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7歳編・第74話:神性の余波 ― 村に訪れる二つの影

夜が明け、村は静かすぎる朝を迎えた。


昨日の“光の爆ぜ”は、村の誰もが一生忘れないだろう。

しかし外面だけ見れば、村はほとんど無傷だった。

家も畑も木々も、まるで大きな風が吹いただけのように少し乱れただけ。


村人たちは胸を撫でおろしながらも、

恐怖と驚きに揺れる目でレインフォード家の方を見ていた。



家の中では、リオンが布団に座り込み、

まだ眠るリリィを見つめていた。


(……昨日の光。

 あれは結局、なんだったんだろう)


暴走ではなく、制御された“何か”。

でも自分でやった覚えはほとんどない。


ただ、胸の奥で、別の何かがゆっくり呼吸しているような――

そんな感覚がまだ残っていた。


それが不安だった。


「リオン、起きてる?」


振り向くと、メイラが薄い笑みを浮かべていた。


「うん……お母さん」


「苦しくない? まだ怖くない?」


リオンは首を横に振った。


「ぼく、大丈夫。

 ……でも、またあんな光が出たらどうしようって……」


メイラは優しく頭を撫でた。


「大丈夫よ。

 あなたは怖がっていたけど、誰も傷つかなかった。

 あれはリオンのせいじゃない。

 あの光は誰かを守ろうとして、そうなっただけ」


「……守ろうとした?」


「リリィを抱きしめていたでしょう?

 その時の気持ちが、魔力に伝わったんだと思うわ」


リオンは胸に手を当てた。

確かに、あの時はただ必死で――

“守りたい”と思っていた。


でも、それだけでこんな現象が起こるのなら……


(ぼく、やっぱり普通じゃないんだ……)


そう思った瞬間。


――コン、コン。


家の玄関を控えめに叩く音がした。


エルネストの声が聞こえる。


「リオン、メイラ。

 客だ」



玄関へ向かうと、すでに父が扉を開けていた。

そこには、白金騎士団の団長バルターが立っていた。


昨日とは違い、完全武装ではなく簡易装備だが、

その存在感はやはり鋭い。


「おはようございます、レインフォード氏」


「……どうぞ、中へ」


エルネストが苦い表情で招き入れると、

バルターはリオンを見るなり、膝をついて深く頭を下げた。


「リオン殿。

 昨夜の件について、正式な報告と謝罪があります」


リオンは驚いて、一歩下がった。


「ど……どうして謝るの?」


「我々の動きが遅れ、

 あなたを危険に晒してしまった。

 本来なら、光導派も蒼天の塔も、近付く前に排除すべきだった」


エルネストが苛立ったように口を開く。


「そんなことより――

 息子をどうするつもりだ?」


バルターは真っ直ぐに父を見た。


「王国から正式な命令が下りた。

 この村の外周に、白金騎士団の部隊を常駐させる。

 光導派も塔も簡単には近付けん」


エルネストは黙り込んだ。


メイラは不安そうに尋ねる。


「それは……

 リオンを連れて行かない、ということでしょうか?」


「ああ。

 少なくとも――

 “八歳の誕生日までは絶対に家族から離さない”

 というのが国王陛下の直々の決定だ」


リオンは胸を撫で下ろした。


(……よかった。

 しばらくは、家族といられる……)


だがバルターは言葉を続けた。


「しかし問題はもう一つある。

 ――昨夜の光は、王国だけでなく周辺国にも観測されてしまった」


家族全員の表情が固まる。


「な……なんだと?」


「遠隔魔導観測塔が光の柱を捉えた。

 国境付近でも異常エネルギーとして記録されている。

 つまり――」


バルターは深刻な声で告げた。


「リオン殿は今や、“国際的な重要対象”となった」


リオンは息を飲んだ。


メイラは震える声を出す。


「ま、待って……それって……

 他国がリオンを狙うかもしれないってこと?」


バルターは頷いた。


「はい。

 間違いなく、どの国も研究したがる。

 だからこそ、我々が守る」


エルネストが拳を握る。


「……だったら、村を出た方がいいのか?」


バルターは首を横に振る。


「どこに行っても危険は変わらない。

 むしろ村の方が守りやすい。

 外周に我々が防衛線を敷き、

 村人を避難させる必要もない」


「……でも」


その時だった。


――ガサッ。


家の裏の方で物音がした。


バルターが即座に剣に手をかける。


「……誰かいる」


エルネストも身構える。

リオンは反射的にリリィを抱き寄せた。


視線が家の裏口へ向けられた瞬間――


「待って、敵じゃない!」


外から飛び込んできたのは、

白金騎士団の若手兵士だった。


息を切らしながら報告する。


「だ、団長! 外周で……!

 未確認の人物を捕縛しました!

 でも……そいつ……!」


「どうした」


兵士は震える声で叫んだ。


「“空を歩いて”ました!!」


家の中が一気に静まり返った。


空を歩く――

そんなこと、常識ではあり得ない。


バルターは顔色を変えた。


「……まさか、他国の魔導師か……?

 いや、空駆けできる人間など限られている」


エルネストがリオンを見る。


「リオン、隠れていろ」


「……うん」


兵士は報告を続ける。


「そいつ……捕縛されても微動だにせず……

 ただひとつだけ言ったんです」


バルター「なんと言った」


兵士は青ざめた顔で告げた。


「――“リオンを見に来た”と」


家の空気が凍りつく。


リオンの背筋に、冷たいものが走る。


(ぼくを……? なんで……?)


兵士は絞り出すように続けた。


「それと……団長。

 そいつが名乗った名前ですが……」


バルターは険しい顔で促した。


「言え」


兵士は深呼吸を一つし、声を震わせながら告げた。


「“グレア・オルディス”……

 と名乗りました」


その瞬間、バルターの表情が凍りついた。


エルネストもメイラも、意味を理解できず目を見開く。


「グレア・オルディス……?」


バルターは重い声で言った。


「その名は――

 今世代で最も危険とされる“放浪賢者”だ」


リオンの胸が強く脈打つ。


(放浪賢者……?

 ぼくに……何の用があるの……?)


バルターは剣を引き抜いた。


「リオン殿、家族は家の奥へ。

 絶対に出てくるな。


 これから――

 “国が恐れる怪物”との交渉が始まる」


リオンは息を呑んだ。


家族を守るため?

自分のため?


胸の奥の光が、再びゆっくりと目を覚まそうとしていた。

『放浪賢者グレア ― 世界が欲した少年』


空を歩き、国境を越えて現れた謎の賢者。

彼は敵か、味方か。

ただひとつ確かなのは――彼が“リオンの力に興味を持っている”という事実。


村を守る白金騎士団と、圧倒的な実力を持つ賢者。

緊張が走る中、ついにグレアはリオンの前に現れ……

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