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26.リビーの欲望

 使節団が神域の森で視察をしている頃、リビーは皇宮を目指していた。


(ほんっと失礼しちゃうわ! せっかく魔石番? のことを勉強したっていうのに!)


 視察にそぐわないほど着飾り、意気揚々と使節団に加わった。そこでリビーの姿を見つけたヒューが、宣言どおりテストをしたのだ。結果、同行を断られてしまった。

 知識が足りないとのことだったが、そんなはずはない。リビーは食い下がったが、言い分が受け入れられることはなかった。

 リビーが行けないのならと、ヨランダも行くのをやめ、興味のなかったマレット伯爵夫人も帝都に残ることにする。そこで、皆で買い物や美味しいものでも食べに行こうと誘われたが、リビーは用があると言って別行動をしていた。


(きっと、お姉様がヒュー様に私の悪口をたくさん吹き込んだんだわ……。お姉様は性格が悪いのよ! 私がついてきたら、ヒュー様を取られると思ったのね。ロニー様も、あっという間に私に夢中になったもの。……それにしても、忌々しいったらないわ!)


 あの時、リビーがどんなに切なげに見つめても、ヒューの表情は一切変わらなかった。

 ロランド王国では、リビーに見つめられた男は彼女の虜になる。リビーの笑顔に彼らはときめき、悲しい顔をすれば彼女を慰め、その原因に対し憤る。それなのに──。


「どうしようもないわ。ヒュー様はお姉様に毒されてしまっている。これからも会うチャンスは少ないでしょうし、頑張るだけ時間の無駄ね。ヒュー様なんてもういらないわ。私のターゲットは、もっと上よ」


 独り言を呟きながら、リビーはいやらしい笑みを浮かべた。

 そして、彼女は目的地に辿り着く。


「ナイジェル殿下にお会いしたいの」


 皇宮の門番は、約束があるのかと尋ねてきた。だが、そんなものはない。

 当然、門番はリビーの要望は聞けないと答える。が、そんなことくらいで諦める彼女ではなかった。


「夜会でおっしゃっていたの。いつでも会いに来てって」

「それでも、お約束がないならお取次ぎはできません」

「そこをなんとかしてくださらない? ロランド王国に帰ってしまったら、次にいつお会いできるかわからないんですもの……」


 瞳を潤ませあざとく見上げると、門番は困り果てていた。

 どうあっても通さないという頑固な者もいるが、この門番はそうではないようだ。リビーはあともうひと押しとばかりに、門番に詰め寄った。


「お願いします! 私、どうしてもナイジェル殿下にもう一度お会いしたいのです……!」


 その時だった。リビーの目に飛び込んできたのは、側近に囲まれ歩いてるナイジェルの姿。

 彼女はこの幸運を掴むべく、なりふり構わず大声で叫んだ。


「ナイジェル殿下! 私、あなた様にお会いしたくて、ここまで来てしまいましたわ!」


 ナイジェルはリビーを見て、一瞬だけ眉を顰める。しかしすぐに気を取り直し、改めて彼女の顔を確認する。


(この令嬢は確か……新しく入った魔石番の妹だったか。夜会で大騒ぎしていた子だな。やたらと高位貴族の令息に媚びを売って、僕たち皇族にもすり寄ってきた。面倒だから適当にいなしたつもりだったけれど、まさか押しかけてくるとは思わなかったな)


 騒ぎを起こす前も後も、リビーはこれという男性にアプローチしまくっていた。皇族への挨拶の時も、あざとい態度で気を引こうと懸命だった。

 皇太子エセルバートと第二皇子ニコラスは、いっそ清々しいまでにスルーしていたが、ナイジェルだけは笑顔を向けたのだ。すると彼女は、ナイジェルにべったりと張り付いてきた。

 それを剥がすのには苦労した。その際、機会があれば皇宮へ来てもいいというようなことを言って場を凌いだのだが、本当に来るとは思わなかった。


(この手の女は、その場限りのことだとわかっていても、それを利用するんだよね……)


 煩わしいことこの上ない。そして、相手にする必要も全くない。

 しかし、こういう女は下手にずる賢く、底意地が悪い。自分の欲望に忠実すぎるが故、厄介事を引き起こす傾向が強い。


「危機回避も大事な仕事だよね」

「ナイジェル殿下?」

「いや。……いいよ、彼女を一番小さな客間に通して」

「ですが……」

「いいから。私が対応する」


 側近は心配しながらも、ナイジェルの意思を門番に伝えに行く。

 門を通されたリビーは、すぐさまナイジェルに駆け寄り、彼の目の前でカーテシーをした。そして、顔を上げる。


「ナイジェル殿下! すごくお会いしたかったですわ! 殿下にお会いできて私、とっても幸せです!」


 輝くような笑顔を見せるリビーに、ナイジェルも微笑みを返す。が、腹の中では違うことを考えていた。


(面を上げていいと言う前に上げるとは。それに、なんてぎこちないカーテシーなんだ。この令嬢の教育は、いったいどうなっているんだろう?)


 そんなことを思われているとも知らず、リビーは側近を押しのけるようにして、ナイジェルに身体を密着させるのだった。

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