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44.事の顛末

 ラータとともにいた狐は、魔石獣だった。しかも、ロランド王国にいたという。

 狐の彼に聞いたところ、ロランド王国には彼の他に数頭仲間がいるらしい。皆はそれぞれ好きな場所で好きなように生きており、魔石を生み出しているそうだ。その魔石は、それを見つけた者が回収し、ギルドで換金しているという話だった。


 彼は思いのほか、人間側の事情にも通じている。

 こういった様々な話をしながら、神域の森の中央部、魔石獣と魔石番の住処まで戻ってきた。

 辺りは夕日で赤く染まりつつある、そんな時間になっていた。


「殿下、それにビショップ侯爵も……」


 事務所の前には、エセルバートと帝国筆頭魔導士、レイ=ビショップ、そしてメイがいた。

 メイが皆が戻ってくるまで待っているであろうことは予想できたが、まさかエセルバートにビショップ侯爵までもがいるとは思わない。


「実は、諸々報告することがあってな。ラータのことも心配だったし、ここで待つことにしたんだが……どうやら、そっちもいろいろとありそうだな」


 エセルバートが目ざとく狐を見つけると、彼はサッとエディスの影に隠れた。そして、チラチラと様子を窺う。


『大丈夫! あの人はマドック帝国の皇子様で偉い人だけど、ワタシたちの味方よ!』

『そうなんスか? もう一人は?』

『うーん、知らない!』


 ラータが狐にエセルバートのことを説明すると、彼はひとまず安心したようだ。そして、ビショップ侯爵のことは思い切り知らないと言い切ったラータに、エディスは思わずふきだしそうになった。


(うん、間違ってない。間違ってはないけど、あんな思いっきり言わなくても……!)


「お待たせしました、殿下、ビショップ侯爵。皆でラータを無事に回収いたしました。まぁ……こちらも報告することは多々ありますね。明日の朝一で、皇宮までご報告に伺うつもりだったのですが……」

「ご苦労だったな、ヒュー、エディス。疲れているとは思うが、せっかくここまで足を運んだんだ。話を聞かせてもらえるとありがたい」


 エセルバートにそう言われたら、従うしかない。彼もラータを心配していただろうし、少しでも早く無事を確認したかったのだろう。

 ヒューとエディスとメイは、手分けして魔石獣たちを獣舎に入れ、ラータと狐を事務所に連れて行った。そして、二匹にビショップ侯爵を紹介し、お茶の準備も整って、ようやく皆が一息つく。


「とりあえずは……ラータ、無事でよかった。よく戻ってきたな」


 エセルバートがラータに声をかけると、彼女は嬉しそうに飛び跳ねた。


『このこがすっごく助けてくれたの! 途中で魔物に襲われたりしたけど、守ってくれたの! 最後はめちゃくちゃ大きな魔物が出てきて、もうだめーって思ったんだけど、ウォルフが助けてくれたの! もちろん他の皆もよ。でも、皆ケガしちゃって、ワタシ申し訳なくて、でももう力が出なくて……そんな時、ヒューとエディスが皆を助けてくれたのーっ!』

「……ん? 力が出なかったのだろう? どうしてそんなに元気なんだ?」

「殿下、おそらくヘインズ子爵が緑手りょくしゅを使ったのでしょう」

「あぁ、なるほどな」


(なんか、ラータがほとんど全部話しちゃった気がするわね)


 エセルバートとラータの会話を聞いて、エディスは苦笑する。

 さすがは、おしゃべり大好きラータである。それに、ヒューの緑手りょくしゅの力で皆の怪我とラータを治療したことも、ビショップ侯爵がすでに指摘している。こちらが補足することはなさそうだ。

 ……いや、新たな魔石獣である狐のことがあった。


『このことはね、おとなりの国で出会ったの。ワタシ、戻りたくて必死で走っているうちに、道に迷っちゃって……そうしたら、このこが送ってくれるって言ってくれたの!』

『なんかボロボロだし、でも必死だし、放っておけなかったんス。それに、ラータがそこまでして帰りたいって国がどういうところなのか、オレッチも興味があったんス!』

『そうなの! だから、ワタシたちの仲間にならないかって誘ったの! そしたら、うんって! ねぇ、ヒュー、いいでしょう?』


 ラータは、魔石番の責任者がヒューであることをきちんと理解している。だから、一番にヒューにお伺いを立ててきた。

 ラータの言葉を聞いて、ヒューが笑い、ラータの額をちょんと軽く突く。


「俺は構わないが、もう一人お伺いを立てなきゃいけない方がいるだろう?」


 すると、ラータはハッとして、慌ててエセルバートの方に向き直る。そして、ペコリと頭を下げた。


『皇子様! このこも仲間に入れてほしいの。……お願いします!』

『お願いします!』


 狐もラータに倣い、頭を下げる。

 二匹のそんな様子に、エセルバートは相好を崩した。ビショップ侯爵も楽しそうに微笑んでいる。


「魔石獣がこれほど可愛らしいとは思いませんでした」

「魔石番以外が、彼らのこんな姿を目にすることは滅多にない。貴重な体験だぞ、レイ」

「はい。今日のこの瞬間を、心に留めておきたく存じます」


 こんな会話を交わした後、エセルバートはラータと狐に言った。


「もちろん構わない。歓迎しよう。それに、元々どこにいたかなど、言わなければわからないからな。君は帝国にいて、新たに見つかった魔石獣だ。だから、私たちが保護する。ここで自由に暮らすといい」

『やったぁ! ありがと、皇子様!』

『ありがとうッス!』


 二匹はワイワイと喜んでいる。

 エディスももちろん嬉しかったが、そろりとヒューとメイに目配せした。


(エセルバート殿下は、彼がロランドの魔石獣ってことを隠すつもりなんですね)

(まぁ、いろいろと面倒だからな。その方が保護しやすい。今回、ロランド王国がいろいろやらかしてるんだし、構わないだろう)

(上のおっしゃることは絶対です。殿下がいいと言えば、いいのです!)


 三人は目線だけで会話する。そして、最後にはクスッと小さな笑みを漏らしたのだった。

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