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7歳編・第76話:世界の影 ― ヴァルトア始原部隊の影

夜の空気は冷たく、森の葉が風に揺れて細い音を立てていた。

村の中心では、緊急で開かれた大人たちの集会が続いている。

リオンは家の外に出ることを許されず、静かに窓辺に座って耳を澄ませた。


(ぼくのせいで……村が不安になってる)


胸が痛む。

昨日の魔力暴走。

今日の賢者グレアの来訪。

そして、聞き捨てならない“ヴァルトア始原部隊”の存在。


リオンはまだ理解しきれていない。

だが――本能だけは警告していた。


あれは、来てはいけない存在だ、と。



家の外では、エルネストとメイラがバルター団長と話していた。


「団長……そのヴァルトアという国は、本当に……そんなに危険なのですか?」


メイラの声は震えている。


バルターは重い溜息をついた。


「言いにくいが……あそこは“魔法のためなら何でもやる国”だ。

 神の遺物や魔獣の核を求めて戦争も仕掛けたし、

 生体実験も平然と行っている」


メイラが手で口を押さえた。


「そんな国が……リオンを……?」


「昨夜の光柱を見た者は、北の国境全域にいたはずだ。

 魔力では説明できない『神性波動』など、

 ヴァルトアにとっては宝の山だ。必ず動く」


エルネストが拳を握り締める。


「どうすればいい……? 私たちが村から逃げたほうが……」


「いや、逃げても追ってくる可能性が高い。

 連中にとって“価値ある対象”は国境を越えてでも確保する」


バルターは静かに続けた。


「……しかし希望もある」


「希望?」


「あの賢者グレアが言っていた。

 “今回は興味本位で来ただけだ”とな」


エルネストが目を細める。


「それが……どう希望になる?」


「奴は敵にも味方にもならないが、

 “面白いものを壊されたくはない”という変な矜持がある。

 リオンの命に危険が迫れば……動く可能性がある」


メイラの表情は複雑だった。


(あの人が……味方になる……?)


希望ではある。

しかし、同時に怖さもある。


彼は敵でも味方でもない。

そして、世界から浮いた存在。


人間の常識で測ることはできない。



一方そのころ――

国境から遠く離れた北大陸。


氷雪の大地の上、黒い影がいくつも連なり進んでいた。


鎧をまとった兵士ではない。

黒い外套、黒い仮面。

胸にはヴァルトア王紋の“蒼い三角”が刻まれている。


ヴァルトア始原部隊――

魔法の禁忌領域を専門に扱う、最悪の部隊。


その先頭を歩く男が、低く呟く。


「……この魔力痕、間違いない。

 “魔力”ではない。“神性反応”だ」


無造作に地面へ手を伸ばし、土を掬う。


白い土に微かに残る残滓が光を帯びた。


「これほどの波動……王国の記録にも残らぬ異常値。

 対象:『特異点』として扱う」


後ろの兵が問う。


「確保指令はどうしますか?

 捕獲優先ですか、それとも――」


「生死は問わぬ。

 しかし“核”だけは無傷で持ち帰るようにと指示があった」


兵士たちは静かに頷く。


彼らにとって命令は絶対。

暴走した魔物でも、生物でも、人間でも――

必要なのは“素材”だけ。


隊長が歩みを止め、遠くの南空を見た。


「光柱の位置……

 距離からして、この速度なら――」


蒼い仮面がわずかに傾く。


「到着は、およそ十日後だ」


雪煙が舞い、始原部隊は再び歩を進めた。



そのころリオンは、静かな部屋の中で膝を抱えていた。


(ぼくの中に……

 “神性波動”なんてものがあるなんて……)


誰よりも本人が信じられない。


ぼくは、ただの農家の子なのに。

 ただ家族と……普通に暮らしたかっただけなのに。


胸の奥がじわりと熱くなる。


ドアが開き、メイラが入ってきた。


「リオン……入ってもいい?」


「……うん」


母はそっと隣に座り、優しく肩を抱いた。


「怖いのよね。

 お母さんも……怖いわ」


リオンの目が揺れた。


「え……お母さんも?」


「当然よ。

 だってあなたは、私の大切な息子なんだから」


メイラは続ける。


「でもね――

 あなたはあなた。

 どんな力を持っていても、

 どんな存在だと言われても、

 リオンは私たちの家族よ」


リオンの胸に、ようやく少しだけ温かさが戻った。


(そうだ……ぼくは……リオン・レインフォードなんだ)


「ありがとう……お母さん」


メイラが微笑んだ。


「だからね、リオン。

 もし怖いことがあったら、すぐに言って。

 ひとりで抱えないで」


リオンは頷いた。


そして――

胸の奥の光が、少しだけ静かになった気がした。


(扉が……閉じたわけじゃない。

 でも……ぼくはひとりじゃない)


そう思えた。



翌朝。

朝日が昇る前から、騎士団は村の周りで防衛線を敷き始めた。


バルター団長がエルネストとメイラを呼び出す。


「村を守るための準備を始める。

 しばらくの間、家族全員が村の中央に集まってくれ」


「……わかりました」


「リオンには負担をかけるが、あの光を見た者は多い。

 今後、別の者が訪れる可能性が高い。

 警戒を解除するまで、外出を控えてくれ」


その言葉で、リオンの胸が強く脈打った。


(来る……誰かが……)


昨日の賢者グレアではない。

もっと冷たい、鋭く刺すような気配。


――その影は、確実に village へ向かっている。


そしてリオンは知らなかった。


その“影”はすでに、

遠い北の大地から静かに歩き出していることを。


迫る脅威と、少年の成長。

世界が動く音が、確実に近づいていた。

『封鎖された村 ― 見えない影と不穏な朝』


村は完全な警戒態勢に入り、

外からの訪問者はすべて騎士団の監視下に置かれる。

しかし、その目をかいくぐり“何か”が動き始める。


迫りくる足音。

少年の胸に灯る小さな光。


物語は次の局面へ――。

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