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43-3.緑手の力(3)

(あああああ、もう、わかんないっ! お願い! 神様仏様森の精霊様! どうかヒューを助けてください! ラータを助けてください! 私に与えられるものがあるなら、何でも持っていってください! だから……お願い!)


 エディスは一心不乱に祈る。もう無我夢中だった。


(お願い、お願い、お願い……!)


「エディス」


(どうか力を貸して……!)


「エディス!」

「……え?」


 耳元で大声を出され、エディスはようやく我に返る。

 眼前には、汗だくになったヒューの姿があった。手には小瓶が握られている。


「ヒュー、これは……?」

「上級ポーションだ。いや、特級になっているかもな。これをラータに飲ませる」


 ヒューはそう言って、瓶の中の液体をラータに飲ませていく。

 よほど水分が不足していたのだろう、ラータは衰弱しているにもかかわらず、コクコクと勢いよくポーションを飲み、瓶はすぐ空になった。


『……おいしかった』

「そうか。それはよかった」

『ヒュー、ありがと』

「俺だけの力じゃない。エディスの力あってこそだ」

「え? 私の力なんて全然……! 私はただ、祈るしかできなくて……」


 何かを求められていたはずなのだ。しかし、それが何なのか、どうしてもわからなかった。

 エディスが悔しさで俯いていると、ヒューがポン、と優しく頭を撫でる。


「俺にもよくわからんが……さっきのポーションは、俺だけの力じゃない。上級ポーション作成に必要な薬草を生成するには、結構な魔力を必要とする。正直、難しいかと思ったが、途中から力が湧き上がってくるような気がして……いや、本当に湧き上がってきたんだ。だから、出来た。だが、出来上がったものは、上級とは少し違う気がする。おまけに味もいいときた。これは、絶対に俺だけの力じゃないと思うぞ」

「でも……」


 ヒューの言っていることは本当なのだろうか。だとしても、やはりわからない。エディスはただ祈っていただけなのだ。


『そうなのね。エディスもありがとう。さっきまで死にそうだったのに、なんだか体が軽いわ! ふふ、今ならダンスも踊れそう!』


 ラータはトトトッとエディスの肩に上り、頬にちゅ、とキスをした。


「ラータ……!」

「こんなにすぐ元気になるなんて……。さっきのは、やはり特級ポーションになっていたんだろう。これも相当な魔力が必要で、こんな代物が今の万全でない俺に作れるわけがない。エディスの力が何らかの形で作用したんだろう。……ありがとう、エディス」

「えっと……あの、その……」


 もしかすると、無意識のうちにエディスはエディスの役割を果たせていたのかもしれない。

 そう思うと、どうしようもなく嬉しい気持ちが込み上げてきた。


『エディスー! また泣いてる! ヒュー、エディスを泣かしたらだめだろう!』

「なんで俺のせいなんだよ!」

『ヒュー、泣かしたなら、泣き止ませるのもオスの務めだ』

「男前だな、ウォルフ」

『ほらぁ、ヒュー! エディスをぎゅ~っと抱きしめて~!』

『さっさとなさいよ! アンタたち、ツガイなんでしょ?』

「……誰に聞いたんだよ?」

『ヒューとエディスはツガイなのよね? メイから聞いたわよ!』

「メイ……なんて説明したんだ……」


 ぐったりとするヒューを見て、エディスは泣き笑いする。

 嬉しくて、ホッとして、それでいて恥ずかしくて。そして、愛しさが溢れて──。


(想いがたくさん溢れて……零れてしまう)


「エディス、頼むから泣き止んでくれ」

「ちょっと難しそうです。すごく……嬉しいから。皆、私は悲しくて泣いてるわけじゃないのよ。私もちょっぴり力になれたみたいで、だから嬉しいの。人は、嬉しくても泣くのよ」


 エディスがそう言うと、魔石獣の皆はぐるっとエディスを取り囲む。

 ランディは頬をベロベロと舐め、ウォルフはすりすりと身を寄せ、ドロシーはランディと反対側の頬をちょんちょんとつつく。ラータはエディスの頭のてっぺんまで上ってべったりと貼りつき、イライジャはクルンと腕に巻き付いた。


「モテまくりだな」

「……幸せです」


 フハッとふきだし、ヒューが言った。


「それじゃ、帰るか! ……と」


 今、ようやく気づいた。

 この中に、もう一匹別の獣がいたことに。


「あなたは……?」


 エディスとヒューの視線を受け、その獣はこちらに寄ってくる。そして、ぺこりと頭を下げた。

 ラータに寄り添っていた、琥珀色の毛を持つ狐──。


「お前……俺たちの言葉がわかるんだな?」


 狐は、首を縦に振る。


『オレッチは、ラータを放っておけなかったんス。それで、あっちの国から一緒に来たんッス』


 エディスとヒューは、互いに顔を見合わせたのだった。

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