7歳編・第73話:沈静と新たな真実 ― リオンの能力が示すもの
夜の村を包んだ“光の爆ぜ”から、どれほど時間が経ったのだろう。
数秒かもしれないし、数分かもしれない。
光が収まると、世界は奇妙な静けさの中に沈んでいた。
村の地面はえぐれていない。
家々も無傷。
畑も、道も、木々さえも、風で揺れたように乱れているだけだった。
――しかし。
三勢力の者たちは全員が地に倒れ込んでいた。
深手ではないが立ち上がれず、まるで力を吸われたように動けない。
そんな中で。
ただ一人、リリィだけが無傷で、
その小さな身体はリオンの胸にすっぽりと抱きしめられていた。
「お兄ちゃん……こわかった……」
リリィの震える声で、リオンはようやく意識を取り戻した。
「リリィ……っ、ごめん……ごめんね……」
涙が溢れる。
しかしリリィは小さな手を伸ばし、兄の涙を拭った。
「痛くなかったよ。
お兄ちゃん、あったかかった……」
その言葉が、リオンの胸を締めつけた。
(なんで……リリィだけ……)
村の誰一人として、リリィの近くには傷がなかった。
光はまるで彼女を中心に避けるように広がり、
結果的に村の全域を守る形になっていた。
リオンは肌で感じていた。
――あの光は暴走じゃない。
守ったんだ、ぼくと……リリィを。
だが理由はわからない。
■
少し離れた場所で、白金騎士団の団長バルターが呻きながら立ち上がろうとしていた。
「……くっ、なんという……魔力量だ……。
あれは……王国でも例がない……」
隣では消耗しきった光導派の狂信者たちが震えていた。
「神性……第二段階……いや……
あれはもう……“器の限界”を超えている……」
蒼天の塔のフェルネスは、ひとり膝をついたまま笑っていた。
「美しい……あれほどの魔力が、人間の子供から……。
あれこそ――前時代の神祖級……!」
三勢力の全員が、まったく同じ光景を見た。
しかし、その“意味”は三者三様だった。
■
白金騎士団
「少年は保護対象。
暴走ではなく、“完全制御された光”。
国にとって危険ではない」
光導派
「神性の顕現……
我らが神に連なる存在。
聖堂へ迎えるべき“奇跡の子”。」
蒼天の塔
「超級魔法理論の軸となる存在。
いわば歩く研究素材……!」
三者の視線は、すべてリオンへ向いていた。
リオンは妹を抱きしめたまま、身体を震わせていた。
光は消えたが、胸の奥にまだ熱が残っている。
(どうしよう……。
ぼくのせいで、みんなが……)
その時――父エルネストが駆け寄ってきた。
「リオン!! リリィ!!」
エルネストは息子と娘を抱きしめた。
強く、暖かく、震えながら。
「よかった……本当に、よかった……!」
続いて母メイラも泣きながら抱きつく。
「あなたたち……無事で……よかったぁ……!」
家族の腕の中で、リオンの震えは少しずつ収まっていった。
(守られた……ぼくじゃなくて、みんなが……!)
自分が守ったのではなく、逆に守られたのだと気づいた瞬間――
胸の熱が静かに沈み、光の残滓も消えていく。
■
だが、問題はここからだった。
バルターが、父母のもとへ歩み寄る。
その表情は険しいが、怒りではなく、決意の色だった。
「レインフォード氏……。
このままでは、この村に再び三勢力が押し寄せる。
少年の魔力は、今や“国家級の資源”だ」
エルネストは拳を握りしめた。
「……わかってる。
だが、息子はまだ七歳だ。
家族から引き離すような真似は絶対に許さん」
バルターは一瞬だけ目を細め、
そして強い声で告げた。
「――だから、我々が守る」
光導派と蒼天の塔が一斉に叫ぶ。
「白金騎士団が独占するつもりか!」
「ふざけるな、王国の犬め!」
バルターは剣を地面に突き、地を叩いた。
「独占ではない。
これは“国王陛下の正式決定”だ。
――リオン・レインフォードは八歳までは家族と共に過ごす。
そのために、我ら白金騎士団が村を守る」
村に緊張が走る。
フェルネスはため息をついた。
「やれやれ……面倒な決定を……。
まあいい、我々は引こう。
だが――」
彼はリオンを見つめ、口元を歪めた。
「少年。
次に会うときは“学術的礼儀”をもって接するとしよう。
君の存在は、いずれ世界の常識を変える」
光導派の男たちも悔しそうに歯を食いしばりながら撤退していく。
「神に見捨てられぬよう願っておけ……」
三勢力は、互いを警戒しながらも、
一度だけ“撤退”という判断を下した。
リオンは胸に残る光の余韻を感じながら、強く思った。
(ぼく……変なこと、しちゃった……。
でも――)
腕の中のリリィがぴったり抱きついてくる。
「お兄ちゃん、もう……いなくならないで……」
(守りたい。
この家族を、村を、全部……!)
その決意が生まれた瞬間――
胸の光は完全に沈静化し、
まるで眠りにつくようにやわらかく消えた。
夜空には星が瞬き、
村には静けさが戻ってきた。
しかし誰も知らない。
この日の“光”が、
後に国中を揺るがす大事件の始まりであることを――。
『神性の余波 ― 村に訪れる二つの影』
神性魔力の爆発は止んだ。
だが、世界はそれを見逃さない。
村には新たな影が忍び寄る。
一つは“国からの正式な護衛部隊”。
もう一つは“正体不明の観測者”。
そしてリオンは、胸の光の奥に
“まだ開いていない扉”が存在することを感じ始める。




