42.ラータを探せ!
ラータがロランドと帝国の国境沿いまで来ていることをエセルバートに報告後、ビショップ侯爵が正確な場所を地図に記載してヒューに渡した。
「それでは、すぐにラータを迎えに行きます」
「ああ、頼む」
ヒューの言葉に、エセルバートが頷く。
その時、ビショップ侯爵が二人に進言した。
「殿下、その捜索ですが、念のためエディス嬢を同行させるのがよいかと」
「エディスもか?」
「はい」
自分の名前が挙がったことに、エディスの気持ちは一気に浮上した。この流れだと、留守番かと思っていたのだ。
(どうして侯爵が私の名前を出してくれたのかわからないけど、私もラータを迎えに行きたい!)
「理由は?」
「魔石獣の魔力が弱くなっているからです。衰弱している可能性があり、ヘインズ子爵の手当が必要になるかもしれません」
「だが、ヒューなら……」
「念のため、ですよ。それに、エディス嬢も行きたいと言っていますよ?」
エセルバートがこちらを見る。エディスはバッと頭を下げた。
「ほら」
「ここまできたら、最後まで関わりたいでしょう。私からもお願いします」
ヒューも頭を下げる。
エセルバートはやれやれと吐息すると、エディスにもラータ捜索の許可を出した。
「わかった。それじゃ、エディスも一緒に行ってこい」
「ありがとうございます!」
「で、その場所までは誰に乗っていく? ランディか? ウォルフか?」
(魔石獣に……乗る?)
エディスがきょとんとしていると、ヒューが少し考えてからこう答える。
「ランディになるでしょう。エディス絡みでランディを外すことはできません。ですが……今回の場合、全員行くと言うでしょうね。説得は難しいかと」
「……そうか。仲間の危機とあらば、そうなるだろうな。……わかった。許可する」
「ありがとうございます。エディス、行くぞ」
「はい!」
エディスとヒューは、エセルバートとビショップ侯爵に一礼すると、すぐさま部屋を出て行く。
その背を眺めながら、エセルバートが侯爵に言った。
「……エディスについて、何かわかったみたいだな」
「はい。彼女は非常に面白い性質を持っていますね。過去に文献で例を見たことがありますが、実物は初めてです。実に興味深い」
新しい玩具を与えられた子どものような顔をする彼に、エセルバートが釘を刺す。
「レイ、ほどほどにしておけ。彼女に手を出すと、ヒューが黙っていない」
「わかっていますよ。これまで頑なに婚約者を決めようとしなかった子爵が、ようやく決めた相手です。魔塔に来ないかとお誘いしたいところですが、子爵に噛みつかれそうです。……それにしても、人は変わるものですね」
「そうだな」
エセルバートは、二人の婚約が仮初であることを知っている。だが、侯爵は知らない。
そんな彼が「人は変わるもの」だと言った。それほどまでに、これまでのヒューとは違って見えたのだろう。
「令嬢を遠ざけるばかりだった子爵が、あれほど側に置くなど。それに、心まで許している。自覚はないのでしょうが、彼女に向ける視線の甘ったるさといったら……」
そう言ってクスクスと笑う侯爵に、エセルバートは再度忠告した。
「レイ、揶揄って遊ぶなよ。私としては、あの二人がこのまま上手くまとまってくれればと思っているのだから」
「それは問題ないでしょう。子爵が彼女を手放すわけがありません」
「ならいいが」
こんな会話が繰り広げられていることも知らず、エディスとヒューは、急いで神域の森に戻るのだった。