30-3.助けを求める(3)
「なるほど……。それは大変だったな。鼠の魔石獣……ラータか、彼女の捜索には協力させてもらうよ。使節団のメンバーだった魔導士は、確かミック=シートン男爵だ。元は平民だが、魔導士になったことで爵位を得た。こういった出自だから、他の貴族に利用されている可能性もあるな……」
「そうだったのね。まだ若い人だったし、勉強熱心で真っ直ぐな感じがしたから、上手く言いくるめられてしまったのかもしれないわね……」
彼は、魔石獣に強い関心を示していた。意思疎通を願っていたようだが、だめだとわかった時は、それはそれは残念そうにしていたっけ……と、視察の時のことを思い出す。
その様子は、皆が見ていた。だから、その部分を突いて悪事に加担させた可能性はある。もしくは、ミックの独断であることも……。
(ううん、それはないような気がする。意思疎通したいだけで攫うなんて、リスクが大きすぎるもの)
己の欲望に取りつかれていたなら、それもありだろう。だが、そんなタイプの人間には見えなかった。とはいえ、人は見かけに寄らないので、なんとも言い難いのだが。
「とにかく、シートン男爵については注視しておこう。何かあれば、すぐに連絡する。で……話は変わるんだが、リビーとロニーの婚約が解消されるようだ」
「え? そうなの?」
いつの間にそんなことになっていたのだろうか。
せっかくエディスから奪い取った伯爵令息との婚約なのに、リビーはまた何をやらかしたのだろうか。
エディスがそんな風に考えていると、エリオットは更に驚くべきことを言ってきた。
「リビーが婚約破棄したいと言ってきたんだ。父上は吃驚仰天だが、何故かヨランダはわかっている風だった。……そっちで何かあったのか?」
「いいえ……あ! なんか、ヒューを気に入ってたみたいだけど……でも、まるっきり相手にされてなかったし、それでロニーとの婚約を破棄したいなんてありえないわよね」
「ヘインズ子爵か。エディスの話を聞く限りでは、リビーなど相手にしなそうだ」
「あははは……」
まさに塩対応。けんもほろろとは、ああいったことを指すのだろうと思われる。
「ヨランダが父上を説得して、マレット伯爵家に申し出たところ、伯爵夫妻はもちろん反対した。しかし、ロニー当人は構わないと言ったそうだ。ただ、自分に瑕疵がないことを強調した。逆に、夜会でのリビーの態度を責める姿勢を見せたものだから、うちは慌てて解消の方向へ持っていったらしい」
「……私はちゃんと見てなかったけど、帝国の高位貴族の令息相手に、媚びを売ってたみたい」
「いつもどおりだな」
「ええ。でも、リビーはロニーに対して、何を理由に破棄を?」
「婚約者としての義務を果たしてない、だと」
「……」
ロニーは、エディスに対しては贈り物一つ寄越さず、夜会でのエスコートも最初だけ。後はほったらかし状態だった。そのうち、エスコートもしなくなり、常にリビーを側に置くようになった。リビーに対してはかなり貢いでいたようだし、デートも重ねていた。
(あれで果たしてないって、どういうこと!?)
目が点である。よくもそんなことが言えたものだ。
「呆れるわ……」
「まったくだ。だが、リビーはともかく、ロニーも了承したとなるとな……不可解だ。少なくとも、ロニーはリビーにベタ惚れだった気がするんだが。彼にも、別に想う相手ができたということだろうか」
「……不可解ではあるけど、私的にはもうどうでもいいかな」
薄情かもしれないが、エディスとしては、ロニーとのことはもう終わったことである。リビーと添い遂げようと、他と浮気しようと、本当にどうだっていい。
「そうだな。でも、あの二人もロクなことをしない。一応は注意しておくよ」
「ええ。ありがとう、お兄様」
「……少し遅くなったな。朝は早いんだろう? もう休んだ方がいい」
「はい。……おやすみなさい、お兄様」
「おやすみ、エディス」
そして、通信が切れる。
エディスはしばらくの間ペンダントトップの魔石を見つめ、やがてベッドに転がった。
「何か動きがありますように……」
マドック帝国内での捜索は、すでに手詰まりになっていた。だから、そう願わずにはいられない。
「それにしても……リビーとロニー、あの二人はいったいなんなのかしらね」
どうでもいいことながら、なんとなくもやっとしたものは感じる。
だが、今はそれどころではない。
「ラータ……どうか無事でいて」
小さく呟き、エディスはゆっくりと瞳を閉じた。
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