30-2.助けを求める(2)
エディスの提案を聞き終えたヒューは、すぐにエセルバートに相談すると言い、次の朝には許可をもぎ取ってきた。
エディスの方もエリオットに連絡を取っており、予定を聞いていた。いつものように軽く話をするだけというわけにもいかないので、兄がしっかりと時間を取れるタイミングを確認したかったのだ。
すると、今夜は時間が取れるという。というのも、今日はクルーズ子爵家が懇意にしている貴族家が、領地で療養していた娘の快癒祝いを行うとのことで、留守にしているのだという。
「エディス、今日は早めにあがれ」
「わかりました」
「事務仕事が終わったら、もうあがって。後は私がやっておくから」
「ありがとうございます、メイ」
朝礼で、この件はメイにも共有された。メイは、任せて、とにっこり笑う。
(提案が受け入れられてよかったわ。まったく関わりのない第三者に打ち明けるのは、抵抗があるかもしれないと思っていたけど……エセルバート殿下が柔軟な方でよかった)
エリオットがどこまで協力してくれるかはわからない。だが、エディスは信じていた。
(お兄様なら、きっと全面的に協力してくれるはずだわ。そして、協力してくれたら……これほど心強い味方はいない)
ロランド王国が絡んでいると想定される以上、ロランドの情報はできるだけ多く得たい。相手は魔導士だが、エリオットなら、おそらくそちらにも人脈を持っているだろう。
エリオットは、クルーズ子爵とは別に人脈を持っていた。爵位を継いだ後は、付き合いを一新するつもりなのだ。
エディスはいつも以上に気合を入れ、魔石番の仕事をこなしていく。ラータのためにも、できるだけ早く前進したい、そんな気持ちだった。
そして、超特急で仕事を終わらせ、後の仕事をメイに任せる。
「メイ、後はお願いします」
「任せて。お兄さんによろしくね」
「はい」
早あがりするエディスに、魔石獣たちが集まってくる。最近あまり甘えられていないランディに至っては、通せんぼをするように立ち塞がる。
『エディス、もう帰っちゃうのか?』
『ランディ、エディスにも事情があるのだろう』
『体調が悪いの? ゆっくり休むといいわ~』
『ほら、ランディ。いい加減にどきなさいよ』
「皆、エディスは大切な用事があるのよ。ランディ、道を空けてあげて」
メイの言葉に、ランディは勢いよく首を横に振る。
エディスは苦笑いを浮かべ、ランディの頭をワシャワシャと撫でた。
「いい子にして、ランディ。明日はちゃんと最後までお仕事するから」
『なんで今日は帰っちゃうんだ?』
「私にはお兄様がいてね、お兄様にね、ラータを探すためにお手伝いしてほしいって、今からお願いをしにいくのよ」
『そぉなの? エディスのおにーさまに? すごいわぁ!』
『そうだったのか。手が増えるのはいいことだな』
『聞いてもらえるよう、一生懸命お願いするのよ、エディス! ほら、ランディ!』
『ううう~……わかった。オレサマは、いい子だからな!』
渋々ながら、ランディが道を空ける。
エディスは皆に手を振って、寮へと帰っていった。
寮に戻り一息ついてから、ネックレスを手に取る。そして、石に向かって話しかけた。
「お兄様、今大丈夫ですか?」
「エディス、思ったより早かったな。僕の方も、ちょうど仕事が一段落したところだ」
エリオットからすぐに応答があり、驚いてしまった。昨夜連絡したばかりだったので、心づもりをしてくれていたようだ。
「よかった。実は……お兄様に、折り入ってお願いしたいことがあって……」
「構わないよ」
「え!?」
まだ用件も言っていないのに。
エディスが素っ頓狂な声をあげると、あちらから笑い声が聞こえてきた。
「他ならぬエディスからの頼みだ。できる範囲ではあるけれど、精一杯協力させてもらおう」
「お兄様……」
思ったとおり、エリオットはエディスの味方だった。有難すぎて、瞳が潤んでくる。
「ありがとう、お兄様」
「いいから。で、どういったお願いなんだ?」
「あのね……」
そこで、エディスは事の次第を事細かに説明した。エセルバートからは全て話していいと許可をもらっている。エディスが信頼する唯一の身内ということであれば、エセルバートも信頼しようということだった。
(本当に……エセルバート殿下は懐が深い。それは、ヒューにも言えることだけど)
前世では、上司や同僚に恵まれず、きつい仕事や面倒なことは全て丸投げされ、心身ともに疲れ果てていた。そして、結局過労で亡くなってしまった。
しかし、生まれ変わった今世ではどうだろう。比べ物にならないほど恵まれている。
(前世が酷すぎたから、きっと神様がご褒美をくれたのね)
の割に、家族から虐げられるというハードモードなことも経験したが、陰ながら味方になってくれる人がいたのだから、やはり恵まれているといえるだろう。