06.魔石番の仕事
「ランディ! 今日の分の魔石はどこ?」
「がうがうがうっ」
「あのね……私、魔力がないから、あなたの言葉がわからないんですけど!?」
エディスは両手を腰に当て凄んでみせるが、ランディは上機嫌で尻尾を振っている。怒られている自覚はまったくなさそうだ。
エディスは肩を落とし、先輩に声をかけた。
「メイ、私、ランディの魔石を探してきます」
「ふふふ、頑張って! こっちは任せてもらっていいから」
「すみません」
「いいのよ。ほんと、ランディは悪戯っ子ねぇ」
「がうっ」
「褒めてないから!」
「がうがう!」
エディスが獣舎から出ようとすると、ランディが軽々と柵を飛び越え、エディスについて行く。エディスはランディを振り返り、大きな溜息をついた。
「他の子たちは、ちゃんと決められた場所に魔石を置くでしょう? どうしてあなたは隠しちゃうの?」
「がう」
「宝探し? でも、毎日やらなくてよくない?」
「ぐるぅっぐるっ」
「あーもうっ! 私の言葉は通じてるのに、私は魔石獣たちの言葉がわからない! ほんっとこの身が恨めしいっ!」
エディスが地団太を踏むと、それを遊びだと思ったランディが、同じように足を踏み鳴らす。途端に、辺りにいた鳥や小動物が一斉に逃げてしまった。
「ランディ?」
「がう……」
ギロリと睨むと、さすがに怒られているのがわかったのか、しゅんとする。耳がぺしゃんと伏せられているせいか、たてがみまで萎れているように見えた。
「ぐるぅ……」
「あのね、いつもこの手が通用するとは思わな……」
「がうぅ……」
「だからね!」
「がう……?」
つぶらな瞳をうるうるさせ、こちらを見上げてくる。ランディお得意の上目遣い作戦だ。
(くぅっ……これ、自分が可愛いってわかってるわよね? 絶対わかってる。わかってやってる! 「こうやって見つめたら許してくれるでしょ? チョロッ!」 とか思ってるのよね!)
じー……。
エディスがこんなことを考えている間も、ランディはエディスをじっと見つめている。時折首を傾げながら。
「……」
「……ぐるっ」
「…………あーーーーーー、もうっ!」
(チョロかろうが、もうどうでもいいわ! 可愛いんだからしょうがないでしょう!)
エディスは降参し、ランディのたてがみをわしゃわしゃと撫でる。
「がうがうがうっ!」
ランディが嬉しそうにじゃれてくる。彼の重みで倒れないよう踏ん張りながら、エディスはランディを撫でまくった。
すると、頭上から呆れたような声が降ってくる。
「チョロいな、エディス。いいように振り回されてどうするんだ。今はランディだけだが、そのうち他の奴らにも遊ばれるぞ」
「……ヒュー」
見上げると、いつの間にか側に来ていたヒューが、肩を竦めていた。ランディに遊ばれていることを自覚しているエディスは、うっと言葉に詰まる。
「お前も。面白いのはわかるが、エディスには他の仕事もある。それが終わらないと、いつまで経っても構ってもらえないんだぞ? それでもいいのか?」
ヒューが諭すようにランディにこう言うと、彼はいやいやをするように首をブンブンと振った。
「がうっ! がうがうっ!」
「わかった。それじゃ、そこまでエディスを案内しろ」
「がう!」
ランディが先頭を切って歩き出す。
「ついて行け。魔石のある場所まで連れて行くと言っている」
「わかりました。ありがとうございます」
エディスは、急いでランディを追いかけた。
(ヒューは、唯一魔石獣たちと会話できるのよね……。羨ましいったらないわ)
エディスはランディを追いかけながら、胸のブローチにそっと触れる。
これは、勤務初日に支給されたもので、魔石番であるという証だ。このブローチは、魔力のある者がこれを身に着けていれば、魔石獣と意思疎通ができるという機能もついていた。
「私にも魔力があればなぁ……」
そうすれば、魔石獣たちと会話ができるのに。
それに、兄のように努力を重ねて、いつか魔法が使えるようになったかもしれない。魔法が使えれば、虐げられることもなかったかもしれない。
……いや、魔法が使えるとわかれば、あの家族は間違いなくその力を搾取する。いいように利用する。それを避けるために、兄は秘匿することにしたのだから。
「たらればを考えても無駄ね」
「がう?」
独り言を呟くエディスを振り返り、ランディが首を傾げる。
エディスは、ランディの背を軽くポンと叩いた。
「なんでもないわ。さ、早く案内して」
「がう!」
ランディは、再び元気よく歩き出した。
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