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NORNIR:未来の糸  作者: renten
1/22

Prologue

「人類は団結するか、星々の下で分断されて滅びるかのどちらかだ」

それはひとつの夢だった。

共有された夢。


人類は1969年、月へ手を伸ばした。

虚空へ足を踏み入れ、未来がついに手中にあると信じた。


間違ってはいなかった。

しかし、完全に正解でもなかったのだ。


やがて、人類は軌道上に都市を築いた。

空を光が満たし、機械は作物を宇宙へ運び、AIは輸送も収穫も……さらには軍隊までも管理した。


そして1971年、赤い砂に覆われた火星の地下で——


我々はそれを見つけた。

人の手によらぬ遺跡を。

異星の遺構を。


世界は歓喜しなかった。

世界は恐怖した。


真実は封印された。

世界の指導者たちはコンクリートと沈黙の下に隠し、契約書と機密報告書に埋めた。

「我々はひとりではない」──そう悟った彼らは言った。

「だが、人類はまだ準備ができていない。種としても、信仰としても、そして真実としても」


それでも……秘密は永遠には埋もれない。

利用される限りは。


隠されていた異星技術は、人類最大の飛躍の燃料となった。

科学は一夜にして数世紀を飛び越え、方程式は書き換えられた。

新たな解が見いだされ、物理法則が「人類天才の結晶」として宣言された。


それは日常用品から軌道基盤へ、

クリーンエネルギーから深宇宙推進へと広がった。


だが、人類史において最も目に見えるレガシーは——

巨大装甲機動兵器、通称:


BOX(ボックス)──

Bio(バイオ・)-Operated (オペレイテッド・)Exoform (エクソフォーム・)Executional(エグゼキューショナル) Systems・システム


当初は宇宙建設と採掘用に設計されていたものが、

いつしか戦争の巨人へと変貌した。


そして2001年──

世界は再び変わった。


噂が戻ってきたのだ──

今回は真実の断片と共に。

リーク映像、機密レポート、試作機の映像。


沈黙は四年間続いた。

政府は隠蔽し、メディアは無視した。

真実は耐え忍んだ。


そして2005年──

火星からの生中継が幻想を打ち砕いた。


異星構造物が全世界に放映され、

否定しようのない、説明不能の映像が流れた。


世界は崩壊した。


暴動。

大規模なパニック。

政権の崩壊。


境界線が引かれた──

恐怖と炎、そして血の中に。


しかし、分裂の灰の中から、ひとつのものが生まれた。

国家の枠組みを超えた連合が──

信念の連合が。


Inter(インター)continent(コンチネンタル)al Develo(・デベロ)pment(ップメント) League(・リーグ)


国旗なし。

国境なし。

ただ、意志だけ。


その目的は明確だった:

世界を、あるべき姿へと再構築すること。


東方経済連合イースタン・エコノミック・アライアンス

北太平洋圏ノースパシフィック・ブロック

改革欧州連合リフォームド・ユーロユニオン──

大国たちが順々に装甲を担った。


そして2019年、IDLはその使命を果たした。

崩壊ではない。

解散だった。

弱さではなく、強さによる決断。

完全な放棄。


その残滓から、新たな世界軍事秩序が生まれた──


Human(ヒューマン・)-Legion(レギオン・) Vanguard(ヴァンガード)


ひとつの旗。

ひとつの評議会。

ひとりの最高指導者──

力ではなく、合意によって選ばれし者。


これは支配ではない。

国は滅ぼされない。

国境は消えない。


従属させるのだ。


大統領も首相も地域の長たちもそのまま。

しかし、もはや統治者ではない。

最高評議会の下で軍服を着る将校となった。


国の名は残る。

ただし、国はひとつ。

そして、その行進はヴァンガードの下にある。


続く声明は、請願でも提案でもなかった。

ただひとつの宣言だった。


それは鋼鉄に刻まれた真実だった──


「人類は星々への準備ができている。しかし、その向こうに何が待つかには、まだ準備できていない」


団結はもはや夢ではない。

法となった。


だが、皆が同意したわけではない。

大多数は従い、

他の者は抵抗した。


2022年までに、ヴァンガードの支配下で統一は始まっていた。


消えた都市もあれば、

「再教育」を受けた都市もあった。

BOX部隊は廃墟を──征服者ではなく監視者として──巡回した。

再建し、

統制し、

見張るために。


だが、ヴァンガードの前線が拡大するその先で、

ひざまずくことを拒んだ者たちがいた。


統一に迷いを見せた国家。

集合的進歩を認められない国家。

自らの意思で、統一後の未来から身を外した国家。


彼らは手を組んだ。


Pan(パン・)-Human(パンヒューマン・) Coalition(コアリション)

対抗する超大国。

解体を拒んだ主権国家の連合。


革命でも、テロリストでもない。

理念による反勢力。


ヴァンガードが統一を強いる場所で、

コアリションは多様性を称揚した。


彼らは一つの声では語らない。

だが、紛れもなく語る。

大声で。


三年が過ぎ、ヴァンガードの任務は続いた。


その間、英雄が生まれ、都市は落ち、あるいは再興され、勝敗を分けた戦役が秩序の行軍を燃料とした。


そして今──


統一首都ジュネーブの空を突き刺す黒曜の尖塔の下で、

式典が執り行われていた。


昇進でもなく、栄誉でもない。

再任命のための式典だった。


ヴァンガードは兵士を準備しているわけではない。

道具を割り当てているのだ──

執行の道具を。

団結の使徒を。


黒い制服。

階級などない。名もない。

機能だけがある。


彼らは新たな指令に編成し直される。

軍隊ではない、もっと精密な何かに。

行進ではなく、沈黙の中を動く部門に。


Office(オフィス) of (・オブ)Strategic (・ストラテジック)Inte(・インテ)gration(グレーション)

最高評議会直下の非軍事機関。

その目的は、調査し、介入し、修正すること。


候補者たちは列を成し、

勲章は剥奪され、

徽章は切り取られ、

栄誉は抹消された。


彼らはもはや士官ではない。

もはや個人ではない。


六人目の前に役員が立ち止まった。

制服は一糸乱れず、

姿勢は微動だにしない。


役員は静かに、正確に作業を進めた。


しかし、五人目よりも時間がかかった。


剥がすべき層はさらに深く、

解かなければならないものはさらに重かった。

一つひとつの所作が、布だけでなく歴史をも剥ぎ取るかのようだった。


最後に外されたネームプレート──


「ジャン・ヴェルヴォー」


彼は微動だにしなかった。


代わりに──


襟元に黒いエナメルの徽章。

コートベルトには儀礼用の短剣。

許可なき権限にのみ支給される特別携行銃。

そして最後に、新たなネームプレート──


「88」


名はない。

過去もない。

あるのは、目的だけ。


上方から、最高指導者の声が響いた──


「諸君はもはや階級に仕えるのではない。機能に仕えるのだ。諸君はもはや軍人ではない。目的の機構である。」


拍手もなければ、敬礼もない。

ただ静寂だけがあった。


列席する将官や大臣たちは動かず、

ただ空気だけがその言葉を刻んだ。


そして最高指導者は声をさらに研ぎ澄ませ──


一つ(ワン)の国家(・ネイション)


静寂の呼吸の後に──


六つの影が、一糸乱れずに前へ進み出た。

四人の男と二人の女、その中にジャンもいた。

彼らは皆、OSIの黒い徽章を胸に、

声を澄ませて放った──


人類(グローリー)(・オブ)栄光(・マンカインド)!」


残響がホールにこだました。


薄れゆくその声の後を──

最高指導者が続けた──


「ひとつの意志に従え」


今度は列席者全員が声を揃えて応えた──


「未来は我らのものだ」


式典と呼ばれたその場に、

国歌もなければ、歓声もない。

ただ静寂だけが支配していた。


そして、唯一変えられぬ真実──


これが、今の世界なのだ。

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