5本の独立エピソード
**① 続編(王都編・対外敵編)
『王都、静かなる侵食』**
王都の空が、わずかに濁っていた。
気づく者はほとんどいない。しかし——
「……嫌な匂いがする」
リオンは王宮の客間で、夜風を感じながら呟いていた。
その横顔は七歳とは思えないほど鋭い。
影の分身体に触れられたせいで、世界の歪みが“見えて”しまうのだ。
同じ頃、王都外縁の森では黒い霧が無音で広がっていた。
獣たちが逃げ惑い、霧に触れた瞬間、影色の目を宿して従順な“器”へ変質していく。
◆外敵の第二段階
——観測から、“浸透”へ。
街の人々は、魔物が出ない王都の安全に疑いなど抱かない。
ただ、物売りの老婆だけが空を一度見上げた。
「……世界の色が、変わるねぇ」
その一言が、王都で最初の“気づき”だった。
リオンは眠れず、布団の中で呟く。
(このままじゃ……誰かが死ぬ。
僕が……止めないといけないんだ)
影は笑い、光は震える。
——王都編、最初の夜が明けようとしていた。
**② リオン覚醒前夜
『光と影の境界で』**
その夜、リオンは夢を見た。
闇の空間。その中心に巨大な“眼”が浮かんでいる。
『ようやく……目覚める準備が整ったな』
低い声が響く。影の本体に近い存在だった。
「目覚めって……何のこと?」
『お前の“前世の力”だ。
世界の計算線を視る能力。
因果の束を組み替える手腕。』
リオンは頭が割れるように痛む。
(前世……?)
景色が変わる。
前の世界——薄暗い部屋、コードの山、モニターが数十台。
その中心に座る大人の自分。
冷たい指、無表情の顔。
けれど、どこか懐かしい。
影の声が囁く。
『お前は、世界を“最適化”する者だった。
だからこそ我ら外敵は、お前を必要としている』
「僕は……そんなの望んでない!」
光の声が重なる。
【違う。あなたは守るために、その力を持ってる】
影の眼が細まる。
『覚醒の夜は近い。選べ、リオン』
そして目が覚めた時——
リオンの右目には、ほんの一瞬だけ
“金と黒の二色” が混じっていた。
**③ 師匠視点での“影の正体”深掘り
『老人の記憶と禁忌の兆し』**
老人は王宮の客間の最奥、ひとり机に向かって古文書をめくっていた。
(やはり……“あれ”に似ている)
彼が若き頃、命を賭して封じた“災厄の影”。
世界の外側から侵食してきた黒い意志。
文献にはこう記されていた。
——世界の理を喰らう存在。
——人の心の“隙間”を声として侵入する。
——宿主を選び、力を与え、世界を書き換えようとする。
(七歳の子に宿るにはあまりにも危険すぎる……)
しかし師匠は薄く笑った。
「だが……あの子は別だ。影に選ばれたのではない。
あの子が“影の方を選ばなかった”」
これを理解しているのは、世界でも自分だけだろう。
(影を利することなく共存できる子など……初めて見た)
しかし、外敵が動き始めている以上、悠長にはできない。
老人は杖を立てかけ、静かに立ち上がった。
「影よ……また会う日が来るとはな」
その瞳は、決意に満ちていた。
**④ シルカ嫉妬・葛藤回
『わたしだけ置いていかないで』**
リオンが王族や神官に囲まれて注目を浴びるほど、
シルカの胸には説明できない色が沈んでいった。
(なんで……みんなリオンのことばっかり)
自分だって努力している。
支えられてきたつもりだった。
なのに——
王子がリオンを気に入り、
巫女が彼を“特別”と呼び、
魔塔が“研究対象”として遠巻きに見つめる。
ある夜、リオンが影の干渉で苦しんでいる時も、
自分は何もできなかった。
(私、弱い。
リオンに必要ない……?)
そんな時、師匠が言った。
「お前の眼は、誰よりも真っ直ぐにあの子を見ている」
「でも……私、守れない……」
「違う。あの子に“戻れる場所”を作ってやれるのは、お前だ」
その言葉にシルカは泣いた。
(戻れる場所……わたし?)
そして決めた。
“あの子がどれだけ特別になっても、
私はそばにいる。”
嫉妬は消えない。
けれど、それを力に変える道を見つけた。
**⑤ 王家・魔塔・神殿の三つ巴構図
『均衡崩壊の序章』**
王宮地下、秘密会議室。
王家・魔塔・神殿の代表が、一堂に会していた。
「少年リオン。彼は国家レベルの戦略資産だ」と王族。
「研究対象だ。魔塔の管理下に置くべきだ」と魔塔。
「いいえ。“神子候補”であり、神殿の保護が必要です」と巫女長。
三者の意見は完全に食い違っていた。
◆王家の狙い
→ 王都の象徴として囲い込み、外敵対策の中心戦力にする。
◆魔塔の狙い
→ リオンを研究し、“影”の力を制御する技術を得たい。
◆神殿の狙い
→ 光の力を強め、“破壊神子”化を防ぐ。
この段階ではまだ表面上の協調が保たれていた。
しかし——
「外敵の“第二段階”が始まったらしい」と神殿。
「王都周辺に黒い反応が観測された」と魔塔。
「……ならば尚更、リオンは王家が保護する」と王族。
三者は互いを睨む。
目に映るのは
“仲間”ではなく
“利害対象”。
均衡は、不気味な音を立てて崩れ始めていた。
その中心にいるのは——
七歳の、ひとりの少年。




