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37-2.明らかになった罪(2)

「ロニー様、帝国の魔石獣を攫うなんて、とんでもないことをしでかしましたね」

「なにをっ……! 攫うなんて、ちょっと、ちょっと借りただけだ!」

「はあ? そんな言い訳が通用すると思ってるんですか? 第一、魔石獣を貸し出すわけないでしょう?」

「僕に持ち出せるわけがない!」

「シートン男爵を唆したと聞いてますが?」

「うるさい! あいつが勝手にそう言っているだけだ! あいつは魔石獣と話したがっていた。あいつが魔石獣を奪おうと言ったんだ!」

「仮にそうだとしても、何故あなたはその話に乗ったんですか? ……あなたが彼を脅したんでしょう? 伯爵令息に言われたら、断れないもの。ねぇ、ラータはどこにいるんですか? ラータを返して!」

「うるさいうるさいうるさい! あんな獣はどこかへ行った! 今頃は野垂れ死んでるだろうよ!」

「……あんただけは、絶対に許さないっ!」


 支離滅裂で責任逃れと言える発言の数々にどうにも我慢ができず、エディスはロニーに駆け寄り、彼の襟元を掴み上げた。側にいた騎士が慌てて放すよう言ったので、エディスはそれに従う。ただし、かなり勢いをつけて。

 ロニーは床に投げ出され、呻き声をあげた。


「この……乱暴女! 婚約破棄して正解だった! お前は可愛くなくて、がさつで、気遣いもできない最低な女だ! お前の母親が強引にまとめた婚約のせいで、僕がいくら嫌だと言っても両親は聞いてくれなかった! クルーズ子爵家からの援助を受ける条件だと言って! お前は、僕を、金で買ったんだよ! なんて卑しい女なんだ! 全部お前が悪い、お前が悪いんだ、エディス!!」


 狂ったように叫ぶロニーに、エディスは顔を歪める。

 放っておけばいいのだが、ここまで言われて黙っていられない。


「私が望んだ婚約じゃないわ! どうしようもなかった。貴族の子息や令嬢が望みどおりの結婚ができないなんて当然でしょう? 私だって、あなたと結婚するなんてまっぴらごめんだったわ。何とかできるなら、とっくにしてたわよ!」

「うるさいっ! お前が悪いんだ! お前さえいなければ……ぐあっ!」


 床に転げていたロニーの身体が突然吹っ飛び、壁にぶつかった。


「ヒュー!」

「ギャーギャーとやかましいんだよ。さっきから「お前が悪い」の一点張りで、他に何か言うことはないのか。頭が悪すぎて反吐が出る。ああ、頭よりも性格の方が悪いか」

「う、うるさっ……」


 ヒューが足を上げると、ロニーは身を縮こませブルブルと震える。先ほど蹴られたのが、よほど堪えたらしい。


「気に入らない相手でも、婚約したなら誠意をもって接するべきだろう? なのに、とことん冷遇して、挙句の果てには異母妹と浮気、婚約者を取り替える。……最低も最低じゃないか、お前も、両親も」


 ヒューに睨まれた伯爵夫妻は小さな悲鳴をあげ、視線を逸らせる。

 しばらく彼らを見つめた後、ヒューはエディスの肩を抱いて促した。


「もうここに用はない」

「え……」

「ラータの魔力や気配は感じられない。逃げたというのは本当だろう」

「……ラータ」


 気落ちするエディスを励まし、ヒューが歩き出す。が、ロニーが再びエディスに向かって叫んだ。


「エディス! ……た、助けてくれっ!」


 エディスは振り返って彼を見る。ボロボロになったロニーに、彼女は告げた。


「それを言う相手、間違っていますよね? リビーに言ってください。私とあなたは、もう何の関係もないのだから」

「エディス! 悪かった! 頼むから助けてくれ! これからはちゃんと大事にするから! リビーとは別れる! だから!」


(はあ? 何言ってんだ、こいつ?)


 エディスが呆れ果てていると、不意にヒューに引き寄せられる。


「ヒュー?」


 彼を見上げその表情を窺ったことを、エディスはほんの少しだけ後悔した。

 ヒューはとんでもなく凶悪な顔で、ロニーを威嚇していたのだ。


「鬱陶しいんだよ、お前。また痛い目見たいのか? ああ? あと、エディスは俺の婚約者だ。手出すな」


(……えっと、ヒューって貴族よね? 子爵様よね? もっと言えば、元侯爵令息よね……?)


「行くぞ、エディス」

「は、はいっ」


 肩を抱かれたまま、エディスはあたふたと歩き出す。そこで、あれ? と気づいた。


「ヒュー、いつラータを探したんですか?」

「あの馬鹿が、訳わからんことをほざいていた間」

「……よく集中できましたね」

「無理やりな。不快な雑音だったから、一刻も早くここから去りたかった」

「完全同意です」

「エディス」

「はい?」


 ちょうど、伯爵邸の門を出たところだった。

 ヒューが再度エディスを引き寄せ、彼女のこめかみに唇を押し当てる。


「!」

「お前は可愛い上に強くて、でも優しくて気遣いもできる、いい女だよ」

「……っ!」

「あのクズの言うことは戯言だ。忘れろ」


 ぶわりと何かがこみ上げる。

 恥ずかしさと、嬉しさと──恋しい気持ち。


(ヒューのバカ。そんなこと言われたら……惹かれずにいられないじゃない)


 今だけ、今だけだから。

 そう言い聞かせ、エディスはヒューに抱きしめられるままに身を任せた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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