと倦怠は、いずれまた顔を出す。

そしてその時、きっともっと大きな“何か”が来る。


でもそれを口に出すと、みんながもっと心配する。


だからリオンは、そっと胸に手を当てて、微笑んだ。


「お母さん……ありがとう」


「ゆっくり休むのよ……?」


エルナの声に、リオンは小さく頷いて目を閉じた。


――だいじょうぶ。

――ぼくは、まもれる。

――まもりたいものが、あるから。


胸の奥で、金色の火が静かに揺れ続けていた。

以下、6本すべてを独立した短編エピソードとしてまとめてお届けしました。

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