44-2.事の顛末(2)
狐の魔石獣は、新たな仲間となった。その証として、エセルバートから名を授けられる。
神域の森で暮らす魔石獣たちは全員そうだ。
彼は、魔石番として実際に世話にあたることはないが、魔石獣の総責任者である。当然のごとく、魔石獣からは認められているので問題はない。魔石獣たちも、与えられた名前を気に入っていた。
「よし。君は……レーヴだ」
『レーヴ……』
『きゃあ! 素敵な名前ね、レーヴ! レーヴ、よろしくね! 後で皆にも教えてあげなきゃね!』
『レーヴ、オレッチは、今日からレーヴ……!』
琥珀色の尻尾をフリフリする様が可愛らしくて、エディスは内心で悶絶する。隣を見ると、メイも同様であった。きっと彼女も、もふもふしたい衝動に駆られているに違いない。
「よかったな、レーヴ」
そう言って、ヒューがレーヴの頭を優しく撫でる。レーヴが嬉しそうにきゅっと瞳を閉じた。
(ず、ずるい! ヒューってば、一番にもふもふしちゃってる! ……あの顔は、絶対確信犯だわ!)
ヒューは、満面の笑みでレーヴを撫で続けている。しまいにはそれが羨ましくなったのか、ラータも自分の頭をグイグイと押し付けていた。なので、ラータの頭もよしよしと撫でている。
「……ヘインズ子爵も、あのような顔をするのですね」
「こいつは、魔石獣馬鹿だからな」
「殿下に言われたくありません。殿下も人のことは言えないでしょう? 先ほどからうずうずされていますよね?」
「……クッ」
ヒューに指摘されたエセルバートは、我慢するのは止めと言わんばかりに、手を伸ばしてレーヴを撫で始めた。
(ええええーーー! エセルバート殿下までーーーっ!)
エディスとメイは恨めしそうに二人を眺め、彼らを見ていたビショップ侯爵は、ひたすら肩を震わせていた。
*
しばらく経って、一段落ついた頃。
エセルバートがもう一つの事件について、事の顛末を話し始めた。
もう一つの事件とは、ロランド王国における魔石鉱山枯渇についてである──。
これは、ロランド王国筆頭魔導士、デイル=アンブラーが起こしたものだった。
デイルは、魔石鉱山に眠る魔石を魔法によって採掘し、それをマディソン王国の貴族に横流ししていたのである。
採掘といっても、魔法だと人の手で掘るような跡は残らない。外側はそのままで、中身だけが抜かれるというものだったので、発覚しなかったのだ。
魔石が枯渇していく鉱山が増えていたが、これは多少不自然であったとしても、将来的に起こり得ることである。魔石獣が攫われるという事件がなければ、そのまま見過ごされていた可能性もあった。
デイルにとって、ミックの要請に応じてしまったことが大きなしくじりとなった。
ミックが魔石獣略取に関わったせいで、デイルの魔力まで探知されてしまうこととなり、結果、魔石盗掘、他国への横流しがバレてしまった──。
この事件については、第三皇子であるナイジェルが主導した。
彼の婚約者は、デイルが通じていたマディソン王国の第一王女、ローズ=マディソンである。
彼女は、国に蔓延る不正を一掃したいと考えており、いずれ婿入りするナイジェルにも相談していた。そこへ、魔石が違法取引されているという情報が入ってくる。
魔石を横流ししているのが、隣国の筆頭魔導士デイルであり、彼がマディソン王国の貴族と繋がっていることを突き止めると、ナイジェルはローズと協力して即座にその貴族を特定、更に詳しく調査すると、魔石の違法売買によって私腹を肥やしていることが判明した。
そこからは、あれよあれよという間に関係者全てが捕縛され、マディソン王国に潜伏していたデイルも捕らえられた。
不正に加担する貴族を一網打尽にでき、ローズの願いは見事達成された上、マディソン王家にも恩を売れた。
リビーがロニーの犯罪を知っていたことを暴露したことも合わせ、此度のナイジェルの活躍は目を見張るものがあり、エセルバートも彼の有能さを改めて再認識したのだという。
また、デイルについては、ロランド王国に処分を委ねることになったらしい。
ちなみに、ミックは爵位を剥奪され、元の平民に戻っている。
しかし、魔導士としての能力は惜しい。なので、最低限の衣食住は保証された状態での奉仕が決まった。要は、魔導士としてタダ働きをさせられるということである。それでも、衣食住は保証されるのだから、罰としては軽い方なのだろう。
筆頭魔導士のデイルは、どうなるのか。
筆頭だからと、軽い罰にはならないだろう。鉱山を枯渇させられた貴族たちが黙ってはいないし、マドック帝国もマディソン王国も判決の行方を注視している。それなりに重い罰になるだろうとのことだった。
「彼の目的が、マディソンへの移住だったとは……。高みを目指したのかもしれませんが、大間違いを犯しましたね。……ロランドは、もっと魔導士を増やすべきです。優秀な魔導士が多くいれば、他国への移住もそれほど難しくはないでしょうに」
「それでも、筆頭ともなると他国に出すのは惜しい。ロランド王家の気持ちもわからなくはない。だが、押さえつけるだけでは、こういった反発もあろう」
「もし、私が他国へ行きたいと言ったらどうされますか?」
ビショップ侯爵の問いに、エセルバートが詰まる。
侯爵は苦笑いを浮かべ、遠い目をして呟いた。
「彼は浅慮でした。そのせいで、これまで積み上げてきたものが一気に崩れ去ってしまった……。後継を育て、その者に筆頭を譲ってから動けばよかったのです。それが……希少とされる能力を持つ者の責任ではないでしょうか」
その呟きに、皆が賛同した。
(彼も、それは考えたのかもしれない。でも、ロランドでは魔力を多く持っていても、魔導士になろうと本気で努力する人間は少ない。後継者を探すのはとても困難だわ。それに、魔力量が多いのは、元々高い身分を持っている人たちだし……その上、目指そうにも教育機関がないんだもの……)
マドック帝国や、マディソン王国では、魔導士を育てる教育機関が存在する。そこへ入れば、魔導士になる勉強と訓練を受けられるのだ。
だが、ロランド王国にはそれがない。かの国で魔導士になろうとすれば、弟子入りするか、独学しかない。
「優秀な者たちが、国に尽くしたいと思うような国にしていくことも、重要な使命の一つ。……肝に銘じよう」
エセルバートは皆を見渡し、力強くこう締めくくった。
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