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48.出奔令嬢は緑手子爵と魔石獣のお気に入り~エピローグ~

ようやく完結です! 気が向いたら、番外編を書きたいと思っています。

「ランディ! 魔石は? また別の場所なの?」

『ふふん、オレサマの秘密の場所にあるぞ!』

「秘密の場所ってどこよ……」

『こっちだ、エディス!』


 尻尾をフリフリ、上機嫌でエディスを案内しようとするランディ。そこで、彼を止めたのはヒューだ。

 エディスなら余裕で引きずられてしまうところ、彼はしっかりと抑え込んでいる。


『ヒュー、放せ!』

「こら。そうやって、エディスを独り占めするつもりなんだろう?」

『エディスはオレサマ専用のマセキバンだから、いいんだ!』

「他の奴らが聞いたら怒るぞ」


 その時、羽づくろいを終えたドロシーが飛んできて、ランディの頭の上に降り立った。


『一番怒るのはヒューでしょお?』

『おい、ドロシー、頭にとまるな! 背中にしろ!』

『やぁよ~、こっちの方が高いもの~』

『オレサマ、頭はヤダ!』


 ランディはブンブンと頭を振るが、ドロシーはとんでもないバランス感覚でその場に立っている。

 エディスは、思わずマジマジと眺めてしまった。


「すごいわ、ドロシー……」

『うふふふ~、そおでしょ~!』

『エディス、ブラッシングしてくれ! 今日はオレの順番だ』

『あ、オレッチもお願いしていいッスか? ランディとウォルフが大絶賛してるから、ぜひやってもらいたいんス!』

『いいなぁ。アタシも毛があればなぁ』

『わかるわ、イライジャ! ワタシもブラッシングするほどじゃないから、羨ましいの、すっごくよくわかる!』


 いつの間にやら、エディスは魔石獣たちに囲まれている。

 今日は、メイが久しぶりに休暇を取っているので、よけいに構ってもらいたがるのだ。


「お前たち! エディスは他に仕事があるんだから、そろそろ解放しろ!」


 ヒューが一喝するが、皆はジト目を向けてくる。


『ヤダ! オレサマ、エディスと一緒にいたい!』

『ブラッシングしてからだ』

『オレッチもブラッシングしてほしいッス!』

『うふふ、ほんとぉは~ヒューがエディスを独り占めしたいのよねぇ~』

『ねぇー!』

『あんまり必死になると、逃げられるわよ?』

「うるさい!」


 強引にエディスを連れ出し、ヒューは魔石獣たちに宣言した。


「エディスは俺の婚約者だ! 独り占めして何が悪い! 一番は俺、お前たちは次!」


 この言葉に、全員がブーイングである。

 子どものようなその宣言に、エディスはたまらず声をあげて笑った。


 ロランド王国からマドック帝国へ来た時には、こんな未来など想像もできなかった。

 クルーズ子爵家で両親や異母妹から冷遇され、散々こき使われ、何度も挫けそうになった。挫けなかったのは、陰で支えてくれた兄の存在と、前世の記憶のおかげだ。

 前世を思い出していなければ、きっとおとなしい令嬢のままで、搾取され放題だっただろう。この記憶は、亡くなった母からのギフトかもしれない。


(ううん、これだけじゃないわ)


 エディスには、魔力ではないが特別な力が備わっていた。

 それは、他者の魔力への干渉で、増幅したり減衰したりできるといったものだ。この力は希少すぎることもあり、思いのほか重要視されている。


(きっと、この力のおかげで男爵位を賜れたのよね……)


 この件については、すでに兄のエリオットには報告済みだ。

 そして、彼からもロランドの状況をいろいろと教えてもらった。


 まず、鉱山を枯渇させていた元筆頭魔導士デイル=アンブラーは、空の魔石に魔力を注ぐ罰が与えられたそうだ。

 魔石の魔力が空になると、ただのゴミになる。しかし、そこに魔力を注ぐと、再利用できるのだ。

 これは「疑似魔石」と呼ばれている。疑似魔石は、魔石よりも使用期間がかなり短い。輸入しても魔石の量が確保できない場合は、疑似魔石で凌ぐこともある。

 空の魔石に魔力を注ぐ作業は、魔導士にしかできない。魔石を不当に盗んだ彼には、相応しいともいえる罰だろう。


 そして、ロランド王国にも魔石獣が見つかったとのこと。

 実は、彼らはレーヴの仲間である。見つかった魔石獣は二匹、一匹はレーヴと同じ狐で、もう一匹は猫だったそうだ。

 この情報は、レーヴからヒューとエディスへ、そして、エセルバートを通してロランドに伝えられた。

 そして肝心の魔石番だが、なんとエリオットが該当したとのことだった。兄妹揃っての魔石番は、これもまた珍しい。


(お兄様は、魔石番として魔石獣たちに認められた。そのことが、魔力量が少なくても魔導士になれた要因だったそうだけど……でも、お兄様は死ぬほど努力していたもの。その賜物だわ。でも、魔石獣に認められる才……これは、お母様からお兄様へのギフトかもしれないわね)


 エディスは空を見上げる。雲一つなく、真っ青で、美しく晴れ渡っていた。


「エディス」

「ヒュー」


 気づくと、後ろからヒューに抱えられていた。髪に口づけられ、頬が染まる。

 本当の婚約者になってから、彼の甘さは増すばかりである。


(こんなに甘々になるなんて、なんだか意外……)


「何を考えている?」

「えっと……」


 どう答えようかと考えている隙に、今度はこめかみに唇が落ちてくる。


「あ、あのっ」

「ん?」


 顔を覗き込まれ、エディスの心臓が大きく跳ねあがった。


(し、心臓に悪い! こんな端正な顔がすぐ近くにあるなんて、ほんっと心臓に悪いから!)


 心の中でそう叫びながら、エディスはヒューに告げる。


「ヒューのこと! ヒューのことを考えてましたっ!」

「それならいい」


 満足そうに頷きながら、今度は頬に口づけた。

 どこまでいくのかと思いきや、そこで邪魔が入る。


『いくらツガイとはいえ、これ以上はまだだめだっ! エディス、エディス、オレサマもキスするぞっ』

『ランディ、それはやめておいた方がいいと思うぞ』

『そぉよねぇ~。ヒューが本気で怒ったら怖いもの~~』

『ヒューって怒るの?』

『そっか、イライジャはまだ見たことないわよね! ヒューが本気になると、すっごく怖いのよーーっ』

『ヒィッ! オレッチ、気をつけないと!』


 魔石獣たちが二人をぐるりと取り囲む。

 彼らの相手をしながら、エディスは幸せそうに微笑む。


「よぉっし! お仕事はちょっと後回しにして、皆で遊びましょうか!」


 その声に、魔石獣たちがワーッと騒ぎ出し、駆けだした。


「こら、エディス!」

「ヒューも、偶には息抜きが必要ですよ!」


 その言葉に、ヒューはやれやれと肩を竦め、魔石獣の後を追いかけるエディスを追いかける。


「すぐに捕まえてやる!」


 神域の森に、皆の笑い声や鳴き声が響き渡る。

 そよ風に吹かれながら、木々がさわさわと穏やかに揺れていた。


 ──人も、獣も、優しく見守るように。





 了

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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