表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/77

35-3.魔石鉱山枯渇の謎(3)

 早朝に出発し、本来ならその日中に辿り着けるかどうかというクルーズ子爵領に到着したのは、当日の昼過ぎだった。

 領地を訪れることは、もちろん子爵家には内緒である。というか、彼らは滅多に領地に踏み入らないので、バレる心配はあまりない。いまや、領地経営はエリオットに丸投げなのだ。


「それにしても、すごいスピードだった……」

「大丈夫? お兄様」


 エディスたちの馬車に同乗したエリオットは、そのスピードにひたすら驚き、感心していた。そして、その乗り心地にも。

 通常の二倍ものスピードで走れば、その揺れも半端ない。だが、車輪や座席に工夫が凝らされており、普通の馬車よりも快適だったのだ。


「帝国の馬車は進んでいる……」

「いや、さすがに帝国貴族でもこれほどの馬車に乗っている者はいないぞ。これは、皇族が使用しているものだ」

「は?」

「へ?」


 ヒューの言葉に、エリオットとエディスが揃って素っ頓狂な声をあげた。


「え? え? 皇族が使用しているって……」

「エセルバート殿下が貸してくれた」

「……ヒュー様は、よほど信頼されているのですね」

「エセルバート殿下……気前よすぎでしょ……」


 呆気に取られる二人をよそに、ヒューは目の前の鉱山を見上げる。

 入口はすでに封鎖され、人の気配はない。まだ閉山して間もないだろうに、すっかり寂れてしまっていた。


「採掘量の推移を見せてもらったが、減少具合が急すぎる。盗掘されている可能性はなかったのだろうか」

「それも考え、採掘に関わる全員に聞き取り調査を行ったのですが、不審な点は見られませんでした。賊などが入った形跡もありません」

「そうか……」


 考え込むヒューを横目に、エディスは小声でエリオットに囁く。


「魔石が取れるはずの場所を掘っても、取れなくなったってことよね?」

「そうだ。魔石が埋まっているかは、専用の魔道具で調べられる。それによれば、まだまだ取れるはずだったんだ」

「その魔道具が壊れてたって可能性は?」

「ない。……といっても、絶対じゃない。でも、他の鉱山で確認した時はきちんと動作したことから、故障ではないと思う」

「そうなのね……。なんだか嘘みたいな話だわ。中身だけごっそり抜かれたみたい」

「その可能性はあるかもしれないな」

「え!?」


 突然会話に加わってきたヒューを見ると、なるほどといったように頷いていた。そして馬車に戻り、箱を抱えて戻ってくる。


「ヒュー、それは……」

「実は気になっていたのです。それはいったい何ですか?」

「魔力を探知する魔道具だ」


 エディスがこそっと「皇族所有のものを借りてきたの」と言うと、エリオットは目をむいていた。


「エリオット殿、この魔道具をここで起動させてもいいか?」

「それは構いませんが、何を……」


 ヒューは、ニヤリと口角を上げる。


「魔力を感知すれば、魔導士が魔石盗掘に関わった証拠になる」

「ええ!?」


 エリオットとともに、エディスも驚きの声をあげた。


(中身だけ抜かれたみたいだとは言ったけど……まさか、本当に?)


 そうこうしているうちに、ヒューは魔道具を起動させる準備を終える。そして、両手を構えた。魔道具に魔力を注ぐのだ。


「いくぞ」

「お願いします」


 ヒューが魔力を注ぎ始めると、魔道具が反応する。しかし、起動は完全ではない。


(ヒュー……!)


 エセルバートはいとも簡単に起動させていたように見えたが、その後、随分と疲れていた。ヒューも言っていたが、この魔道具はかなりの魔力を必要とするのだろう。

 ヒューは、諦めずに魔力を注ぎ続ける。次第に額から汗が流れ落ちていく。

 そんな彼の様子を見て、エディスは思わず両手を組んだ。


(ああ、私にも魔力があればいいのに! ヒューみたいに魔力譲渡ができれば、力になれるのに! 神様……どうかヒューに力をお与えください……!)


「起動した!」


 森で起動させた時のように、光が周辺に飛び散っていく。

 額の汗を拭い、ヒューがその場に膝をついた。エリオットがすかさず彼を支える。


「申し訳ない」

「いいえ。今、何か飲み物を……」

「ヒュー、これを」


 エディスがそっとカップを手渡す。ヒューは、なみなみに注がれた水を一気に飲み干した。


「はぁ……。ありがとう、エディス」

「もう一杯飲みますか?」

「頼む」


 再びカップに水を入れる。今回も溢れそうなほどの量。しかし、ヒューはまた一気に飲み干す。

 そんな二人を見て、エリオットは小さく笑みを漏らした。


「お兄様?」

「いや……なみなみに注ぐエディスに驚いたが、それを飲み干すヒュー様にも驚いて……。でも、何の違和感もなくて、分かり合ってるんだなと思ったんだよ」

「そ、そんなこと! だって、あんなに汗かいてるんだから、たくさん水が欲しいでしょ? そんなの、誰だってわかるし!」

「それでも、普通はあんなにギリギリまで入れないだろう。かえって飲みにくいじゃないか。なのに、ヒュー様は当たり前のようにそれを飲み干すのだから」


(そうか……そうね。お兄様の言うことも一理あるわ。うーん、令嬢生活から離れて以来、やることなすこと適当というか、豪快というか、気遣いがないかも……)


 エディスが内心冷や汗をかいていると、魔道具を調べていたヒューが、切羽詰まった声で二人に声をかけた。


「魔力反応があった。かなり大きい。帝国にも照会を依頼するが、エリオット殿、ロランドの方も照会を願えるか?」


 エディスとエリオットは息を呑む。

 エリオットは驚愕のあまり呆然としていたが、すぐに我に返り、頷いた。


「承知いたしました」


 エリオットの力では、それが実現するかどうかわからない。

 だが彼の表情は、必ず成し遂げてみせるという決意に満ちていた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

いいな、面白いな、と感じていただけましたら、ブクマや評価(☆☆☆☆☆)をいただけますととても嬉しいです。皆さまの応援が励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ