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7歳編・第81話:王都行き ― 運命の馬車

翌朝。

村を包む空気は、昨夜の出来事をまるで夢にしたかのように静かだった。


だが――リオンの家の前には、

王都第三騎士隊の紋章を掲げた一台の馬車が止まっている。


白銀の馬体。

緋色の外套を羽織った御者。

そして馬車には、王都直轄任務の証である蒼い旗。


村人たちは遠巻きにその光景を見つめ、

小さくざわついていた。


「本当に……この村から王都へ……?」


「リオンくんが……王国に呼ばれるなんて……」


「あの子……すごい子だったんだな……」


称賛、驚愕、そして不安。

様々な感情が入り混じる視線がリオンに注がれる。


リオンは小さな荷物を背負いながら、

村をゆっくりと見渡した。


(ここ……ぼくの大事な場所……

 でも……今は行かなきゃ……)


胸は強く締めつけられ、

足は重くて仕方がなかった。



馬車のそばでは、

すでにレイティアが準備を整えて待っていた。


「リオン、支度は終わりましたか?」


「……うん」


レイティアは優しく微笑み、

しかし少しだけ頼りなげに目を伏せる。


「ご両親は……大丈夫ですか?」


リオンは振り返る。


そこには――泣きそうな顔を必死に隠している

エルネストとエルナが立っていた。


「リオン……」


エルナは駆け寄ると、

ぎゅっとリオンを抱きしめた。


「本当に……気をつけてね……

 困ったらすぐ誰かに言うのよ……?」


「うん……」


エルネストも肩に大きな手を置いた。


「男はな……“危ないときほど声を出せ”。

 わかったな?」


「……わかった」


二人の手の温かさに、

胸がじんわりと痛み出す。


レイティアは少し距離を取り、

彼らの時間を壊さないよう静かに待っていた。


そこへ――

バルター団長が姿を現す。


「リオン!」


リオンが振り向くと、

団長はいつもの豪快さとは違う

静かな眼差しで近寄ってきた。


そして、軽く拳を差し出した。


リオンも小さな拳を合わせる。


「お前の力は……誰かのためになる。

 どんな結果になっても、お前の選んだ道は正しい。

 堂々と胸を張って行け」


「うん……ありがとう、バルター団長……」


バルターの目がほんの少し潤んだのを

リオンは見逃さなかったが――

あえて何も言わなかった。



「そろそろ、出発します」


レイティアの声が響く。


リオンが馬車に足をかけかけたそのとき――


「リオン!」


聞き慣れた声が村道の奥から走ってきた。


ミーナだ。


息を切らし、髪に土をつけながら

必死に駆け寄ってくる。


「はぁ……はぁ……っ……

 行っちゃうって……聞いて……!」


リオンは思わず笑った。


「ミーナ……」


ミーナは涙をにじませながら、

リオンの手を握る。


「……ぜったい……帰ってきてよ……」


「うん。

 帰ってくるよ。

 約束する」


ミーナは何か言いたげに口を開け――

しかし、結局言葉にはせずに

強く頷いた。


「……ぜったいだからねっ!」


「うん!」


二人は短い握手をかわし、

ミーナはリオンの背中を力いっぱい押した。


「じゃあ、行ってこい――英雄!」


リオンは吹き出しながら馬車によじ登った。


「英雄なんて……違うよ……」


ミーナは胸に手を当てて笑う。


「じゃあ、帰ってきたら名乗りなよ!

 村一番のすごい魔法使いだって!」


リオンの心が、ほんの少しだけ軽くなった。



馬車に乗り込むと、

レイティアが向かいに座り、扉を閉める。


御者が合図を送り、

馬たちがゆっくりと歩みを始めた。


「出発――!」


掛け声とともに馬車が村を離れていく。


リオンは小窓から外を見た。


家。

畑。

森。

そして、人々の顔。


そのすべてが遠ざかっていく。


ひゅう……

と、どこか寂しい風が馬車の中に入り込む。


(みんな……ありがとう。

 絶対……帰ってくるから……)



振動に揺られながら、

レイティアがリオンに向き直る。


「……リオン。

 あなたに話しておかなければならないことがあります」


「え……何?」


レイティアの表情はいつになく真剣だった。


「あなたの胸の光……

 あれは、“神性魔力”と呼ばれるものです」


リオンは息を呑む。


「し、神……?」


「ええ。

 この世界で“存在が確認されている”最高位の魔力。

 しかし本来……人間には扱えない。

 人間の魂は、神性魔力に耐えるようにはできていません」


「じゃあ……ぼく……」


リオンの声が震える。


レイティアは静かに続ける。


「あなたは例外。

 あなたの魂は……“神性に適合している”。

 だから光が溢れ、影を消したのです」


胸がドクンと脈打つ。


扉の声が耳の奥に蘇る。


――開けよ……

――器として……十分……


リオンは身を震わせた。


(“器”って……

 ぼくのこと……?

 神性魔力を持ってるから……?)


レイティアはさらに言う。


「しかし……一つだけ、問題があります」


「も……問題……?」


「あなたの神性魔力は“本来の状態”ではない。

 歪んでいる。

 何かが無理やりあなたの魔力に入り込んだ……

 そんな違和感があるのです」


心臓が冷たくなる。


(入ってきた……?

 ぼくの中に……?

 あの扉の声……?

 あれが……?)


リオンの指先が震える。


レイティアは気づいて、

優しくリオンの手を取った。


「大丈夫。

 あなたを傷つけるつもりはない。

 ただ……あなたの安全のために、

 王都で検査を受けてほしいのです」


リオンはゆっくりと息を吸った。


「……うん。

 わかった」


馬車は王都へ向かって進んでいく。


だがそのとき――


視界の端で、

村から遠く離れた森の奥で

“黒い霧”がうごめいた。


その中心に、

歪んだ“影の目”が開く。


――神性……

――器……見つケタ……


その声は風に溶け、誰にも届かない。


ただひとつだけ確かだった。

影の主が――

ついにリオンを“認識した”。


そして静かに、

確実に歩み寄ってくる。


リオンの運命は、

もう後戻りできない道へと踏み込んでいた。

『王都への道中 ― 聖騎士と魔力の脈動』


リオンは馬車の中で、

神性魔力の“脈動”に異変を感じ始める。


そしてレイティアが明かす、

神性をめぐる王国の“秘密”とは――?

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