41.帝国筆頭魔導士
マドック帝国に帰国し、すぐにエセルバートに報告、エディスとヒューはその日のうちに神域の森に戻った。
二人の疲れを癒すため、メイが家族総出でご馳走を作ってもてなす。メイとサムの料理は身体に優しく、とても美味だ。その上、心が安らぐ。
また、二人をもてなしたのはメイたちだけではない。魔石獣たちも獣舎から出てきて、二人の後をついて回り、甘え倒す。その代表は、もちろんランディだ。
その夜はなかなか獣舎に戻ろうとしない彼らに頭を抱えたヒューは、結局獣舎で夜を明かすことにした。エディスもそれに付き合った。そうすることで、魔石獣たちはようやくおとなしくなったのである。
そして、ゆっくりと休む間もなく、次の日の朝には神域の森に客人がやって来た。
「こうして顔を合わせるのは久方ぶりですね、ヘインズ子爵」
「そうですね。この度はご足労いただき、ありがとうございます。ビショップ侯爵」
ビショップ侯爵は、人外か思われるほど美しい男性だった。艶めく長い銀髪を後ろで結わえ、眩いばかりの金の瞳を柔らかに細め、品よく微笑んでいる。
(こんな美しい人がこの世に存在するなんて……。とても同じ人間とは思えないわ。エルフ? もしかして、エルフなのかしら?)
ビショップ侯爵を目にしたエディスは、カッと目を見開き、彼の容姿をマジマジと眺めてしまう。
「エディス、そんなにジロジロと見ない!」
「ハッ! す、すみません……あまりにも綺麗で……」
「それはわかるけどね。私も、初めてお会いした時は目が離せなくて見入っちゃったから」
離れたところでこそこそと話す二人に、ヒューは肩を竦める。そして、初顔合わせとなるエディスに彼を紹介した。
「エディス、こちらが帝国筆頭魔導士の、レイ=ビショップ侯爵だ」
「は、初めてお目にかかります、ビショップ侯爵。私は、魔石番のエディスと申します」
「よろしく、エディス嬢」
にっこりと笑うビショップ侯爵は、まるで妖精のようだ。
(中性的で、儚げで……でも、この方がマドック帝国が誇る筆頭魔導士、レイ=ビショップ様なのだわ)
彼の話は、散々ヒューから聞かされていた。
彼は魔導士として、オーランド大陸一と言われているそうだ。どの国の筆頭も敵わない、それほどの力と技術を有している。
魔力はともかく、技術までとなると、かなり年嵩の人物だとエディスは想像していたのだが、見事に裏切られた。まさか、これほどまでに見目麗しい美青年だったとは。
(ヒューよりは年上だろうけど、それでも若い。三十代くらいかしら)
そんな若さで実力が大陸随一など、どれほどの才能に恵まれ、またどれほどの努力を重ねたことか。
エディスがそんなことをぼんやりと考えている間にも、ヒューとビショップ侯爵は魔力探知について話をすり合わせていた。
今日は、神域の森の端からロランド王国に向けて、探知魔法をかけるのだ。
魔石獣たちは、現在獣舎にいる。
いつもなら自由に過ごしているところだが、魔石番以外の人間が来る時は基本獣舎にいて、外に出る時もその近辺のみだ。
魔石獣は、他人を警戒する。自分や仲間が害されないよう、注意深く見張っているのだ。一見、素知らぬ振りをしていても。
「よし。それでは、早速出発しても?」
「ええ。参りましょう」
どうやら、すり合わせは終わったようだ。
エディスはメイとともに二人を見送ろうとしたのだが、ヒューから一緒に来るようにと言われた。
「私もですか?」
「ああ。侯爵のご希望だ」
「……わかりました」
何故自分が? と不可解に思いながらも、来いと言われれば行くしかない。それに、筆頭の力を間近で見ることができるというのは、得難い経験である。
エディスはメイに後のことを任せ、先を歩く二人を追ったのだった。