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番外編:ロランド王国の魔石番(3)

「ヒュー様、エディス!」


 エリオットが呼んでいる。二人がエリオットのところへ行くと、彼はこちらを窺うように尋ねてきた。


「魔石番でなくても、彼らの世話は可能でしょうか?」

「前例はないが……彼らに一応聞いてみては?」

「はい、聞いてみたのです。そうしたら、触れられるのは嫌だが、世話くらいならいいと」

「え? そうなの?」

「驚いたな」


 エディスとヒューは、目を丸くする。

 ランディたちは、魔石番以外は絶対に認めない。触れるのはもちろん、世話も拒否である。魔石番が側にいないと、それ以外の人間を寄せ付けないほどに徹底している。

 だから、魔石獣とはそういうものだと思っていた。しかし、そうとも限らないのだろうか。

 ヒューは、リックとターニャに視線を合わせ、彼らに尋ねてみた。


「はじめまして、リック、ターニャ。俺は、隣国のマドック帝国の魔石番、ヒュー=ヘインズという。エリオット殿の話は本当か? 魔石番でなくても、世話を許すと?」


 すると、リックはコクリと頷く。ターニャの方は、早口で捲し立てた。


『触られるのは絶対に嫌! でも、世話くらいなら構わないわよ? といっても、誰でもってわけじゃないけど。でも、あっちにいるサミュ……サミュウェ? んもう、言いづらい! サミュとカーラならいいわよ! ね? リック?』


 リックが再びコクコクと頷く。

 どうやら、リックはとてもおとなしい性格のようだ。逆に、ターニャは賑やか。なかなかいいコンビである。

 彼らの言をサミュエルとカーラに伝えると、彼らは感激に打ち震えた。


「うわ、うわ、うわぁ! やったぁ!」

「よかった! 私、魔石獣のお世話ができるのね! 言葉がわからないのは残念だけど、彼らが伝えようとしていることを理解できるよう、頑張ります! 嬉しい、本当に嬉しい! 婚約破棄されて領地に引っ込んだけど、こんなに嬉しいことがあるなんて!」

「……え?」


 今、とんでもないことを聞いた気がする。

 サミュエルの方を見ると、あー、と頭を掻いており、ヒューは聞かなかった振りをし、エリオットもそっと視線を逸らした。

 恐る恐るカーラの方を見ると、彼女はあっけらかんとした顔をしている。


「あ、私、来年結婚する予定だった婚約者に一方的に婚約破棄されちゃったんですよ。お前みたいな田舎者とは結婚できないって」

「ひどい!」


 つい叫んでしまった。

 なんて失礼な男だろうか。


(田舎者ってなに? 領地は大抵田舎でしょうが!)


「相手の領地は王都の近くで、栄えているんですよ。それに、彼は王都に入り浸りで、領地には滅多に帰らない令息だったんです。だから、しょっちゅう領地に足を運ぶカーラを田舎者だって馬鹿にしていて……。それに、見た目も地味だって。まぁ、そんな奴と結婚しないで済んで、私はホッとしたんですけど」

「婚約破棄された令嬢が王都にいてもいい笑いものなんで、領地に引っ込むことにしたんです。私、自分の領地が大好きだし。……破棄された時はさすがに落ち込みましたが、結果よかったと思っています。それに、こんなに可愛らしい魔石獣のお世話を許されたんですもの! 本当によかったわ!」


(なんて……なんっていい子なの、カーラ! それに、サミュエルさんもいいお兄さんだわ。彼だけじゃない、ご両親も朗らかな方たちだった。ベイカー伯爵家は、仲がいい素敵なご家族ね)


 そんな素晴らしい人たちが治めている領地だからこそ、魔石獣も居心地がよく、ここを住処としたのだろう。


「ここは、魔石獣たちにとって良いところだと思います。それに、彼らはベイカー兄妹なら、世話を許すと言ってくれています。……ここを拠点としてよろしいでしょうか?」


 エリオットの問いに、ヒューはもちろんと答えた。


「最初からここを拠点にしようと思っていた。魔石獣が選んで住んでいる場所だ。よほどの問題がない限り、そうしようと思っていたよ」

「よかった……。ありがとうございます」

「それに、魔石番でなくても世話を許す寛容な魔石獣たちで助かった。エリオット殿一人じゃ、なかなか大変だろうからな。他にもいないか探す予定だが、見つかる可能性は低い。だからこそ、ベイカー兄妹が世話だけでも認められてよかった」

「はい、まったくです。私も心強い。ですが……」


 エリオットがチラリとサミュエルを見遣る。当の本人は、不思議そうに首を傾げる。


「サミュエルは、ああ見えて立場がかなり上の魔導士なのです。魔塔にいることが多いので、なかなかこちらには来られないでしょう」

「ああああああ、そうだったあああああ!」


 サミュエルは膝から崩れ落ち、頭を抱えた。


「俺もこっちにいられるよう、なんとかならないかな。上と掛け合おうかな……」

「お兄様……」

「だって! 俺も、魔石獣のお世話をしたい!」


 サミュエルは涙目になっている。

 そんな彼を慰めるように、エリオットがその肩をトントンと優しく叩いた。


「難しいだろうな。それにお前、婚約者はどうするつもりなんだ? もうすぐ結婚だろう?」

「そうよ、お兄様。私が頑張るから安心して!」

「うううう……」

「婚約者を大事にしなきゃ、破棄されちゃうわよ?」


 サミュエルがピシリと固まる。それは、ヒューもエリオットも同じである。エディスだけは、クスクスと肩を震わせながら笑った。


(乗り越えていれば、ネタにしちゃうわよね。自虐ネタ。カーラさんってば、逞しい!)


 エディスも同じく婚約を破棄されている身なので、気持ちはわかる。

 エディスの場合、相手のことを元々好きではなかったが、それでも、破棄された当初何も感じなかったわけではない。が、吹っ切れた後は、ただのネタである。

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