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番外編:ロランド王国の魔石番

完結後、連日たくさんの方々に読んでいただけているようで、とても嬉しいです!

というわけで、早速番外編を書きましたので公開させていただきます。

少々長くなってしまいましたが、最後までよろしくお付き合いくださいませ。

 エディスはヒューとともに、再びロランド王国の地に降り立っていた。

 というのも、レーヴの仲間が見つかったからだ。


<ロランド王国で、レーヴの仲間が二匹見つかったそうだ。エリオット=クルーズの他に魔石番の適性を持つ者の確認と、魔石獣飼育についてのレクチャーを頼む。魔石獣との意思疎通に必要なブローチもいくつか用意した。適性者に渡してほしい>


 エセルバートからそうめいが下ったのは、つい先日のこと。

 またしばらく神域の森を留守にしてしまうが、他国とはいえ魔石獣に関することなので、駆け付ける一択だ。

 魔石獣は大切な仲間であり、資源を生み出してくれる尊き存在である。国を超えて保護すべきと、大国マドック帝国は唱えている。それに、エセルバートに言われずとも、ロランド王国で見つかった魔石獣に魔石番全員が興味津々だった。


(あーあ、またメイにはお留守番をお願いすることになってしまって、ちょっと申し訳なかったな……)


 神域の森を空にするわけにはいかず、今回もメイは留守番となってしまった。そして、それは魔石獣たちも同じである。いや、たった一匹だけ同行を許された者がいた。


『オレッチたちには国っていうのがよくわかんないんスけど、空気の匂いが違うから、あ、ここは別のところだなってわかるんス!』


 エディスの隣をタッタカと軽快に歩くのは、レーヴである。尻尾をフリフリご機嫌だ。

 彼は元々ロランド王国にいた魔石獣だし、ロランドの魔石獣をロランドの人間と引き合わせたということもあり、元仲間に詳細を説明するという大役を仰せつかった。別れたきりの仲間に再び会えるとなって、レーヴはウキウキなのだ。


「レーヴも楽しみみたいだけど、私もすごく楽しみ! 早く会いたいわ」

『オレッチも、エディスを皆に紹介したいッス!』

「おい、レーヴ、俺は?」

『……もちろん、ヒューもッス! 当たり前ッス!』

「その不自然な間はなんだ?」

『気のせいッス!』


 フイッと視線を逸らすレーヴに、エディスはつい笑ってしまう。


 レーヴだって、ヒューのことは好きなのだ。ただ、彼は人間の上下関係に聡く、魔石番の中で一番上の立場のヒューには、少し気後れしてしまうようだ。なので、若干距離を取る傾向にある。今も、ヒューとは逆側にいるし、彼はエディスに夢中とばかりに彼女だけを見ている。

 レーヴも例に漏れず、エディスのことが大好きだ。いつもは他の皆に遠慮しているが、今は自分だけしかいない。エディスにめいいっぱい甘えられる、そして仲間に会える、そのことで頭がいっぱいで、おそらくヒューの存在を一時失念していたのだろう。


「調子のいい奴だな」


 しかし、ヒューはそんなレーヴの性格をよく理解している。忘れられていたというのに嫌な顔一つせずに、やれやれという風ではあるが、優しく微笑んでいる。

 レーヴは視線を逸らしたままだが、尻尾の振りが激しくなる。それを見て、ヒューの表情が柔らかくなった。そして、そんなヒューを見て、エディスの胸はほっこりと温かくなる。


(ヒューは、なんだかんだと魔石獣に甘いのよね。ちょっとデレてる顔もたまらないわ)


 エディスもつられるようににやついていると、突然レーヴがエディスの足にしがみついた。


「きゃっ」

「危ない! こら、レーヴ、危ないだろう!」

『す、すいませんッス! たくさんの人間が見えて、驚いたんス!』


 前方には、まだ豆粒のようだが人々の姿が見える。あれはきっと、ロランド王国からの迎えだろう。

 エディスはしゃがみ、落ち着かせるようにレーヴの背中をゆっくりと撫でた。


「大丈夫よ、レーヴ。あの人たちは敵じゃないわ。それに、もし敵だったとしても蹴散らしてあげるから!」

「勇ましいな、エディス」

「ヒューが!」

「……」

『……エディスじゃないんスね』

「私、冒険者をやっていたけど、戦闘能力はあまり高くないのよ」


 いろいろ仕込まれてはいるが、冒険者稼業をしていた頃も薬草採取が主だったので、戦闘経験は少ない。そこらの男の一人や二人ならなんとかなっても、戦闘職の人間には到底敵わない。


「まぁ俺も専門じゃないがな。俺の場合は、魔法で吹っ飛ばす」

『ヒィッ!』


 軽く言っただけなのに、レーヴが小さな悲鳴をあげる。


「レーヴ、そんなに怖がらなくても……」

『エディス……ヒューの魔法技術はすごいんスよ? キングスパイダーって、とても一人で倒せる相手じゃないんス! なのに、やっつけちゃったじゃないスか!』

「あの時は、他の魔石獣たちの加勢があったからだよ。彼らの攻撃で、ある程度弱ってたから俺一人でも倒せたし、エディスの力添えもあったと思うぞ」


 ヒューはレーヴの頭をワシワシ撫でると、ひょいと抱き上げた。


「これなら怖くないだろう?」

「……ッス!」


 レーヴは照れながらも、そのままヒューに抱っこされている。その顔は嬉しそうだ。尻尾もゆらゆらと左右に揺れていた。

 そうして歩いていくと、やがてロランドからの迎えの姿がはっきりと見えてくる。彼らもエディスたちの姿を確認し、こちらに近づいてきたのだろう。

 そして、皆が相まみえる。


「我々は、ロランド王国王立騎士団第一隊となります! ヒュー=ヘインズ伯爵、エディス=レイン男爵をお迎えにあがりました!」

「出迎え、ご苦労だった。私がヒュー=ヘインズだ。彼は、魔石獣のレーヴ。貴国の魔石獣と同じ狐ということもあり、連れてきた」

「はっ!」

「はじめまして、エディス=レインです。お出迎えありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは、こちらの馬車にお乗りください」


 騎士に促され、馬車に乗り込む。

 エディスとヒュー、レーヴだけの空間になると、エディスは大きく息を吐き出した。


「ふぅ……。まだ、レイン姓を名乗るのは緊張するわ……」


 エディスは男爵位とともにレイン姓を賜り、以降エディス=レインと名乗っている。


「そのうちに慣れる。だが、慣れる頃にはまた変わるな」

「……はい」


 エディスの頬が染まり、ヒューの瞳が甘く揺らめく。

 向かいの席で寝そべっているレーヴは、気を利かせているのか、二人を見ないよう顔を背けていた。耳はピクピクと動いているので、会話は聞いているようだが。

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