35-2.魔石鉱山枯渇の謎(2)
デイルが他国へ移住するためには、魔導士全員の承認を得た次期筆頭を決め、王の許しを得る必要がある。相当高いハードルだ。
仮に、これが帝国なら、魔導士の数が多いので実現は可能だろう。だが、元々魔導士の少ないロランド王国では不可能だ。次期筆頭が決まっても、王が承認しない。
「あと、シートン男爵ですが、相変わらず引きこもったままですね。ですが、王都くらいならどこへでも転移可能とのことで、必ずしも邸に閉じこもっているとは言い難いです」
「なるほど……。だが、買い物なら使用人に頼めばいいし、出かけるとなると、親しい者のところへと考えられるが、彼と仲のよい友人、もしくは恋人はいるのだろうか」
「魔導士にはいないようです。というか、魔導士は皆干渉し合わずのようで……。魔導士以外の友人、恋人に関しては、現在調べています」
「引き続き、よろしく頼む」
「かしこまりました」
二人の会話を聞きながら、エディスはなんとなく視察のことを思い出していた。
(そういえば、シートン男爵とロニーは年齢が近い感じだったわよね……。まぁ、シートン男爵は勤勉だし、ロニーとは合わなそうだけど……)
しかし、どこか引っかかる。
(なんだろう? どうして気になるの? シートン男爵は、魔石獣に強い関心を示していた。筆頭に魔道具を送ってもらうくらい、魔石獣と会話をしたがっていた。一方、ロニーは魔石獣に怯えていたくらいだわ。でも、あの時……)
ヒューが、魔石獣を人の意のままになどできないという話をした時。
(あの顔は、何かを企んでいるかのようだった)
誰も自分の方など見ていないと思ったのだろう。ロニーは、完全に油断していた。
あの時の彼の表情は、とても貴族とは思えないほど、エディスの目には卑しく映ったのだ。
「エディス?」
「え? あ、ごめんなさい」
「何か気になることでもあるのか?」
エリオットとヒューに聞かれ、エディスは慌てる。
彼らのことは気にはなるが、二人に話せる段階ではない。ただなんとなくもやもやするだけで、上手く言葉にできないのだ。
(どうしよう! 何とか誤魔化さないと!)
その時、ふと思いついた。
「あの! お兄様、クルーズ子爵家の魔石鉱山の一つが枯渇しそうって話は、その後どうなったの?」
その言葉に、エリオットが瞳を伏せる。これだけで、答えがわかってしまった。
「完全に枯渇した。それだけじゃなく、別の鉱山の採掘量も目に見えて減ってきているんだ」
「そんな……」
「枯渇した鉱山と同じく、減少具合が急激すぎる」
これは、クルーズ子爵家所有の鉱山だけではない。他家での鉱山も同様だった。
この動きは止まらず、増え続けている。このままでは、ロランド王国の魔石鉱山は、一つ残らず枯渇してしまう。
「エリオット殿、一度、枯渇した鉱山を見せてもらえないだろうか」
「お兄様、私も見てみたいわ」
明らかにおかしな現象だ。何か不可思議な力が働いているとしか思えない。
ヒューとエディスの申し出に、エリオットはしばらく逡巡する。が、最終的には首を縦に振った。
「わかった。ヒュー様、子爵領は王都から近いとはいえ、まる一日ほどは移動に時間がかかります。それでも構いませんか?」
「うちの馬車を使えば、半日程度に短縮できると思う」
確かに、あの馬たちならできるだろう。なんなら、もっと短縮できるのではないだろうか。
ということで、明日の早朝、エリオットの案内でエディスとヒューはクルーズ子爵領の魔石鉱山に向かうことになったのだった。