37.明らかになった罪
魔導士のミックが捕らえられた次の日、エリオットが隠れ家へとやって来た。
ちょっとした連絡事項なら、通信で済む。が、直接足を運んだということはそれだけ重大なことがあるのだろう。現に、応接室に現れた彼の表情はいつもより厳しいものだった。
「お兄様、何か進展があったのでしょうか?」
エディスが尋ねると、エリオットは意を決したように言った。
「ロニーが噛んでいた」
「え?」
「ロニーとシートン男爵が組んでいたんだ。シートン男爵を唆し、魔石獣を奪おうと画策したのはロニーだった」
「なんですって!」
エディスは愕然とする。短絡的で浅慮だとは常々思っていたが、ここまでだとは思わなかった。
ロニーは視察にも来ていたし、魔石獣についてあれほどヒューから説明されていたにもかかわらず、彼はいったい何を聞いていたのか。
「……俺の言うことが信じられなかったんだろうな」
「あの……馬鹿!」
「エディス、言葉……と言いたいが、同意見だな。ロニーは自信過剰なところがあったし、自分なら、と思ったんだろう」
(自分なら、魔石獣を思いどおりにできるとでも思ったの? ありえない! それに、唆される方もどうかしているわ。シートン男爵……あんなに真面目そうな人が……ううん、もしかしたら強要されたのかもしれない。なんてったって、ロニーだもの)
「彼が主導していたなら、ラータは彼のところにいるのか?」
「すぐに行きましょう!」
ヒューの言葉に、エディスはすぐさま立ち上がる。こんなところでのんびりしている暇はない。早くラータを助けに行かなければ。
「いえ、それが……」
今にも駆け出しそうなエディスだが、煮え切らない兄の態度に首を傾げる。ヒューも、あらかじめ予想していたのかソファに腰掛けたままだ。
エリオットは、何とも言えない表情で二人に告げた。
「魔石獣は逃げてしまったと言っています。現在確認のため、マレット伯爵邸の家宅捜索が騎士団によって行われているそうです」
「わかった。知らせてくれて感謝する。……エディス、行くぞ」
「え?」
「マレット伯爵邸に行く。彼が嘘をついて隠している場合、通常の家宅捜索では見つけられない可能性が高い。だが、俺ならラータの魔力を感知できる」
「ヒュー、本当に!?」
「ああ。あまり広範囲だと難しいが、邸一帯なら問題ない。行くぞ」
「はい!」
後のことをエリオットに任せ、二人はマレット伯爵邸へと向かう。
馬車に乗り込んだ時、ふと魔力探知の魔道具が目に入り、エディスは尋ねた。
「この魔道具って、特定の魔力を探すという風には使えないのですか?」
これを使ってラータを追えないかと思ったのだ。しかし、ヒューからの答えはノーだった。
「残念ながら、この魔道具で探知できる魔力は、魔導士レベルのものに限られるんだ。だから、これでラータは探せない」
ヒューは、エディスの意図を察していた。
この魔道具が作成されたきっかけは、魔導士としての素質がある者を探し出すためだった。
量も多く強い力を有する者は、大抵は貴族である。貴族ならば見つけ出すことは容易だが、平民となると難しい。数は多くないが、平民の中にもそういった者はいる。そういった者を探す目的で作られたのである。
話を聞いて、エディスは納得しながらも小さく溜息をつく。
「探せるなら、とっくに探してますよね……」
「だが、目の付け所はいい。特定の魔導士の魔力を探知することは可能だ。これは、犯罪を犯した魔導士の潜伏場所を特定する際にも使われる」
「そうなんですね」
そんな話をしているうちに、馬車はマレット伯爵邸の門前に到着した。
門は開け放たれ、騎士たちが忙しなく行き交っている。そのうちの一人に声をかけ、この場の責任者を尋ねると、なんと騎士団長だった。
マドック帝国の重要な資源でもある魔石獣を攫ったのだ、大事である。騎士団長が出張ってくるのも頷けた。
ヒューは彼に話をつけ、中に通してもらう。玄関ホールに入ると、そこには身柄を拘束されているマレット伯爵夫妻とロニーがいた。
「エディス!」
ロニーはエディスを見つけるやいなや、大声で怒鳴りつける。
エディスは眉を顰め、ゆっくりと振り返った。そして、彼を冷たい目で見つめる。