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7歳編・第80話:影の残滓 ― 王都への報告

影が消え去ったあとも、

村には濃い緊張がまだ残っていた。


地面には黒い粒子が薄く散らばり、

風が吹くたびにサラサラと音を立てて揺れている。


しかし、その粒子はただの“灰”ではなかった。


リオンは本能で理解していた。

――これはまだ、生きている。


胸の光は完全には落ち着かず、

鈍い脈動を続けている。


(まだ……影の気配が残ってる……

 でも、さっきみたいな大きな存在じゃない。

 “残りかす”みたいな……)


バルター団長がリオンの隣に膝をつき、

そっと肩に手を置いた。


「リオン、大丈夫か?」


「うん……ちょっと疲れただけ……」


リオンは笑おうとしたが、

息がまだ乱れていた。


エルナが震える手でリオンを抱き寄せ、

エルネストは額に手を当てて必死に涙を堪えている。


「よく……よく頑張った……」


「リオン……無茶しすぎよ……」


リオンは二人の腕の中で、かすかに微笑んだ。


(ぼく……守れたんだ……

 みんなを……ちゃんと……)


だが、胸の光は不穏な脈を刻み続けていた。



バルター団長は黒い粒子を確認しながら呟いた。


「……これは、魔物の残滓ではない。

 瘴気でも……死霊の灰でもない。

 こんなもの、俺は見たことがないぞ……」


近くにいた兵士が唾を飲み込む。


「団長……この粒子……まだ動いてませんか?」


「気のせいだと言いたいが……

 そうとも言い切れん……」


村人たちは距離を取り、恐怖に震えている。


そのとき、背後から馬の蹄が土を蹴る音が響いた。


“パカラッ、パカラッーー”


村の入口から、王都の紋章を掲げた騎兵隊が現れた。


「王都の……騎士団……?」


バルターが目を細める。


馬を降りたのは、青い外套を羽織る若い女性騎士だった。


銀の髪を束ね、冷静な瞳をしたその女性は

バルターを見つけると直立不動で敬礼した。


「バルター団長。

 王都第三騎士隊・情報局所属、

 レイティア・ヴァンデルです。

 急報を受け、影の出現を調査するため参りました」


バルターは驚きの表情を隠せない。


「情報局……!

 王都は、影の存在を把握していたのか……?」


レイティアは視線を黒い粒子へと向けた。


その目が、一瞬だけ鋭く細まる。


「……嫌な予感がしていましたが……

 まさか“ここまで”の規模とは……」


「“ここまで”……?」


バルターの問いには答えず、

レイティアはリオンの存在に気づいた。


そして、彼の胸にわずかに宿る金色の光を見て

目を見開く。


「……まさか……!」


リオンは思わず後ずさる。


「え……あ、あの……」


レイティアは真剣な眼差しでリオンを見つめた。


「あなた……いったいどこで、

 その“光”を手に入れたのですか?」


バルターが慌てて間に入る。


「レイティア殿、リオンはただの――」


女性騎士は静かに首を振った。


「ただの子どもではありません。

 その光……王国が長年探し求めていた“現象”です」


「……現象?」


リオンは思わず胸に手を当てた。


あの光。

あの力。

扉の声。


(王国が……探していた……?

 ぼくの力を……?)


レイティアは膝をつき、リオンと同じ目線になった。


そして優しく言う。


「怖がらなくて大丈夫です。

 私たちは、あなたの敵ではありません。

 ただ、その力について……知る必要があるのです」


リオンは頬を強ばらせた。


(ぼくの力……知られちゃった……

 どうしよう……

 あんまり知られたくないのに……)


そんなリオンの不安を察したのか、

レイティアは柔らかい笑みを浮かべた。


「安心してください。

 あなたを傷つけるつもりは一切ありません。

 むしろ……守りたいのです」


エルネストとエルナは警戒しながらも、

その言葉の真剣さは感じ取っていた。


バルターが一歩前に出る。


「レイティア殿。

 まず聞かせてほしい――

 あの影はいったい、何なのだ?」


レイティアの表情が硬くなる。


「……“彼ら”は、王国東部で確認されている

 “ゲート”の影響です」


「門だと……?」


村人たちがざわつく。


レイティアは続けた。


「本来、この国のどこにも存在しないはずの

 異界の瘴気……

 それが、突然大地の各地に“門”として現れ、

 そこから影のような存在が漏れ出しています」


「異界……!」


リオンの胸がずきりと痛む。


扉の声を思い出す。


――開けよ……


――こちら側に……


レイティアは黒い粒子を拾い上げた。


粒子はまだ蠢いている。


「これも……“影の瘴気”です。

 王都に持ち帰り、調査する必要があります」


リオンは勇気を振り絞り、聞いた。


「ぼくの……光は……

 影と関係があるの……?」


レイティアは真剣に頷いた。


「ええ。

 あなたの光は、影の瘴気を“消す”力を持っている。

 この世界で、それができる存在は……

 今まで確認されていませんでした」


リオンの胸がざわつく。


(ぼく……やっぱり……普通じゃないんだ……

 ぼくの力は……世界と関係してる……?)


レイティアはリオンの肩に優しく触れた。


「あなたの力は危険ではありません。

 むしろ……必要とされているのです。

 この世界を守るために」


村人たちは息を呑む。


バルターでさえ声を失っていた。


エルネストとエルナはリオンの肩を抱き寄せ、

ただただ不安そうに震えている。


リオンは胸の光を押さえながら、

静かに心の中で思った。


(ぼくの力は……世界のために……?

 でも……扉の声は……違う気がする……

 ぼくを呼んでる……

 開けさせようとしてる……)


レイティアは決意したように言った。


「リオン。

 王都へ同行してもらいたい。

 あなたの力を、正式に調べるために」


村人たちが一斉にざわめいた。


エルナが叫ぶ。


「ま、待ってください!

 この子はまだ七歳なんです!

 こんな危険なことに――」


レイティアは頭を下げた。


「理解しています。

 ですが、影の脅威は確実に広まっています。

 この子の力が、

 王国全土を救う可能性があるのです」


リオンは唇を噛んだ。


村を守りたい気持ちと、

家族のそばにいたい想いと、

世界を守るかもしれない責任。


そのすべてが胸をしめつけた。


(ぼく……どうすれば……)


そんなとき、

胸の光がひときわ強く脈打った。


リオンは顔を上げ、

しっかりとレイティアを見つめて言った。


「……王都に行きます」


エルナが息を呑む。


「リオン……!」


エルネストは拳を握りしめる。


バルター団長は、深く頷いた。


「決断したんだな……」


リオンは、震える声で続けた。


「ぼくの力で……

 守れる人がいるなら……

 ぼく……行くよ……」


レイティアは静かに微笑んだ。


「ありがとう、リオン。

 あなたの勇気に……感謝します」


こうして――


リオンは初めて、

自分の意思で“世界”のために一歩を踏み出した。


だがその影の残滓は、

リオンの決断を嘲笑うように

黒い霧となって空へと消えていった。


誰にも気づかれないまま――

どこか別の場所へ、確実に届いていく。


それはまだ始まりにすぎなかった。

『王都行き ― 運命の馬車』


王都へ向かう馬車の中で、

リオンは自分の力の“正体”に触れる。


そして――

影の主の気配が、静かに動き出す。

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