7歳編・第86話:光と影の衝突 ― 少年の魂が裂かれるとき(続き)
黒く染まりかけたリオンの瞳が、ふいに揺れた。
——かすかな声が、闇の底から響いたからだ。
『……リオン……戻ってきて……』
それは、遠く微かでありながらも、どんな叫びよりも力強い“祈り”だった。
リオンはぼんやりと顔を上げる。
瓦礫の向こう。粉塵の中。
ずぶ濡れになりながら必死に走ってくるシルカの姿がある。
「……シル、カ……?」
魔力暴走の高熱が吹き荒ぶ中、彼女はためらわず飛び込んできた。
その小さな身体は揺れ、息は荒い。
それでもその瞳だけは、闇に飲まれかけたリオンをまっすぐに見据えている。
「お願い……行かないで……!」
暴走の奔流が、シルカの髪や服を裂こうとする。
伸ばしかけた手が弾かれ、彼女は膝をついた。
「っ……!」
それでも彼女は前へ。
這ってでも、もがいてでも、リオンのもとに近づこうとする。
——光が、一瞬だけ揺れた。
リオンの胸の奥で、黒い光と白い光がせめぎ合う。
(シル……カ……?
どうして、そんな……僕なんかのために……)
記憶がちぎれ、世界が歪み、痛みで意識が千切れそうになる。
だが——その中でも彼女の声だけは、はっきりと届いた。
「リオン……あなたの魔力は“人を救う”ためのものだよ……。
誰かを傷つけるためじゃ、ないよ……!」
ふっと、少年の頬を涙が伝う。
暴走の魔力が嘘のように弱まった。
黒い光が、シルカの声に怯えるように後退していく。
『やめろ……邪魔を……するな……』
闇の声が、怒りと怯えを混ぜながら響く。
リオンは歯を食いしばった。
両手を胸に押し当てる。そこにあるのは、自分のもう片方の魂。
「……僕は……!」
黒い光と白い光が交差し、世界が白く染まる。
リオンは、震える声で叫んだ。
「僕は、もう……間違えない!!
誰も……傷つけない!!
シルカを、仲間を……もう絶対に、泣かせない!!!」
その瞬間——。
黒い光が、音もなく裂けた。
ぱ゛ん、と弾けるように暴走の魔力が霧散し、
代わりに温かな白光がリオンの身体を包んだ。
暴風が止み、破壊の波動が静まる。
少年はその場に崩れ落ちる。
シルカは駆け寄り、落ちてくるリオンをそのまま抱きしめた。
「よかった……本当に……よかった……!」
「……シルカ。ごめん……迷惑……かけた……」
「ううん……戻ってきてくれた。それだけでいいの」
震える腕で抱きしめる少女。
弱々しく微笑む少年。
もう、光も影も、どちらも彼らを傷つけようとはしない。
ただ静かに、夜風だけが二人の肩を撫でていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回のエピソードは、リオンにとって大きな転換点となる回でした。
彼は魔力暴走という“内なる影”と向き合い、その中でシルカの想いが救いとなります。
リオンはまだ7歳という幼さの中で、
「持つ力の意味」
「人を守るという決意」
を自分の言葉で初めて掴みました。
そして、シルカの勇気と献身は、これからの彼らの関係に深い絆として刻まれます。
次回からは暴走後の余波、リオンの精神的成長、
そして新たに動き始める“影の勢力”の存在が明らかになっていきます。
今後も、少年と少女の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。




