25-2.視察(2)
エセルバートに続いて、使節団が獣舎の中に入ってくる。
ヒューはいち早く前に進み出て、魔石獣たちに声をかけていった。エディスとメイもそれを補佐する。
これほどの数の見知らぬ人間を目の当たりにするのだ。魔石獣たちが興奮したり怯えないよう、エディスとメイも彼らのすぐ側で待機した。
「うわぁ!」
驚きと怯えのせいか、思わず声をあげてしまった者がいた。
「……っ」
しかし、エセルバートのひと睨みで、瞬時に口を閉ざす。
(あれだけ脅されたのに、声をあげるってどういうことよ……情けない)
声をあげたのは、ロニーだった。おそらく、ランディを見て叫んでしまったのだろう。
というのも、エディスは今、ランディの側にいたからだ。ロニーは視察の間、何故かずっとエディスの姿を追っていた。
『なんだ、あいつ』
「よかった。驚いてないみたいね」
『あんなへなちょこ、大声出しても怖くない』
使節団の面々は、それなりに魔力がある者がほとんどだ。魔石番のブローチがあれば、魔石獣の言葉がわかってしまう。彼らには絶対にこのブローチは渡せないな、とエディスは思った。
「金の獅子がランディ、ここのリーダーです。そして、向かいにいる銀の狼がウォルフ、その隣の銀灰の鼠は、ラータ。その向かいは、黒梟のドロシー、その隣が、最近仲間になった白蛇のイライジャです」
その説明に、使節団の一人が質問する。
「最近? この白蛇の魔石獣は、最近見つかったということですか?」
「はい、そうです。彼女は、仲間を求めてここまでやって来たそうです」
「まるで、魔石獣から話を聞いたみたいですね」
「そのとおりですよ」
「えっ?」
「魔石獣は人の言葉を理解し、話せます」
「そ、それは存じておりましたが……まさか、本当に……」
彼は、知識としては知っていたが、半信半疑だったのだろう。獣と意思疎通ができるなど、普通は考えられない。
魔石獣は同じ獣でも、人間並みの知能を持つ。彼ら今、初めてそれを実感した。
「あの……どうやって意思疎通をするのでしょうか?」
別の者が問う。
それについては、ヒューが回答した。
「魔石番には、このブローチが支給されます。このブローチは魔道具で、魔力のある人間が身につけると、魔石獣と意思疎通ができるのです」
「おぉ、それは素晴らしいですね!」
使節団の皆々が騒めき出す。
これくらいなら許容範囲内なので、ヒューもエセルバートも何も言わない。魔石獣たちも彼らの力の程を把握できたのか、落ち着いていた。
「あの! 私もぜひ、魔石獣と会話をしてみたいのですが……!」
そう言って一歩前に進み出たのは、使節団の中でも比較的若い、ロニーと同年代くらいの人物だった。
ヒューは彼を見て、ほんの僅か目を細める。
「……魔導士の方ですか?」
「はい。よくおわかりですね」
「魔力量が、他の方とは桁違いでしたので」
ヒューの言葉に、皆が驚いた。見ただけで相手の魔力量がわかる者など、滅多にいないからだ。
「さすがは緑手の持ち主……そんなことまでわかるのですね」
ロランド王国ではほとんど知られていない緑手についてだが、魔導士はその限りではない。というのも、緑手の持ち主は、かなりの魔力量を有していると言われている。当然能力も高い。
魔導士になれるほどの魔力量と才能に恵まれている者なら、希少な素材も生み出せ、特級エリクサーを作ることもできるその能力に焦がれない者はいないだろう。
「魔石番のブローチを試していただきたいのはやまやまですが、これは、魔石獣に認められた者のみが身につけられる魔道具です。貴国でも魔石獣を発見し、且つ、認められた方が現れた際にはお譲りすることも可能ですが、現時点ではご容赦ください」
魔導士の求めに対し、エセルバートが否と答える。
彼は諦めきれないという顔をするが、おとなしく引き下がるしかなかった。