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29.思いやり

 ロランド王国の使節団が帰国する朝、エセルバートは昨夜言っていたとおり代表と魔導士のミック=シートン男爵を別室に呼び出し、ラータの話をした。

 代表は目を見開いて驚き、ミックは顔色を変えた。心当たりはないか尋ねたが、二人からは「ない」という回答しか得られなかった。

 また、ミックの魔力を照会させてほしいと願い出るが、それは個人で判断できないと断られる。

 魔導士はどの国でも貴重な存在として大切にされており、情報も秘匿されることがほとんどなので、いくら帝国でも無理強いはできなかった。実際、立場が逆でも答えは同じだ。


(証拠がなければ難しい……か)


 ラータの失踪に、ミックが関わっている可能性は極めて高い。

 魔石獣を捕らえられるのは、魔石番以外では魔導士くらいだろう。力で敵わなくても、魔法を使えば何とかなるからだ。それに、魔導士は転送が使える。

 捕らえた魔石獣を手元に置けば、誰かに見つかってしまう危険がある。秘密裏に移動させるなら、転送が最適だ。


(彼の独断だろうか。それとも、主犯が別にいる……?)


 どちらにしろ、確固たる証拠がない以上どうすることもできない。

 もどかしさを感じながらも、エセルバートは彼らを解放するしかなかった。


(だが、このままにはしない。必ず突き止めてやる)


 エセルバートはそんな思いを秘めつつ、使節団の帰国を見送ったのだった。

 そして、この話は魔石番全員に共有された。予想はしていたが、落胆は拭えない。エディスとメイは悔しさを滲ませ、肩を落とした。


(仕方がないわ。だって、追及しようにも証拠がないもの……。でも、このままじゃラータはきっと見つけられない)


 何とか気持ちを切り替えて仕事に向かうも、ラータのいない獣房がどうしても目に入ってしまい、気持ちが沈む。


『エディス! 今日もラータを探しに行こう!』

『見つかるまで探す。ラータはオレたちの仲間だ』

『ワタシ、今日は森から離れたところを飛んでみるわ~』

『そうね。アタシも森を離れてみようかしら』


 皆が口々にそう言うが、ことごとくヒューに却下された。自由時間に森の中を探すのは構わないが、出ることは許さないと。

 彼らはすぐには納得しなかったが、他の皆にも何かあれば大変だと言われたら引くしかない。ヒューの迫力には敵わないし、エディスとメイに必死にお願いされたら嫌とは言えないのだ。


『メイ~、わかったわ。だから、泣かないで』

『エディス! オレサマ、ちゃんといい子にしてるから!』

『……仕方ないな』

『そうね。アタシたちまで何かあっても困るものね。……わかったわ。ちゃんと言うことを聞くわよ』


 無茶をしないよう、エディスとメイは懸命に皆に言い聞かせた。

 メイは気持ちが入りすぎて涙を流しているし、エディスもいつもより覇気がなく、どこか弱々しい。こんな二人を前にして、魔石獣たちは我を通すことなどできるわけがなかった。

 彼らはとりあえず、自由時間は交代で森の中を探索することにした。一斉でないのは、二人を気遣ってのことだ。


『二対二で分かれよう。オレとイライジャ、ランディとドロシーでいいな』

『オレサマはそれでいいぞ!』

『探しに行かない方は、メイとエディスの側にいるってことね』

『いいと思うわ~。二人とも、どこか無理してるもの』

『エディスとメイが早く元気になるよう、ラータの手がかりを見つけるぞ!』

『おい、ヒューも忘れるなよ。ヒューだって心配しているはずだ』


 一方、魔石番の三人も、ラータの身を案じつつ、他の彼らができるだけいつもどおり過ごせるようにと苦心していた。


「今日の夕飯は、それぞれの好物を多めに出そう」

「はい。お肉をたくさん用意しますね」

「あと、この間のお休みにキイチゴを収穫したんです。たくさんあるので、それもどうでしょう?」

「ありがとう、メイ。助かる」

「いえいえ。エディス、ジャムも作るから手伝ってもらえる?」

「はい! 喜んで!」


 好きなもの、美味しいものを食べれば元気になる。それは、人も魔石獣も同じである。

 ラータのことが心配でたまらない。しかし、心配するだけではどうにもならないし、闇雲に動き回っても無駄なだけ。

 早く解決するには、健全な精神状態の上知恵を絞り、打開策を講じること──これしかない。


「それじゃ、夕食の準備をしましょう」

「はい。私、食糧庫に行ってきます」

「オレは、念のため魔石獣たちの様子を見てくる」


 三人は立ち上がり、各々の仕事に取り掛かるため動き出す。


(魔石獣の皆も、私たちに気を遣ってくれているのがわかる。……美味しいご飯を用意しなくちゃね)


 彼らはきっと、森中を駆けまわってラータを探している。お腹をすかせて帰ってくるだろう。

 エディスは腕まくりをし、よし、と気合を入れて、食糧庫から大きな肉塊を取り出した。

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