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25-3.視察(3)

「魔石獣に認められるとは、具体的にはどういったことなのでしょう?」

「そうだな、それは知る必要がある」

「確かに。その基準を知りたい」


 他の者たちが口々にそう尋ねる。

 何も知らなければ、そういった疑問が出てくるのは当然である。

 エセルバートやヒューは、どう答えるのだろうか。エディスは興味津々で耳をそばたてた。


(実は、私もちょっと不思議に思ってたのよね……。認められるってなんなのかしら? 無条件に懐かれるってこと?)


 エディスは、出会った瞬間からランディに懐かれた。他の魔石獣たちとも、顔を合わせてすぐに打ち解けた。メイも似たようなものだと聞いている。

 しかしその答えは、エディスの考えているものとは違っていた。


「彼らと会話を交わすこと、です」

「ならば! エディスには不可能なはず!」


 ヒューの答えに、クルーズ子爵が異を唱える。その隣では、マレット伯爵とロニーも大きく頷いている。

 しかし、ヒューの表情はあくまで淡々としていた。


「魔力がないからでしょうか? 確かに、魔力がない者がブローチをつけていても意思疎通はできません。私以外の魔石番二人はどちらも魔力はありませんが、共通して言えるのは、魔石獣から彼女たちにアプローチしてきたということです。そして、魔力譲渡後は、問題なく会話ができました」

「魔力……譲渡?」

「おや、ご存じないですか?」


 使節団の皆は顔を合わせ、首を傾げている。が、魔導士だけは興奮してヒューに詰め寄った。


「できると書かれている書物を読んだことがあります。が、我が国では成功した者がおりません。本当に……できるのですね!」

「できますよ。ただ、習得には時間がかかります。それに、慣れないうちはかなりの魔力を持っていかれます」

「はぁ……なるほど。ですが、できるとわかった以上、私も習得できるよう努めたいと思います」


 この魔導士は研究熱心なようだ。まだ若いこともあるし、意欲があるのだろう。


(お兄様の話では、魔導士によっては今の地位に胡坐をかいてるだけってことだったけど、この人はそうじゃないみたい)


「先ほど、子爵以外の魔石番には魔力がない、とおっしゃっていましたが……エディス嬢ではないもう一人の方は、貴族ではないのですか?」


 また別の者が質問してくる。

 ヒューはそちらを向き、答えた。


「はい。平民です」

「平民でも魔石番になれると?」

「魔石番になる条件は、たった一つです。魔石獣に認められること。身分は関係ありません。そして、魔力の有無も」


 身分はともかく、魔力の有無も関係がないとは思わなかったのだろう。皆が驚愕している。

 そんな中、魔導士が再びヒューに問うた。


「我々の中で、魔石番になれる者はいますか?」


 その問いに、ヒューは魔石獣たちを振り返り、尋ねた。


「お前たち、どうだ?」


 すぐさま返事が返ってくる。彼らの声に、使節団の面々が思わず後退った。


『だめだだめだ! オレサマは認めない!』

『オレも認めない。全員不合格だ』

『そうね~、だめねぇ』

『ワタシも同じ! 認めないわ!』

『……アタシが答えるまでもないわね』


 言葉がわからなければ、威嚇されていると勘違いしても仕方がない。使節団の皆は、すっかり腰が引けてしまっていた。ただ、魔導士だけはその場を動かず、残念そうな顔をしている。


「我々の中にはいないのですね……。魔石獣を探すのも大変ですが、魔石番を見つけ出すのもかなり厳しそうです」


 その言葉に、エセルバートは首肯する。


「そうですね。我が国でさえ、私を入れてたったの四人。ハードルは高いですが、挑む価値はあると思います。ただ、一つだけ忠告しておきます」


 ひと呼吸おき、彼は真剣な表情でこう言った。


「魔石獣は神にも近い存在です。我ら人間の意のままにはならない。魔法で操ろうとしたり、ほぼ不可能ではありますが力で捻じ伏せようなど、ゆめゆめ考えないように。仮に彼らを従えられたとしても、魔石を生むことはないでしょう」


 使節団の面々は、神妙な面持ちで頷いた。

 だが、その中で一人、表には出さないが反発した者がいる。


(従えたこともないのに、どうしてわかるんだ? 所詮は獣、見つけたと同時に従えればいい。筆頭魔導士なら可能だろう。そうすれば、魔石番など必要ない。マドック帝国は、意外と非効率なことをする……。それに、魔石獣にしたって見つからなければ奪えばいい。体の小さな……そう、あの鼠くらいならなんとかなる)


 彼は、夢見ていた。自分の隣に並び立つ者は、美しい容姿であることが必須。だが、それと同じくらい、高貴な身分も必要だ。


 クルーズ子爵家は、ロランド王国で重用されている家だ。近々陞爵されるとの噂もあるが、マレット伯爵家とは比べるべくもない。鉱山の枯渇で苦しい立場となってしまったが、マレット家が名門であることに変わりはないのだ。なのに、格下の家から援助を受け、その家の娘を娶らねばならないときた。

 彼は、それを不服としていた。だが、どうせ娶るなら見目が良く、扱いやすい方がいい。そんな理由で、婚約者を姉から妹に乗り換えた。妹も乗り気で、ことあるごとに彼に色目を使ってきたのだ。お互い様である。


 しかし、魔石獣を使役することができれば、クルーズ子爵家との縁などもう必要ない。再びマレット伯爵家が王家に重用され、返り咲く。そうなれば、より高い身分の令嬢も望めるはず。そして陞爵され、侯爵まで上り詰める──。


(万が一魔石獣を使役できなくても、魔石番がいれば問題ない。その時は、エディスを連れ戻せばいいんだ。第二夫人にしてやるとでも言えばついてくる。婚約破棄した時も表情一つ変えなかったが、出奔するほど辛かったんだろう? なら、甘い顔をしてやればいい。リビーは……適当なところで捨てるか)


 ロニー=マレットは、ニタリと怪しい笑みを浮かべるのだった。

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