2. 大戦の前夜
「これはどういうことかな?」
神宮寺先輩が頭からゲロをかぶった状態で尋ねる。
ここは優莉の宅の一室。
只今、神宮寺先輩の前で優莉となぜか彩葉先輩も正座させられている。
「えっとですね…。昨日彩葉先輩がフレアフォースを飲んで吐かれまして…」
なんとか声を絞り出す。
「ほうほう。それで?」
神宮寺先輩が狂気じみた目で見降ろしてくる。
(神宮寺先輩怖いって泣)
「えっとですね…」
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神宮寺先輩が呆れたように口を開いた。
「つまり、お嬢が吐いたブツを優莉ちゃんが掃除してたらタイミング悪く私が現れてそのままお嬢のブツの餌食になったってことかな?」
「あ、はいそうです!」
「そんなに嬉しそうに言われてもなあ」
神宮寺先輩が苦笑する。
すると彩葉先輩が不思議そうに小首をかしげる。
「ねえねえ花音?私の吐いたブツってなあに?てかさっきから何話してるの?」
神宮寺先輩が少し面倒くさそうに言った。
「記憶がないならお嬢様は一旦お黙りください。話が進まないので。」
「はあ?花音、それご主人様に言う言葉ですか?ねーえっ!」
彩葉先輩がちょっと切れる。
「さて(無視)、優莉ちゃんこのブツは自分でどうにかします。その代わりに一つお願いを聞いていただいたくて。」
「ちょ、なんで無視するの!?」
「はい。お願いとは何でしょうか?(無視)」
「優莉ちゃんも無視しないでえ泣」
気にせず淡々と神宮寺先輩も続ける。
「呼び方のことです。」
「呼び方??」
意味が分からずつい復唱してしまう。
「はい。呼び方。優莉ちゃんは私のことを神宮寺と呼んでいる。だけど、お嬢様は花音と呼んでいる。忍びの家系故に敵に名を知られることがあってはならない。なので花音に統一してもらいたく存じる。」
「あ、そういうこと。全然いいですよ。逆にこちらは花音先輩が下の名前で呼ばれるのが嫌なのかと…」
少し驚きながら言う。
「いやあ。神宮寺というだけで影の仕事であることは一目瞭然だし、龍神&伊達&神宮寺はヤバいでしょ?下の名前であればそこまで危険性もない。」
花音先輩が拗ねている彩葉先輩をなだめながら言う。
「伊達家と神宮寺家の主従関係、伊達家と龍神家の師弟関係、神宮寺家と龍神家の同盟関係を表沙汰にされるのは危険だからね。」
彩葉先輩が自分の分野が来たとばかりに喋りだした。
「確かにそうですけれどもお嬢様?それを大声で叫ぶなって感じです。」
花音先輩の正論が彩葉先輩の心髄を突き刺す。
「え、あ、さーせん…(´・ω・`)」
しょぼんと小さくなった彩葉先輩を片目に、うちはずっと気になっていたことを尋ねる。
「そういえば花音先輩?何故わざわざここまで?」
すると花音先輩ははっとしたような顔をし急に背筋を伸ばす。
それを見た私たちは緊張感を感じ取り、同じく姿勢を正す。
花音先輩がゆっくりと、でもはっきりと呟いた。
「今晩敵が来る可能性が高まっています。その敵とは剣鬼の女王、剣城亜麻音です。」
しょぼんとしていた彩葉先輩の目に力が宿った。
真冬だというのに、空気が燃え上がるように熱くなった。
「そうですか。では花音先輩、彩葉先輩。こちらもじっとはしていられません。動きましょう。」
「「いえっさー!」」
今晩来る敵襲に備えて武器の手入れを始める龍神。
円滑なスキルの発動を確認する伊達。
地図を持ち出し敵の攻め場所を考える神宮寺。
三人それぞれにできることは限られている。
だけど、きっと大丈夫だろう。
三人なら。
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カァカァ…ガァガァガァ
「ワタリガラスが鳴いたか…。どちらの滅びの歌か?」
奇襲の準備をしていた亜麻音はふと顔を上げる。
「私もあのカラスのように翼をもっておったら良かったのに…。」
そう呟くと腰に差していた二本の剣をすっと抜き去る。
「ここでじっとしていてもなまりそうだ。」
そのまま大きく跳躍し、岩壁を足場にしてずんずんと頂に向かって山を登る。
頂上が見え、もう一度高く跳躍し綺麗に頂上の岩盤に着地する。
「あはははは!やあこんにちは!本日のメインディッシュは君たちだ!!」
降り立った岩盤には二十数体の暗黒狼が餌を求めて歩き回っていた。
グルァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
ダークウルフたちは亜麻音の姿を確認するや否や牙をむいて飛び掛かっていく。
「そうそう。生きのいいメインディッシュたちだねえ。あはは!」
亜麻音は舌なめずりをすると剣を構え鮮やかに跳躍する。
「剣鬼の女王をなめちゃだめだよ?最強の盗剣士だった私に敵うメインディッシュはいるのかな?」
声高らかにそう叫び、剣を高速回転させる。
「黄泉の螺旋切り!」
瞬く間に半分以上のダークウルフの首から鮮やかな血液が噴き出す。
その様子を見た他のダークウルフはばっと逃げ出す。
「逃がさねえよ!!」
それらを亜麻音は血走った眼で追いかけ、また螺旋切りにする。
ほんの少しの間にみるみる岩盤が赤く染まっていく。
ザシュッ
最後の一体を絶命させ刀身についた血液をなめる。
「生き血はいいよねやっぱり。あともうちょっとで戦いだあ。思うようにいかせてくれないだろうな…。私が死んでも仕方ない。楽しむのみだなあ。」
亜麻音は口元の血をぬぐいながら立ち上がり満面の笑みを見せる。
「よし、体力を蓄えとかないと。ディナーの時間だ!」
そう言いながら、目の前の死骸の首に静かに手を伸ばすのだった。




