7歳編・第83話:王都・白光の城門 ― 少年が踏む新たな大地
王都アウレリウス――
“白光の都”と呼ばれるその巨大都市が、
朝の靄をまとって姿を現した。
リオンの乗った馬車が丘を越えた瞬間、
その光景はまるで天空の宮殿だった。
白い城壁が延々と続き、
天へ向かってそびえる塔がいくつも突き立っている。
城壁の周囲には巨大な魔術障壁が張られ、
薄い金色の光が揺らめいて見えた。
「……でか……」
思わず声が漏れる。
レイティアが微笑しながら答えた。
「王都へ来るのは初めてですね。
ここは人が集い、魔術学問が集まり、そして――
神殿と学院が世界中の“目”になっている場所です」
リオンは圧倒されながら馬車の窓に額を寄せた。
(すごい……あれ、全部魔法の光……?
王都って……こんなに大きいんだ……)
やがて城壁の巨大な門――
“白光の城門”が近づいてくる。
門は三人の巨人が揃って入れるほどの大きさで、
そこに刻まれた紋章が朝日を浴びてきらめいていた。
門の前には、
銀鎧をまとった聖騎士団が二列に立っている。
レイティアの護衛依頼を受けたため、
リオンたちの馬車は列をすり抜けて
特別通路へ案内された。
騎士の一人が馬車に近づき、
レイティアに敬礼する。
「レイティア殿、王都へのご帰還、
ならびに“特級護送対象”の入都、
確認しました」
“特級護送対象”――リオンのことだ。
(ぼくが……特級……?)
レイティアは静かに返す。
「対象の安全保障、お願いします。
これは国の未来に関わる案件です」
その声に、騎士たちは一斉に姿勢を正した。
リオンは自分がどれだけ大きな枠に
巻き込まれているのかを痛感し、
小さく背筋が震えた。
■
馬車が城門をくぐる。
その瞬間――
金色の障壁がリオンの体を“撫でる”ように通り抜けた。
ひやりとした感覚が背中を走る。
「わっ……!」
レイティアが説明する。
「入都者への安全確認です。
魔物や呪われた artefact が持ち込まれないように、
神術による“浄化の膜”が設置されているのです」
「ぼく……ひっかからなかった……?」
「当然です。
リオンは“汚染されていない”」
レイティアは言った。
しかし、その表情には微かな影があった。
(……でもぼくの胸……あれは……)
脈動は、今もかすかに響いている。
ドク……ドク……
(浄化……何も反応しなかったけど……
あの影って……何なんだろ……)
馬車は王都の大通りを進む。
舗装された白石の道。
左右には商人の店、魔道具店、
露店の香ばしい匂い、
巨大な魔導灯が並び、
宮殿へ向かって一直線に伸びていた。
人の多さにリオンは驚きっぱなしだ。
「すご……人、こんなに……!」
「王都は常にこれくらい賑やかです。
そして中心部に近づくにつれ、
魔力の濃度も高くなる」
魔力の濃度――
確かに外の空気が微かに“ざわざわ”している。
(魔力って……こんなに空気に混ざってるんだ……
森と全然違う……)
レイティアの声が続いた。
「このまま中央区へ向かいます。
あなたの検査は王都最高の魔術機関――
“白聖院”で行われます」
「白聖院……?」
レイティアは頷く。
「魔法診断と神性管理の最高権威です。
王国の“心臓”とも呼ばれる場所ですよ」
リオンは無意識に胸を押さえた。
(ぼくの中のこれ……
ばれちゃうのかな……)
不安がより濃くなる。
そのとき――
馬車の窓から、
巨大な白い建物が見えてきた。
尖塔が九本、まるで光を刺すように天へ伸びている。
建物全体が白大理石で造られ、
中央には大きな青い魔力石が埋め込まれていた。
「……あれが……白聖院……」
リオンは思わず声を失う。
レイティアは石造りの建物を見ながら
静かに言った。
「恐れなくていい。
あなたを守るための検査です。
あなたを罰するための場所ではありません」
リオンは小さく頷く。
だが――胸の鼓動が
小さく速くなっていく。
(ぼく……だいじょうぶ……だよね?)
■
白聖院の前に馬車が止まると、
白衣をまとった複数の“神術官”が出迎えた。
その中心に立つ一人、
白銀の髪を持つ老人が歩み出る。
「聖騎士レイティアよ。
遠路ご苦労であった」
レイティアは恭しく頭を下げる。
「最高位神術官エルミアス殿。
本件、王命により急を要します。
少年の検査の準備は整っていますか?」
エルミアスはゆっくり頷いた。
「もちろんだ。
“光核の脈動”を持つ者――
それが真実ならば、
早急に対処しなければなるまい」
リオンは思わずレイティアの袖を掴む。
「……レイティア……
ぼく……なんか……怖い……」
レイティアは優しく手を添えた。
「大丈夫。
私はどこにも行きません。
あなたのそばにいます。
約束します」
その言葉に、リオンの指先が少しほどけた。
だが――
その瞬間、胸の“光核”が脈動する。
ドクンッ……!!
(……っ!!)
痛くはない。
だが明らかに強くなっている。
レイティアも気づいた。
「今……反応が……?」
エルミアスの瞳が鋭くなる。
「急げ。
“内部発光”は不安定化の兆候だ。
施設へ通す!」
神術官たちが急いで道を開ける。
リオンは胸を押さえながら、
白聖院の白い回廊へと足を踏み入れた。
未知の検査。
未知の運命。
未知の“何か”。
そのすべてが、
いま――明かされようとしていた。
そして遠い空の向こうでは、
森から流れた黒い霧が
ゆっくりと王都の空気へ侵入し始めていた。
“影”が微かに語りかける。
――器……近ヅイタ……
――奪ウ……トキ、近イ……
リオンの胸の光が、
それに応えるように震えていた。
『白聖院・光核診断 ― 少年の中の“もう一つ”』
リオンの体内にある“光核”。
それは魔力なのか、神性なのか、
あるいは――別の何かか。
そしてついに、“影”の正体の一端が明かされる。




