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7歳編・第86話:光と影の衝突 ― 少年の魂が裂かれるとき

世界が、裂けた。


リオンの胸の奥で激しくうねる“白”と“黒”の魔力。

二つの力は、もはや並び立つことを拒むように激突し、少年の魂そのものを引き裂かんと暴れ狂っていた。


「っ……ぁ……ああああっ……!」


リオンの悲鳴をかき消すほどの轟音が、身体の内側から響く。

白き光は天へ、黒き影は大地へ――それぞれ逆方向へ引っ張られ、リオンの肉体はその狭間で震えた。


ミレーヌが駆け寄ろうとするが――


バチィッ!!


彼女の身体を黒い稲妻が弾く。


「くっ……! リオンに触れられない……!!」


ロウガも吼える。


「クソッ……これはただの魔力暴走じゃねぇ……“魂”が割れてる……!」


リオンの小さな身体は、地面から少し浮いていた。

白と黒。

二つの光が左右から引きちぎるように張り付き、まるで少年を別々の方向へ連れて行こうとしている。



――その時。


森の奥から現れた影が、静かに息を吐いた。


「……幼い器に、よくもまぁこれほど詰め込みおったものだな」


声は低く、重く、それでいて底知れぬ威厳を帯びていた。


ロウガが目を見開く。


「……お前……!」


ミレーヌが叫ぶ。


「どうして……ここに……“黒狼王(こくろうおう)”……!」


そこに立っていたのは、かつて森を統べた王――

全てを喰らう“影”の化身といわれる魔獣、黒狼王フェンリル。


その巨大な影の眼には、怨嗟も怒りもなく――ただ、リオンを見る冷静な光だけがあった。


フェンリルはゆっくりと歩み寄り、リオンの暴れ狂う魔力を睨み据える。


「白は天を求め、黒は地を求める。

その中心に立つ小童の魂が、持つはずのない“二つの起源”に引き裂かれておる」


ロウガが叫ぶ。


「どういう意味だ!」


フェンリルは一度だけリオンに視線を落としてから言った。


「この子には――“本来ありえぬ二柱の加護”が宿っている」


ミレーヌが息を呑む。


「二柱……?」


「白き神と、影の王。

相反する二つの源が、この小さき魂を奪い合っておるのだ」



リオンの悲鳴が、また空気を裂いた。


「やだ……やだ……やだぁぁっ……!!

どっちも……ひっぱらないで……!!」


目から溢れる涙は白く輝き、床へ落ちると黒い影に変わった。

魂の裏表が剥き出しになり、混ざり合い、砕け散ろうとしている。


ミレーヌは涙をこぼし叫ぶ。


「お願い……! リオンを助けて……!!」


フェンリルは首を振る。


「助ける? 違う。

この戦いは、この子自身が越えねばならぬ」


ロウガが怒鳴る。


「ふざけんなッ! ガキだぞ……! 七歳の子どもに、魂の争奪戦なんて耐えられるかよ!」


「ならば――壊れるだけだ」


その言葉はあまりにも冷たく、あまりにも残酷だった。


ミレーヌは震え、ロウガは歯を食いしばる。


だがフェンリルは、続けた。


「だが……望むならば、道を示すことはできる」


ミレーヌが息を呑む。


「道……?」


「白に身を委ねるか、影に身を染めるか。

あるいは――そのどちらでもない“第三の選択”を、この子が見つけるか」


ロウガが目を見開いた。


「第三の……選択……?」


フェンリルは静かに、リオンの額へ影を伸ばしながら言う。


「小さき王よ。

選べ。“魂を裂かれる前”に」



まるでその声が届いたかのように――


リオンの意識は、真っ白な空間へと落ちていった。


そこに浮かぶ二つの光。


一つは眩しいほどに優しい白。

一つはあまりにも深く、暖かい黒。


どちらもリオンを呼んでいた。


――来い。

――私を選べ。


胸が裂ける。

頭が割れる。

心が千切れる。


「……いやだよ……どっちも、きらいじゃない……」


リオンはただ泣きながら叫んだ。


「ぼくは……ぼくは……“ぼく”がいい……!!」


その瞬間――


世界の底から、もうひとつの声が響いた。


――ならば、手を伸ばせ。

リオン。

“お前の光”をつかめ。


リオンの瞳が見開かれた。


白でも黒でもない。

その狭間にひっそりと灯った、淡い金色の光。


ゆらり、と少年の魂の奥で揺れる。


それは……


リオン自身の、“始まりの力”。


リオンは震える指で、その光へそっと手を伸ばした。

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