7歳編の流れに沿った“公式外伝”形式
**① 外敵の正体・第一幕
『滲む気配 ― 世界の外から来るもの』**
森の奥で、異変は気づかれぬまま始まっていた。
空気がわずかに歪み、深い場所──魔素の低層域。そのさらに外側。
この世界の理から外れた漆黒の縫い目が、静かに開閉していた。
そこから、影でも魔物でも神性でもない“何か”が覗き込む。
『……観測、完了……』
声というより、概念の擦れ合う音。
『対象:光と影を同時に宿す人間……識別番号、リオン。
この世界の均衡へ干渉する存在……』
歪みの向こう側で、複数の“視線”が集まる。
『だが、まだ成熟していない。
覚醒前……捕食には早すぎる。』
『観測だけ続行。世界へ侵入するタイミングを待て。
この世界は“境界”が弱い。門が開く時は近い。』
縫い目が閉じる寸前、一つの声が仲間に問う。
『光側・影側の両方が動いている。
我々はどうする?』
『決まっている。
彼らが争い、世界が揺らいだ瞬間……
その“隙間”から侵入する。』
縫い目は完全に閉ざされた。
森は何事もなかったように静まり返った。
だが、この日から“外敵”は常にリオンを観測し続ける。
彼がまだ、それに気づくことはない。
**② シルカが“影の声”を一瞬聞いてしまう回
『黒い囁き ― 友への違和感』**
「リオン、最近ちょっと変じゃない?」
真昼の訓練場。シルカは剣を構えながら、親友の顔色を覗いた。
リオンは笑っていた。いつもと変わりない。
……はずだった。
(でも……なんか、前より“遠い”)
気のせいだと思いたかった。
二人で模擬戦を始めた瞬間だ。
──“邪魔するな”
シルカの耳奥で、誰かの声がした。
「え……?」
一瞬、リオンの影が揺らぎ、黒い“手”のようなものが伸びかけ──
次の瞬間には何もなかった。
「どうかした?」
リオンが首をかしげる。
「う、ううん! なんでもない!」
シルカは笑顔を作ったが、心臓が跳ね続けていた。
(今の……リオンの声じゃない。絶対に)
リオンの背後で、黒い影がわずかに揺れた。
“気づくなよ……人間”
その囁きは、彼女だけに届いていた。
**③ 母が異変に気づく回・続編
『母の直感 ― 子の変化は見逃さない』**
夜。リオンが眠った後。
母エマはそっと部屋に入り、子の寝顔を覗き込んだ。
「……また、魔力の流れが乱れてる」
頬に手を添えると、ビリッとした痺れが走る。
昨日まではなかった“別の魔力”が混ざっている。
(あの子、何か隠してる……?)
それ以上に、母の本能が告げていた。
──この魔力は、常人が触れてはいけない。
エマは家族の記録を収めた古い箱を開ける。
夫の実家──古代魔法に縁ある家系の文献。
そこにはこうあった。
『光と影の混在する魔力が子に宿るとき、
その魂は“二つの理”に引き裂かれる恐れあり』
「引き裂かれる……?」
胸が冷える。
(リオン……あなたの中で何が起きているの……?)
母は決めた。
翌日、師匠クロウを呼び出す。
そして二人は小声で話し始めた。
「クロウさん。
リオンの中に……得体の知れない“濁り”があります」
クロウの表情が固まる。
「……エマさん、あなたも気づきましたか」
その瞬間、窓の外で黒い影が揺れた。
母は気づかない。だが影は確かに“聞いて”いた。
──……余計なことを。
**④ リオンの内面にいる光と影の対話
『内なる世界 ― 相反する二つの声』**
リオンが眠るたび、夢の底で二つの存在が対話をしていた。
◆光
『もうやめて、影。彼を利用しないで』
◆影
『利用? 違うな。これは共生だ。
俺はリオンを強くする。お前にはできない力で』
◆光
『あなたの力は彼の魂を壊す。
暴走を起こしたこと、忘れたとは言わせない』
◆影
『壊れていない。むしろ“器が広がった”。
あれくらいで折れるほど弱くはない』
◆光
『あなたはリオンを道具として見ている』
◆影
『お前は“神性”として彼を保護しすぎだ。
その甘さこそリオンの可能性を潰す』
光と影は互いを睨み合う。
◆光
『それでも、私は彼を守る。
あなたからも、あなたが連れてくる災厄からも』
◆影
『守れるものか。
外側で“観測者”が動き始めている。
お前の力では防げない』
光が息を呑む。
◆光
『……どうして、あなたはそんな情報を知っているの?』
◆影
『俺のルーツは“外側”にある。
あれらは……“同類”だ』
リオンは夢の中で震えた。
知らない対話。知らない世界の真実。
だが確かに、自分に全部関係している。
光と影は同時に言う。
『リオン、お前の選択次第だ』
目が覚めたとき、涙が頬を伝っていた。
**⑥ 王族がリオンを召喚しようと動き出す
『王都の会議 ― 少年の才能をめぐる思惑』**
王都・中央宮殿。
王子レグナートは書類を読みながら眉を寄せた。
「……7歳にして魔力暴走を生き延び、
さらに沈静化まで成功……?
そんな例、見たことがない」
魔塔の塔主、神殿司祭、王国軍の将軍が集まり、
一人の少年の名を話題にしていた。
「リオン。
彼を王都に呼び、正式に“管理”すべきでしょう」
「才能が規格外だ。
野放しにしておけば、後に災いになります」
「いえ、味方に引き入れるべきだ。
王国の切り札となる!」
それぞれの思惑が飛び交う。
王子は静かに言った。
「……理由をつけて召喚する。
“適性検査”という名目で。
ただし──絶対に敵に回させるな」
魔塔主が苦い顔をする。
「リオンの背後にいる師匠クロウは厄介ですぞ」
王子は即答した。
「構わん。国に必要なのは“才能そのもの”だ」
会議室の外では、兵士が密やかに動き始めていた。
──王族による“少年確保作戦”が発動する。
リオンはそのことをまだ知らない。
だが、これは
7歳編クライマックスへと繋がる運命の始まりだった。




