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5歳編・第11話:井戸の夢と村の未来

冬の気配が近づく11月。

朝の空気は冷たく、吐く息が白い。

畑の収穫も終わり、村人たちは来年の準備を始めていた。


リオンは父の手伝いを終えたあと、村の中央にある古い井戸を眺めていた。

木製の枠はところどころ腐り、桶を吊るす縄もほつれている。

村の水はこの井戸だけが頼りだった。

しかし最近は水が少なく、皆が困っていた。


「ねぇピィ。この村、水が足りないんだ」


頭の上に乗った精霊ウサギが耳をぴょこんと動かす。

「ぴぃ? リオン、また何か考えてるの?」


「うん。水をもっと出せたら、みんなが楽になると思うんだ」


前世でシステムを改修し、効率を上げることばかり考えていた亮介。

その思考が、幼いリオンの中に自然と根付いていた。


(この村の“ボトルネック”は、水だ。

なら、そこを変えれば生活が変わる)


リオンは井戸の縁に手を置き、目を閉じた。

魔力を流すと、井戸の底が“見える”ような感覚があった。

干上がった土、岩の隙間、そして――少し離れた場所に、かすかな水脈の光。


「……あった」


リオンはにやりと笑う。


「ピィ、ぼく、ちょっと掘ってみる!」


「また爆発しないでよ!?」


「だいじょうぶ、今度はちゃんと考えてある!」


彼は井戸のすぐ脇に魔法陣を描き始めた。

木の枝で地面に円を描き、前回と同じように“構造”を組み立てていく。

設計の目的は“水脈との接続”。

素材は“地面の石と土”。


「創造――《ウォーターパス》!」


光が走る。

地面がわずかに震え、低い音が響いた。

すると、井戸の底から“ゴボッ”と音がして、水が溢れ出した。


「やった……!」


ピィが空を舞いながら喜びの声をあげる。

「ぴぃぃ! やったね、リオン!」


リオンは井戸を覗き込み、輝く水面を見つめた。

透明な水が勢いよく湧き出し、太陽の光を反射している。

その美しさに、思わず息をのんだ。


(これが……ぼくの魔法で変えられる“現実”なんだ)


そのとき、後ろから声がした。

「おい、リオン! お前、何をした!?」


振り向くと、父のダリウスと数人の村人が駆け寄ってきていた。

リオンは少し戸惑いながら答える。

「えっと……水が少なかったから、掘り直してみたんだ」


「掘り直して? お前、道具も使ってないだろう!」


父が井戸を覗き込む。

満ちた水面を見て、驚きの声を上げた。

「……す、すげぇ。本当に増えてる」


村人たちがざわめき始める。

「まさか、魔法か?」

「いや、リオンはまだ子供だろう……?」

「でも、確かに水が湧いてるぞ!」


リオンは少し恥ずかしそうに笑った。

「これで、みんな困らないかな」


父は息子の頭を優しく撫でた。

「……本当にすごいことをしたぞ、リオン」


村人の一人が感嘆の声を上げる。

「これで冬も安心だ。お前は村の恩人だよ!」


皆が笑顔になる中、リオンは静かに空を見上げた。

冷たい風が髪を揺らし、どこか遠い記憶がよみがえる。

かつての世界。

誰かのために働いても、感謝の言葉もなく、ただ使い捨てられていた日々。


(今は違う。誰かの役に立てる。それがこんなに嬉しいなんて……)


その夜。

家では小さな宴が開かれた。

母エルナが作った温かいスープ、焼いた肉、そして焼き立てのパン。

村の人々も集まり、井戸の復活を祝う笑い声が響いた。


リオンはその中心で、照れくさそうに笑いながらスープをすする。

ピィはパンのかけらをくわえて、頭の上でご機嫌だ。


「おにいちゃん、すごい!」

「ありがとな、リオン!」

「お前、将来はすごい魔法使いになるぞ!」


その言葉の一つ一つが、彼の胸に温かく染み渡った。


――“感謝”されるということが、こんなにも心を満たすなんて。


その夜、リオンは静かに空を見上げた。

星々の光が村を照らす。

小さな村はまだ貧しく、何もかも足りない。

けれど、少年の中では確かに“希望”が灯っていた。


(もっと、この村を良くしたい。家族が笑って暮らせるように――)


小さな拳を握りしめ、リオンは決意する。


「ぼくが、この村を変えてみせる」


その言葉に、ピィが小さく鳴いた。

「ぴぃ……ぼくも、いっしょに!」


リオンは笑い、頷いた。

「うん。ありがとう、ピィ」


こうして少年は、自分の“使命”を初めて心に刻む。

それはまだ小さな願いだったが――

いずれ、この世界全体を揺るがすほどの力へと育っていく。

村に満ちた清水と笑顔。

少年の創造が初めて“人の暮らし”を変えた。

だが、その波紋は静かに広がり、遠く離れた都市に異変を呼ぶ。

次回――幕間:現世の混乱「rion_消失によるシステム障害」。

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