35.魔石鉱山枯渇の謎
小さな応接室に、お茶の用意がされる。見た目も美しいケーキやマフィン、クッキーなどのお茶菓子もテーブルに並び、エディスは目を輝かせた。
(ああああ! 久しぶりの豪華なおやつ!)
クルーズ子爵家にいれば、当然毎日出されていたものではあるが、なにせエディスは冷遇されていた。そんなものが用意されるわけがない。
だから、冒険者として稼いだ金で自分で買っていた。他の家族の目を盗んで、エリオットからもらうことも多かったが。
そんな菓子を、夜中にこそこそと食べていた。あの頃のエディスのささやかな幸せだ。
しかし、帝国に行ってからは、こういった菓子とは無縁だった。
(メイやサムの作ってくれる素朴なお菓子も大好きだけど、偶にはこういう豪華なものも欲しくなるわよね!)
エリオットが皆に勧めた合図で、エディスは見るからに美味しそうなイチゴの乗ったケーキをパクリと口に入れた。
「ん~~~~、美味しい!」
「エディス……」
ふと前を見ると、エリオットが呆れた顔をしている。
(うわ! やってしまった!)
見知った顔ばかりで、つい神域の森にいるような気になってしまっていた。
エディスは慌てて姿勢を正し、ゆっくりと紅茶のカップを持ち上げる。
「まぁ、かぐわしい香り。いただきますわ」
「ぶっ!」
隣を見ると、ヒューがふきだしていた。
(失礼な!)
「エリオット殿、私……いや、俺は貴族とはいえ、変わり種だ。皇宮や夜会などではちゃんとするが、普段はマナーなど全く気にしない。エディスもそんな感じだ。思うところはあるだろうが、容赦してもらえないだろうか」
「……ヒュー様がそうおっしゃるのなら」
エリオットが困った顔で了承するが、彼だって普段のエディスが令嬢らしからぬことは知っているのだ。昼は使用人、夜は冒険者、二つの顔を持つエディスを知るのは、彼だけだったのだから。ただ、ヒューの手前、諫めようとしたのだろう。
「エディス、いつもどおりでいい。そうでないと、俺が笑いすぎて茶も菓子も味わえない」
「……お気遣いいただき、ありがとうございます」
複雑な気持ちになりながらもそう言って、エディスはクッキーをポイと口に放り込んだ。そして、にんまりと微笑む。
(これも美味しい~~!)
幸せそうなエディスの笑顔に、エリオットは相好を崩す。そしてしばらくの間、和やかな時間が流れた。
やがてお茶の時間が終わり、茶器などが片付けられる。何も乗っていないテーブルの上に、書類が広げられた。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、新たにわかったことをお伝えしたいと思います」
「よろしく頼む」
ヒューの言葉に頷き、エリオットが話し始める。
エリオットは、情報通の魔導士と常に連絡を取り合い、情報を得ていた。
それによると、筆頭魔導士のデイルが接触していたのは、なんとマディソン王国の人間だったらしい。
マディソン王国には、マドック帝国に次ぐ多くの魔導士が存在する。魔力の多い者は、もれなく魔導士を目指す徹底ぶりだ。国土はそれほどではないが、その割に魔導士が多く、魔法が発展している国なのである。それ故、かの国に憧れる魔導士は多い。
「もしや、アンブラー子爵は移住を考えているのでは?」
ヒューの問いに、エリオットは首肯した。
「友人である魔導士もそう言っていました。しかし、それは難しい……いえ、できないと言っていいでしょう」
「……筆頭魔導士をむざむざ他国へやるわけにはいかない、と」
「はい」