38-2.罠に落ちたリビー(2)
ナイジェル殿下、腹黒です(;'∀')
内心ヒヤヒヤしながらも、ここは知らないと言い張るしかない。
どうせ証拠などないのだ。ひたすら知らないと言っていれば、解放されるに違いない。
リビーはそう思っていたが、騎士の一人が驚愕の事実を述べた。
「証拠はある。ここに書かれてある」
「はあ? なによ、こ……」
「婚約者のロニーは裏の顔があり、それが恐ろしくてたまらない。帰国する前夜、離宮をこっそり抜け出しているのを見かけ、どうにも気になってずっと起きて見張っていた。すると、朝方戻って来て「これで金儲けができる」などと言っていた。悪事を働いたに違いない」
「……っ!」
騎士が書かれてある文字を読み上げる。その内容に覚えがありすぎた。
(これは……私がナイジェル殿下にあてた手紙じゃない!)
リビーは、あの夜のことをナイジェルに明かしていたのだ。そして、こうも伝えた。
自分の婚約者は悪事を働くような極悪人だから助けてほしい、と。
ナイジェルからの返事は、すぐに解決するからおとなしく待っていてほしいと書かれてあったのだが……。
(解決するって……こういうことだったの!?)
ロニーの件を伝えたのは、か弱い自分を悪者から救ってほしいというアピールのつもりだった。皇子は姫を助けるものだ。リビーは、自らを姫と位置付けていた。
ナイジェルを落とすまであと少し。これは、彼が行動を起こすための布石だった。リビーが助けを求めれば、ナイジェルは絶対に助けに来てくれる、彼女はそう信じていたのだ。
だが、ナイジェルはこの内容を見て、ロニーが魔石獣を攫ったのだと確信した。そして、リビーはそれを知りながら、あえて隠していたと断じた。
(ナイジェル殿下……ひどいわ! どうして……!)
「私、私はっ……何も知らない!」
「悪事を働いたに違いない、とあるが?」
「な、なんとなくそう思っただけよ!」
「なら、どうしてクルーズ子爵に言わなかった? ナイジェル殿下には伝えたのに」
「そ……それはっ……」
言葉に詰まるリビーを見かね、ヨランダとクルーズ子爵が口を挟んでくる。
「その……動転していたのよ! 私たちに話したと思っていたのよ、ね?」
「そ、そうよ!」
「リビーは不安のあまり、お慕いする殿下に一番にお話しただけだ! お慕いするからこそ、助けてほしいと思ったんだ! いじらしいじゃないか!」
「そうよそうよ! なんていじらしいのかしら! なのに、ナイジェル殿下は……」
「父上、義母上、この期に及んでまだリビーを庇うのですか? 言っていることも滅茶苦茶だ。いじらしい? ふん、馬鹿馬鹿しい」
悠々と部屋に入ってきたのは、エリオットである。冷ややかな視線で彼らを見遣り、わざとらしく肩を竦める。
これまで従順だった彼らしくない態度に皆は呆気に取られるが、すぐさま顔を歪ませ、喚きたてた。
「エリオット! 貴様、なんてことを言うんだ!」
「そうよ! 親を馬鹿にするなんて、信じられないわ!」
「お兄様、ひどいわ!」
エリオットは大きな溜息をつき、リビーに向かって言う。
「策を講じたつもりが溺れたな。あの文章を見れば、お前がロニーの犯罪を知っていたと判断せざるを得ない」
「私は、魔石獣が攫われたことなんて知らな……」
「父上に尋ねていただろう? 父上もしれっと話していた。家族にさえ内密にすべきことだったのにな。お前はその時、気づいたはずだ。ロニーが魔石獣を攫ったのだと」
その場にエリオットがいたかどうかなど、彼らは覚えていない。エリオットはいつも影のように控えていたから。
しかし、クルーズ子爵がリビーに話したのを知っているということは、いたのだろう。迂闊だった。
リビーは、我を忘れて喚き散らす。
「どうして! どうしてナイジェル殿下は私の手紙を他人に見せるようなことをしたの? 私を陥れるなんてっ……! 殿下は私のことが好きなのよ? 想ってくれているのよ? なのに、どうして!? どうしてよぉーーーっ!」
リビーが崩れ落ちる。
エリオットは気の毒そうにしつつも、淡々と残酷な事実を告げた。
「ナイジェル殿下はお前のことを全てご存じだった。姉を虐げ、婚約者まで奪うような女だとね。最初からお前に好意など持っていなかったんだ」
「じゃあ……どうして何度も会ってくれたの? いつも優しくて、話を聞いてくれて……」
「帝国で重要なポストについたエディスを妬み、何かしでかさないと見張っていたんだよ」
「はぁ? なんでここでお姉様が出てくんのよ? 意味わかんないっ!」
「お前は、夜会でエディスに絡んだそうじゃないか」
「……」
「そうでなくても、帝国の高位貴族の令息たちに手あたり次第に声をかけていたそうだな。お前は、最初から危険人物としてマークされていたんだよ」
「そんな……ひどい……ひどいわ、ナイジェル殿下……」
わああと泣き出すリビーをヨランダが慰める。が、リビーは益々大きな声で泣き喚く。まるで、幼い子どもが駄々を捏ねるように。
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