表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/77

36.堕ちた魔導士

 魔道具が感知した魔力を照会するため、ヒューは帝国に文書を送った。転送なので、瞬く間にエセルバートの元へ届くだろう。

 一方、エリオットの方は少々手こずったようだが、何とかロランド国王から承認を得て、ロランドの魔導士の魔力とを照合することに成功した。その結果、恐るべきことが判明する。


「帝国で感知された魔力ですが、ミック=シートン男爵のものと一致しました」

「やはりな。あと、クルーズ子爵領の魔石鉱山で感知されたものは、帝国の魔導士のものではなかった」


 案の定、エセルバートは速攻で調べ、結果を転送してきたのだ。

 それを聞いて頷きつつ、エリオットは硬い表情で告げた。


「魔石鉱山の魔力は……デイル=アンブラー子爵のものでした」

「なんですって!?」


 エディスは大きく目を見開いたが、ヒューは落ち着いている。大方、当たりをつけていたのだろう。


「エディスが中身だけを抜き出されているようだと言った時から、そんなことがあるとしたら筆頭以外ないと思っていた。同じような減少傾向のある他の魔石鉱山でも、彼の魔力が検知されるだろう」

「でも……筆頭がどうしてそんなことを……」


 筆頭魔導士の給料は、文官や武官など比較にならないほど高い。宰相レベルとまで言われている。


「お金に困っていたとは思えないわ」

「莫大な借金を背負っていたのかもしれない」

「それで、他領の魔石鉱山から魔石を盗み、違法に売った? ……リスクが高すぎるわ」


 もしそれが露呈すれば、筆頭として、いや、魔導士としての生命は終わる。


「……マディソン王国に魔石を流していたとしたら?」


 ヒューの言葉に、エディスとエリオットは絶句した。

 デイルは、マディソン王国の人間と接触していた。彼は、かの国に移住したいと考えるが、正攻法では叶わない。仮に強引に移住したとしても、ロランド王国から要請されれば、マディソン王国は彼を引き渡すだろう。それでは意味がない。

 となると、デイルはなんとしてもマディソン王国に守ってもらわねばならないのだ。


「マディソン王国の庇護を受けるため、魔石を横流しした……?」

「十分あり得るな。あの国も魔石が不足している。帝国のように魔石獣を飼育する事業も手掛けてはいるが、まだ軌道に乗っていない」


 それにしても、数々の鉱山を枯渇させるほどの量を盗むなど──。


「マディソン王国は、魔導士が特に優遇される国です。他国とはいえ筆頭なら、それなりの地位を約束されているのかもしれません」

「唆されたと?」

「互いの思惑が一致したのでしょう」

「なるほどな」


 エリオットとヒューの会話を聞いて、エディスは脱力した。


(自分の望みを叶えるために、自国の民を追い詰めるなんて……)


 ロランドだって魔石が不足している。国はようやっと重い腰を上げ、魔石獣から魔石を得ようと乗り出したところだ。

 先はまだ長い。だからこそ、鉱山の魔石はこれまでよりもっと大切に扱わねばならなかったはずなのに。


「国はどう動く?」

「シートン男爵とアンブラー子爵の元に騎士団を送り込みました。捕まるのは時間の問題でしょう」


 二人が捕まれば、真実が明らかにされるはずだ。

 しかし、ラータが姿を消してから、もうかなりの時間が経つ。さすがに飲まず食わずではないだろうが、突然見知らぬところへ連れてこられたせいで、精神的疲労は大きいだろう。できるだけ早く保護したい。


「お兄様、シートン男爵に話は聞けそう?」

「取り調べの結果はすぐに教えてもらえることになっている。彼が取り調べに素直に応じれば、二、三日後には聞けるだろう」


 エリオットは、できるだけのことをした。

 魔導士の魔力照会は王の承認が必要となるが、それを当主には内密にしたまま子爵令息が達成したのだ。それだけですごい。あらゆる有益な人脈を駆使した結果である。

 それでも、エディスは唇を噛みしめる。


(シートン男爵がすぐに捕まって、素直に白状して……で、二、三日後ってことよね……)


「エディス。ここにきて焦るな」


 ヒューの声に、エディスは顔を上げた。


「ヒュー……」

「これは大きな前進だ。……エリオット殿、感謝する」


 そう言って、ヒューが深く頭を下げる。

 目上の者が目下の者に頭を下げるなど滅多にないことで、それだけ感謝しているという証でもある。

 エリオットは、ひたすら恐縮していた。


「……お兄様、ありがとうございます」


 エディスもヒューに倣う。

 もう少しで手が届きそうなものだから、つい焦ってしまった。

 エリオットは、しゅんと落ち込むエディスの肩を軽く叩く。


「シートン男爵は真面目な男だと聞いている。そんな彼がどうしてあんなことをしたのかわからないが、捕まった以上はきちんと話してくれるだろう。……もう少し待ってくれ」

「はい、お兄様」


 だが、その日の夜に不吉な一報が入る。

 エディスとヒューが、ドーラの淹れた紅茶を飲みながら歓談していた時、エリオットから通信が入ったのだ。


「シートン男爵が捕縛された。が、アンブラー子爵は姿を消した。邸ももぬけの殻で、魔塔にもいなかったそうだ」


 デイル逃亡の知らせだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ