表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/147

7歳編・第77話:封鎖された村 ― 見えない影と不穏な朝

翌朝、夜明け前。

まだ薄暗い空の下、村にはいつになく緊張した空気が満ちていた。


騎士団の兵たちが村の周囲に結界用の柱を立て、

魔法陣は淡く白光を放っている。


子どもたちの笑い声も聞こえない。

人々は家からひっそりと外を覗くだけで、

村はまるで“息を潜めている”かのようだった。


その中心にあるエルネスト家では――

リオンが布団の中で寝返りを打っていた。


(なんだろう……胸がざわざわする)


昨日より明らかに“何か”が近づいている感覚がある。


魔力ではない。

もっと冷たく、もっと重い――

鉄の刃みたいな気配。


(嫌な感じ……)


まだ眠っていたい気持ちもあったが、

この不安を抱えたまま眠るのは無理だった。


リオンは静かに起き上がる。


「……朝、だよね?」


窓の外はまだ薄赤く、

陽が昇ったばかりのようだった。


階下に降りると、父と母がすでに食事の準備をしていた。


エルネストがリオンを見るなり微笑む。


「おはよう、リオン。よく寝られたか?」


「……うん。大丈夫だよ」


本当は少しも大丈夫じゃない。

けれど心配をかけたくなかった。


メイラが静かに頭を撫でた。


「今日は村の真ん中に集まるわ。

 危険が近づいているかもしれないから、皆で固まっておくの」


「うん……」


リオンはパンをかじりながら、外から聞こえる声に耳を傾けた。


「結界、もう少し南にも広げておけ!」

「監視班は交代で村境に立て!」

「獣道からも気配を探れ!」


緊張と警戒の声が響く。


昨日の賢者グレアとは違う。

彼は事前に気配を感じられた。

けれど――


(今近づいてる“何か”は……気配が薄い)


まるで“存在を隠している”かのようだった。



村の集会場には、すでにほとんどの村人が集まっていた。


小さな子どもたちは親に抱きつき、

噂話が囁かれ、

騎士団は村人の周囲に警備を張っている。


バルター団長が壇に立ち、声を張り上げた。


「皆、聞いてくれ。

 昨夜の光柱について、周囲の国々でも確認されたらしい。

 特に北のヴァルトア王国は、早期に動く可能性が高い」


たちまちざわめきが走る。


「ヴァルトアって……昔、戦争してた国だろ?」

「魔法兵ばかり育てるって聞いたぞ……」

「何が来るってんだ……?」


不安が広がる中、バルターは静かに続けた。


「ただし――この村には“賢者グレア”という抑止力が来た。

 今は彼がこの地域に留まっているため、

 北の連中も軽々しく手は出してこないだろう」


(……ほんとかな)


リオンはグレアの気まぐれさを考え、

少しだけ胸がざわついた。


バルターは続ける。


「リオン君やレインフォード家を狙ってくる者がいれば、

 村全体で守る。

 騎士団も全力で防衛にあたる。

 しばらくの間は外に出ないように」


村人たちが頷く。


リオンは胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


(ぼくのせいで……村中がこんなに……)


だがメイラがそっと手を握ってくれた。


「大丈夫。あなたは悪くないわ」


リオンも小さく頷いた。



その頃、村の周囲では監視班が目を光らせていた。


青年騎士のラルスが森の入り口で眉を顰める。


「……おかしいな。森の魔獣がほとんど見当たらない」


隣の兵士も頷く。


「いつもは朝になると巣から出てくるはずなのに……

 さっきから鳥の声もない」


森は静寂に包まれ、まるで息を潜めていた。


風が吹いているはずなのに、木々の葉は一枚も揺れていない。


不自然なほどの“沈黙”。


ラルスの背筋に冷たいものが走る。


「……嫌な感じだな」


兵士が小声で問う。


「魔獣がいないのは……

 もっと強い“何か”が近くにいるから、じゃ?」


ラルスが呟く。


「……かもしれない」


その瞬間――

森の奥で“カサリ”と枝が折れる音がした。


ただの動物の気配ではない。

もっと重く、もっと無機質な……

呼吸を感じない“影”の気配。


ラルスは剣に手を伸ばし、目を凝らす。


しかし――

見えるはずの存在が、見えない。


木の影の中に“何か”がいるのに。

気配だけが明確なのに。

視界には映らない。


(透明化……? いや、違う……

 これは、存在そのものが“薄い”……)


兵士が震え声で言った。


「ラ、ラルス先輩……これ……やばくないですか……?」


ラルスは唾を飲み込み、後ろへ下がった。


「全隊に知らせろ……!

 “見えない敵”が近づいてる!!」


その言葉が伝令に乗って村へと走る。



同じ頃、集会場で騎士がバルターに耳打ちした。


「団長! 森から不明の気配接近!

 敵かどうかは不明ですが……

 “姿が確認できない”そうです!」


村中がざわついた。


バルターはすぐさま指示を飛ばす。


「全戦力、村の北へ!

 レインフォード家は中央へ避難させろ!」


リオンの心臓がドクンと跳ねた。


(来た……!)


胸の奥の“光”が微かに震える。


それは恐怖でも怒りでもなく――

“拒絶反応”だった。


まるで体が叫んでいる。


来るな。近寄るな。

 あれは絶対に危ない。


エルネストがリオンの肩を掴む。


「リオン、急いで!」


メイラもリオンの手を握りながら走り出す。


しかし、リオンは足を止めてしまった。


「お父さん……お母さん……」


二人が振り返る。


「どうした、リオン?」


リオンは震える声で言った。


「村に近づいてる“何か”……

 ぼくには……わかるんだ。

 あれは……悪意だけでできてるみたいな……

 すごく……冷たい“影”なの」


メイラが息を呑む。


エルネストはリオンの両肩に手を置いた。


「怖くてもいい。

 だが――お前は守られる側だ。

 今は逃げるんだ、リオン」


リオンは唇を噛んだ。


(守られるだけなんて……いやだ。

 でも……どうすれば……)


そのとき――


空気が、震えた。


村全体の結界が“キィィン……”と金属のような音を響かせて揺れる。


続けざまに、北の森から――

見えない“何か”が結界に触れる気配がした。


次の瞬間、結界の透明な膜が波紋のように揺れ動く。


(うそ……結界に……ぶつかった!?)


遠くから騎士たちの叫び声が響いた。


「結界が反応してる!!

 何かが……攻撃してきてるぞ!!」


「敵の姿が見えない!!」


「結界強度、急速に低下!!」


村人たちの悲鳴が上がり、

騎士団が盾を構え、

空気が一気に凍りつく。


リオンの胸が強く脈打つ。


(あいつら……来た……!)


その“影”の正体は、まだ誰も知らない。


だが――

ヴァルトア始原部隊が村に迫っているのは、

間違いなかった。


そして、

彼らの目的はただひとつ。


――“特異点・リオンの確保”。


村の運命が、音を立てて変わり始めた。

『見えない敵 ― 結界侵食』


姿なき侵入者が結界を侵食し、

騎士団は必死の防衛戦を強いられる。


リオンもまた、胸の奥の“光”が激しく震え――

ついに、あの“扉”が少しだけ開いてしまう。


次回、緊迫の戦闘開始。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ