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番外編:ロランド王国の魔石番(2)

 馬車の辿り着いた先は、王宮ではない。

 一刻も早く魔石獣の飼育について環境を整える必要があり、王族への挨拶等は割愛させてもらったのだ。

 到着した場所は、ベイカー伯爵領。魔石獣二匹が生息していたところである。


「ようこそ、ベイカー伯爵領へ!」


 快く迎えてくれたのは、ベイカー伯爵夫妻に、子息であるサミュエル、令嬢のカーラだった。そして、その中にエリオットもいた。

 簡単に挨拶を済ませると、エディスたちはすぐに魔石獣のいる場所へと案内してもらう。


「エリオット殿が初めての魔石番でよかった。なにより信頼できる」

「ありがとうございます。私もまさか自分が魔石獣に認められるとは思っていませんでした。……ヒュー様が抱えておられるのは魔石獣ですよね? とても愛らしいですね」

「ああ。魔石獣は、人と意思疎通できる知能を持っている。よほどでないと攻撃はしないし、認めた相手にはとても懐く。とにかく可愛い。……レーヴ、エリオット殿はエディスの兄君なんだぞ」

『え? エディスのお兄さんッスか? わぁ! よろしくッス!』


 レーヴが興奮している。それを後方から見ていたエディスとサミュエル、カーラは、ふふ、と笑みを漏らした。


「魔石獣って、とても可愛らしいのですね! ああ、私もお世話したいわ……」

「魔石番にならないとそれは無理だな。……ですよね? エディス嬢」

「そうですね。でも、魔石の管理といったサポートなんかは、魔石番でなくても可能だと思います。魔石獣に触れることは、どうしても難しいんですが……」

「ですよね。残念!」


 カーラは、素朴で愛らしい娘だった。伯爵令嬢にもかかわらず親しみがあって、エディスは彼女を好ましく思っていた。

 また、サミュエルもとても気さくな人物だった。彼は、エリオットが懇意にしていた魔導士だ。彼から元筆頭のデイルのことや、ミックの情報を得ていた。とても優秀な魔導士とのことで、いまや筆頭の補佐に回ることが多いのだという。

 そんな彼の勧めもあり、エリオットはついに魔導士となった。魔力量はそれほど多くはないが、少ない魔力を効率よく使うことに長けていることが高く評価され、また付与もできることから、最初から数段上の階級となったらしい。

 そんな話をサミュエルから聞いて、エディスはますます兄を誇らしく思った。


 ベイカー伯爵領は、温暖な気候で自然豊かな場所である。空気も澄んでおり、魔石獣の生育環境としては申し分ない。彼らが元々住んでいたということもあり、おそらくここがそのまま拠点となるだろうと推測される。

 森に入り、数十分ほど歩いていくと、ヒューに抱えられていたレーヴが腕から抜け出し、駆けていく。


「レーヴ!」

「大丈夫だ、エディス。たぶん、仲間がいるんだろう」

「あ……」


 懐かしくて、思わず駆け出してしまったのだろう。

 ヒューの言ったとおり、しばらく行くと、レーヴが一匹の狐と一匹の猫と並んで皆を待っていた。


「レーヴ! 彼らがそうなのね?」


 レーヴは大きく頷き、エリオットを見上げる。何か言いたそうにしていることを察し、ヒューはエリオットに意思疎通できる魔道具を渡した。

 エリオットは魔石番のブローチをつけ、レーヴと目線を合わせる。


「レーヴ、君も私を魔石番として認めてくれるかな?」

『認めてるッスよ。この二人が認めたなら、オレッチも認めるに決まってるッス!』

「そうか。ありがとう」

『あと、この二人に素敵な名前をつけてくれてありがとうッス! リックもターニャも喜んでるッスよ!』


 エリオットとレーヴの会話がわかるのは、エディスとヒューだけだ。

 サミュエルもカーラも何を話しているのかはわからないが、二人が会話していることはわかる。その内容を自分たちは知ることができないことが、ベイカー兄妹にとって残念でならなかった。


「魔石番の条件ってなんだろう……」

「心の清らかさ、とか?」

「なら俺、当てはまらない?」

「お兄様は即座に外れちゃうでしょ」

「なんだとぅっ!」


 小声でじゃれ合う兄妹が微笑ましい。


(本当にそう。魔石番の条件って、なんなんだろう……)


「一度、彼らに聞いてみたことがある」


 エディスの心を読んだのか、ヒューがポツリと呟いた。


「え? 魔石番の条件を?」

「ああ。でも、彼らもよくわからないそうだ」

「わからない……」

「明確な基準などはないんだろう。強いて言えば……直感か」

「……なるほど。魔石番を見つけるって、本当に大変なんですね」

「ああ。彼ら次第だからな」


 エリオットを見ると、今度はリックとターニャと会話をしている。とても楽しそうだ。


「そういえば、クルーズ子爵家はどうなるのかしら?」


 ふと気づき、思わず声に出してしまった。それについては、サミュエルが答える。


「信頼できる執事がいるので、ひとまず家のことは彼に任せると言っていましたよ」

「信頼できる……」


 先代に仕えていた使用人は、すべて解雇したと聞いている。使用人は総入れ替えとなったらしい。入れ替わってまだ日が浅いし、信頼できるとなると……


「アントン!」

「ああ、確かそんな名前だったと思います」


(アントンが、子爵家に戻ってきてくれたんだわ。となると、ドーラもね)


 この件はまだエリオットから聞いていなかったが、もしかしたら、エディスがクルーズ子爵家に帰ってからのお楽しみにしているのかもしれない。

 だとすると、先に知ってしまって申し訳なかったが、知れて嬉しい。帰るのが楽しみだ。


(クルーズ子爵家に帰るのが楽しみだなんて、本当に信じられない)


 エディスは、二度と戻らないつもりで出奔した。だからこそ、この現実が夢のようだと思わずにいられなかった。

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