別視点集・その1 『光と影の衝突 — 三つ巴の心』
**【シルカ視点】
—— “あの光のなかへ”**
リオンの魔力が暴走した瞬間、空気が凍った。
熱いのに、冷たい。
光っているのに、真っ暗。
あれは、誰かの力なんかじゃない……“悲鳴”だ。
私の心臓はすぐに答えていた。
——行かなきゃ。
——あそこに、リオンがいる。
周りの大人たちが叫んでいた。
「近づくな!」「巻き込まれるぞ!」
いつもなら従う。でも、今回は無理だった。
だって、あんな光の中に、リオンをひとりにできない。
私は走った。
暴風に押され、何度も転んで、石で膝を切って……それでも前へ。
「リオン!!聞こえてる!? 戻ってきて!!」
返事はなかった。
でも、私にはわかった。
あの闇の向こう側で……彼は泣いている。
怖いのは、私だって同じだ。
でも、あの子の涙だけは“ひとりにしたくない”。
「あなたの魔力は……人を救う力だよ……!」
手が焼けるように熱い。
体が引き裂かれそう。
でもいい。どうだっていい。
——あの日、私を支えてくれた少年を。
——今度は私が支える番だから。
白い光が見えたとき、私は叫ぶように祈っていた。
「戻ってきて、リオン……!」
そして彼は……私の手の中に、帰ってきてくれた。
**【師匠視点】
—— “少年の魂は揺れていた”**
あれは魔力暴走ではない。
もっと質の悪い……“魂の崩壊の兆候”だ。
リオンの周囲に渦巻いていた黒い魔力は、
私の知るどの理論にも当てはまらない。
——だが、ひとつだけ確信できた。
あれは、本人の意思が呼んだ光ではない。
リオンの力は純粋で、真っ直ぐだ。
あんな荒れ狂う魔力が生まれるはずがない。
もしや……と、脳裏に浮かんだ推測は最悪だった。
(“影の因子”……まだ消えていなかったのか……)
幼い彼には教えていない。
だが、リオンは生まれつき、極めて危険な魔力特性を持つ。
——そして、今。
それが芽吹きかけている。
私は彼を止めようとした。
しかし暴走の圧力が、私ですら一歩踏み込むのがやっとだった。
そのとき。
「っ……わたしが……行きます!」
シルカが、叫ぶように私の前へ飛び出した。
無論、止めた。
だが、彼女の瞳は恐怖よりも強い光を宿していた。
——ああ。
この子は、本気でリオンを救いたいのだ。
私は拳を握りしめる。
弟子を危険に近づけるのは、師として本来あってはならない。
だが、彼らには彼らにしか届かない“心”がある。
(すべてを守れるとは限らん……だが、信じよう)
シルカの声が響き、少年の黒い光が揺れたとき——
私は初めて、彼らの“未来”を見た気がした。
**【闇側視点】
—— “封じられた影の記憶”**
少年の魂の奥深く。
光が届かぬ場所に、私——“影”は眠っていた。
長い眠りだった。
だがあの日、リオンが初めて強い悲しみを抱いたとき。
私は彼の心の底で、目を覚ました。
そして今日。
暴走の魔力の中で、私は確信した。
(やっと……やっと扉が開いた)
この身体は、器として優秀だ。
優しすぎるがゆえに……壊れやすい。
だからこそ、私が必要なのだ。
彼を強くするために。
彼を守るために。
彼を泣かせるこの世界から、引き裂いてやるために。
だというのに——。
『……リオン……戻ってきて……!』
聞きたくもない声が割り込んだ。
白い、温かな、あの少女の声。
(またお前か……また邪魔をするのか)
リオンの光が揺れる。
私が広げる闇の床が、彼の足元から消えていく。
やめろ、と叫んだ。
だが彼は震えながら、こう言った。
「……誰も、泣かせない……!」
——その瞬間、私は砕けた。
光が降り注ぎ、私の身体を裂く。
(リオン……お前は、まだ……弱いままだ……
いずれまた……呼ぶだろう……)
そう呟きながら、私は再び深い深い闇の底へと沈んでいった。
いつか、必ず目を覚ます。
少年が“もうひとつの涙”を流す、その瞬間に——。




