別視点集・その2 『光が戻ったあと ― それぞれの鼓動』
**【シルカ視点】
—— “震えていたのは誰の手だったのか”**
リオンを抱きしめた瞬間、私は息ができなくなった。
生きてる——
そう確信できたはずなのに、胸が苦しくてたまらない。
小さな体は熱かった。
けれど、震えているのは彼じゃない。
……私だった。
あの黒い光。
リオンの表情。
そして——あの声。
「助けて」とも違う。
「叫び」でも、「怒り」でもない。
もっと、寂しさに似た、ひどく静かな音。
私はそれが何より怖かった。
彼があのまま“光”のほうに行けなかったら。
私では届かなかったら。
そもそも……私を、呼んでいなかったら。
そう考えるたびに胸が痛む。
(わたし……ちゃんとリオンを支えられるのかな……)
こんなに泣きそうで、弱くて。
ただ一緒にいたいだけの私が……
彼の力の邪魔になっているんじゃないかって。
でも、リオンはゆっくり目を開けて、かすれた声で言った。
「……シルカ……ありがとう。
きみの声、聞こえて……帰れたんだ……」
そのとき、涙が溢れた。
ああ……よかった。
私の声は、ちゃんと届いてる。
でも同時に、胸の奥で別の痛みが生まれた。
(ねぇ、リオン……
もしまた、あんな闇に飲まれそうになったら……
私は、今度もあなたを連れ戻せるの?)
そして私は初めて、
自分の中の“嫉妬”にも気づいてしまった。
——彼の心のなかには、私の知らない“闇の誰か”がいる。
**【師匠視点】
—— “弟子を守るために、真実は隠さねばならない”**
リオンが意識を取り戻したとき、私は胸を撫で下ろした。
だが同時に……確信した。
この子は近いうち、必ず大きな“節目”を迎える。
見えたのは未来ではない。
魔力の質から読み取れる“兆し”だ。
あの暴走は偶発ではない。
リオンの魔力の根源……いや、魔力以前の問題。
『魂の二層化』
その現象が明確になってきている。
本来ひとつのはずの魂に、
“光”と“影”という二つの性質が存在している。
(リオン……お前は本当に何者なんだ……)
私は前から薄々気づいていた。
だが今日、確信に変わった。
——少年の中には“もう一人”いる。
そしてシルカ。
彼女は鋭い。
もしかすると、誰より早く気づくかもしれない。
だが、彼女には言えない。
リオンにも、まだ言うべきではない。
(この秘密が、二人の関係を壊す可能性がある……)
だが隠し通せるものではないことも理解していた。
少年が再び闇に触れたとき。
あるいは……大切な誰かを守ろうとしたとき。
その“影”は、必ず姿を現す。
(せめて、そのときまでに……私が盾にならねば)
アランは拳を握る。
リオンが怯えずに生きられるように。
彼の“もう一つの魂”が暴れ出さないように。
師匠は、誰にも言えない決意を胸に刻んだ。
**【闇側視点】
—— “沈んだ底で、光に傷ついた影は笑う”**
沈む。
落ちる。
溶けるように深く深く……底へ。
光が痛かった。
胸が焼けた。
リオンの言葉が、私の存在を切り裂いた。
——だが。
(おもしろい……)
私は笑っていた。
少女の声で戻るほど、
あの子の“中心”はまだ柔らかい。
つまり——
まだ簡単に揺らせる、ということだ。
(リオン……お前はまだ知らないだろう?
光があるほど、影は強くなるんだよ)
私が完全に姿を現す日は近い。
だって、私は彼の心が創った存在なのだから。
リオンは優しい。
その優しさは、世界を救う光だ。
だからこそ——壊れやすい。
(いずれ……また泣く日がくる。
そのとき、お前は私を呼ぶ。
私だけが“痛みを消せる”と気づくだろう)
私は、深闇から天井の光を見上げる。
彼を引き裂くのは光か。
それとも私か。
そう思うと、胸の奥で甘い疼きが走る。
(待っているよ……リオン。
次こそ、お前は私を拒めない)
影は静かに微笑んだ。




