Prologue
「人類は団結するか、星々の下で分断されて滅びるかのどちらかだ」
それはひとつの夢だった。
共有された夢。
人類は1969年、月へ手を伸ばした。
虚空へ足を踏み入れ、未来がついに手中にあると信じた。
間違ってはいなかった。
しかし、完全に正解でもなかったのだ。
やがて、人類は軌道上に都市を築いた。
空を光が満たし、機械は作物を宇宙へ運び、AIは輸送も収穫も……さらには軍隊までも管理した。
そして1971年、赤い砂に覆われた火星の地下で——
我々はそれを見つけた。
人の手によらぬ遺跡を。
異星の遺構を。
世界は歓喜しなかった。
世界は恐怖した。
真実は封印された。
世界の指導者たちはコンクリートと沈黙の下に隠し、契約書と機密報告書に埋めた。
「我々はひとりではない」──そう悟った彼らは言った。
「だが、人類はまだ準備ができていない。種としても、信仰としても、そして真実としても」
それでも……秘密は永遠には埋もれない。
利用される限りは。
隠されていた異星技術は、人類最大の飛躍の燃料となった。
科学は一夜にして数世紀を飛び越え、方程式は書き換えられた。
新たな解が見いだされ、物理法則が「人類天才の結晶」として宣言された。
それは日常用品から軌道基盤へ、
クリーンエネルギーから深宇宙推進へと広がった。
だが、人類史において最も目に見えるレガシーは——
巨大装甲機動兵器、通称:
BOX──
Bio-Operated Exoform Executional Systems。
当初は宇宙建設と採掘用に設計されていたものが、
いつしか戦争の巨人へと変貌した。
そして2001年──
世界は再び変わった。
噂が戻ってきたのだ──
今回は真実の断片と共に。
リーク映像、機密レポート、試作機の映像。
沈黙は四年間続いた。
政府は隠蔽し、メディアは無視した。
真実は耐え忍んだ。
そして2005年──
火星からの生中継が幻想を打ち砕いた。
異星構造物が全世界に放映され、
否定しようのない、説明不能の映像が流れた。
世界は崩壊した。
暴動。
大規模なパニック。
政権の崩壊。
境界線が引かれた──
恐怖と炎、そして血の中に。
しかし、分裂の灰の中から、ひとつのものが生まれた。
国家の枠組みを超えた連合が──
信念の連合が。
Intercontinental Development League。
国旗なし。
国境なし。
ただ、意志だけ。
その目的は明確だった:
世界を、あるべき姿へと再構築すること。
東方経済連合、
北太平洋圏、
改革欧州連合──
大国たちが順々に装甲を担った。
そして2019年、IDLはその使命を果たした。
崩壊ではない。
解散だった。
弱さではなく、強さによる決断。
完全な放棄。
その残滓から、新たな世界軍事秩序が生まれた──
Human-Legion Vanguard。
ひとつの旗。
ひとつの評議会。
ひとりの最高指導者──
力ではなく、合意によって選ばれし者。
これは支配ではない。
国は滅ぼされない。
国境は消えない。
従属させるのだ。
大統領も首相も地域の長たちもそのまま。
しかし、もはや統治者ではない。
最高評議会の下で軍服を着る将校となった。
国の名は残る。
ただし、国はひとつ。
そして、その行進はヴァンガードの下にある。
続く声明は、請願でも提案でもなかった。
ただひとつの宣言だった。
それは鋼鉄に刻まれた真実だった──
「人類は星々への準備ができている。しかし、その向こうに何が待つかには、まだ準備できていない」
団結はもはや夢ではない。
法となった。
だが、皆が同意したわけではない。
大多数は従い、
他の者は抵抗した。
2022年までに、ヴァンガードの支配下で統一は始まっていた。
消えた都市もあれば、
「再教育」を受けた都市もあった。
BOX部隊は廃墟を──征服者ではなく監視者として──巡回した。
再建し、
統制し、
見張るために。
だが、ヴァンガードの前線が拡大するその先で、
ひざまずくことを拒んだ者たちがいた。
統一に迷いを見せた国家。
集合的進歩を認められない国家。
自らの意思で、統一後の未来から身を外した国家。
彼らは手を組んだ。
Pan-Human Coalition。
対抗する超大国。
解体を拒んだ主権国家の連合。
革命でも、テロリストでもない。
理念による反勢力。
ヴァンガードが統一を強いる場所で、
コアリションは多様性を称揚した。
彼らは一つの声では語らない。
だが、紛れもなく語る。
大声で。
三年が過ぎ、ヴァンガードの任務は続いた。
その間、英雄が生まれ、都市は落ち、あるいは再興され、勝敗を分けた戦役が秩序の行軍を燃料とした。
そして今──
統一首都ジュネーブの空を突き刺す黒曜の尖塔の下で、
式典が執り行われていた。
昇進でもなく、栄誉でもない。
再任命のための式典だった。
ヴァンガードは兵士を準備しているわけではない。
道具を割り当てているのだ──
執行の道具を。
団結の使徒を。
黒い制服。
階級などない。名もない。
機能だけがある。
彼らは新たな指令に編成し直される。
軍隊ではない、もっと精密な何かに。
行進ではなく、沈黙の中を動く部門に。
Office of Strategic Integration。
最高評議会直下の非軍事機関。
その目的は、調査し、介入し、修正すること。
候補者たちは列を成し、
勲章は剥奪され、
徽章は切り取られ、
栄誉は抹消された。
彼らはもはや士官ではない。
もはや個人ではない。
六人目の前に役員が立ち止まった。
制服は一糸乱れず、
姿勢は微動だにしない。
役員は静かに、正確に作業を進めた。
しかし、五人目よりも時間がかかった。
剥がすべき層はさらに深く、
解かなければならないものはさらに重かった。
一つひとつの所作が、布だけでなく歴史をも剥ぎ取るかのようだった。
最後に外されたネームプレート──
「ジャン・ヴェルヴォー」
彼は微動だにしなかった。
代わりに──
襟元に黒いエナメルの徽章。
コートベルトには儀礼用の短剣。
許可なき権限にのみ支給される特別携行銃。
そして最後に、新たなネームプレート──
「88」
名はない。
過去もない。
あるのは、目的だけ。
上方から、最高指導者の声が響いた──
「諸君はもはや階級に仕えるのではない。機能に仕えるのだ。諸君はもはや軍人ではない。目的の機構である。」
拍手もなければ、敬礼もない。
ただ静寂だけがあった。
列席する将官や大臣たちは動かず、
ただ空気だけがその言葉を刻んだ。
そして最高指導者は声をさらに研ぎ澄ませ──
「一つの国家」
静寂の呼吸の後に──
六つの影が、一糸乱れずに前へ進み出た。
四人の男と二人の女、その中にジャンもいた。
彼らは皆、OSIの黒い徽章を胸に、
声を澄ませて放った──
「人類の栄光!」
残響がホールにこだました。
薄れゆくその声の後を──
最高指導者が続けた──
「ひとつの意志に従え」
今度は列席者全員が声を揃えて応えた──
「未来は我らのものだ」
式典と呼ばれたその場に、
国歌もなければ、歓声もない。
ただ静寂だけが支配していた。
そして、唯一変えられぬ真実──
これが、今の世界なのだ。