始末屋の言うことには
はじめまして、佐藤善夫です。自営業しています。
ええ、こういうパーティーの場では恥ずかしいんですけど、これが本名です。
婚活中のまだ善い夫になれていない善夫です。
どんな仕事か? 聞いちゃいます?
失礼しました。気になりますよね。僕はお相手のお仕事や年収はそこまで重要視しませんが大事なところですよね。
僕、こういう仕事しています。
怪異始末屋
八月朔日 御影
佐藤善夫じゃないだろうって? そっちですか? ええ、これは屋号、みたいなものです。
中二病は傷付くなあ。好きで付けた名前じゃないのに。
え? 怪異始末屋の方?
いえいえいたって真面目な仕事ですよ。
うさんくさい…… そう言われると強く否定出来ないのがこの稼業のつらいところですね。
まあでも、あれですよ、害虫駆除や害獣駆除の一種と思って貰えれば堅実な仕事と分かって頂け……ないですか、そうですか。
僕ばかり喋っていますね。貴女のお話をもっと聞かせてくれませんか?
ええと質問シート拝見しますね。
あっ、◯△社にお勤めなんですね。
ええ、御社のことは存じ上げています。ちょうどお仕事を頂いたもので。
え? 僕の仕事の話を?
確かに自社の話なら気になりますものね。でも守秘義務が……
どうしても?
……うーん。
ここだけの話にして下さいね?
最近、御社で立て続けに死亡事故が起きたのはご存知ですか?
知らない? そこから伏せられているのですね。
御社の■■町営業所で起こったことなのですが……
ああ、貴女は本社にお勤めでしたか。
■■町営業所に行ったことはありますか? ありましたか。でしたら大きなビルの20階に入っていることはご存知ですよね。
その二十階から転落して亡くなった方が三名いたそうです。その高さからなので、ご遺体は大変痛ましい状態になっていたそうです。
おかしい?
ええ、おかしいのです。
そのビルは窓が開かない作りになっていて、二十階からは外に出ることは出来ません。どの階からでも同じです。
ビルには屋上がありましたが、厳重に施錠されており、その方々が屋上に立ち入った形跡も無いそうです。
別のビルから飛び降りた? いいえ、そのビルの周囲には建物はないのです。もともと何も無い再開発中のエリアでしたから。
そう、あり得ないのですよ。
警察も徹底的に調べましたが、高所からの転落、という結論が翻ることはありませんでした。
おかしな話です。
え、これと僕がどう関わるか、ですか。
大体お察しかと思いますが、そうです、今回始末すべきは開くはずのない窓、という怪異です。
この程度で怪異というのか、と? そうですね、ささやかな部類ではありますね。
しかもその窓は、二十階北側の男子トイレのもの、という相当限定されたものになります。
その偏りゆえに僕が呼ばれました。
二十階北側男子トイレ。それには曰くがありました。
いいえ、そこ自体は事故物件ではありません。
その前です。
五年前まで■■町営業所は▲▲駅の近くのビルにありましたよね?
そのときも二十階に入っていましたね。
そこの二十階北側男子トイレの中で自殺がありました。
いいえ、飛び降りではありません。
そこのビルの窓も開かない作りでした。
亡くなった方は、個室のトイレの中で舌を噛んで、事切れたそうです。
どうしても、そのとき、その場で死にたかったようで。
窓が開けば、もっと楽に、飛び降りて死ねたのに。
自分で舌を噛み切って死ぬなんて、相当ですよ。
その怨みがどうも移ってしまったようで。
自分と同じように死を望む者に、もっと安らかな死を、と。
ええ、今回亡くなった方も自殺ですよ。
皆さんかなり職場で追い詰められていたようで。
彼らは呪われたわけではない。
ある意味祝福ですね。
すみません、不謹慎ですね。
そういうわけで始末屋として、死者の傍迷惑な死への誘いの元を絶ちました。
僕たちは始末することについてはプロですから。
そうですね。彼らの死が労災認定されるかどうかの方が貴女方には重要な問題ですよね。
どう死んだかよりも、なぜ死んだかということが。
いえいえ、本当におっしゃる通りです。
本当に恐ろしいのは人間、といったところですかねえ。
くだらないオチだと?
そうですね。
ええ、全くそうです。
ああ、もう時間ですか。それでは、移動します。
ありがとうございました、僕が話してるだけになってしまいましたが。しかも仕事の話しかしていないですね。
ええ、では、もしご縁がありましたら、また。